Music Video 傍観のサブマリン、シュールなコラージュ

モニターだかミラーだか信号機のようなものにうつった、右から左に流れて歩いていく群衆。ブルドック犬? が座っていますね。英国旗? を背中にまとっています。

墓石の上端の半弧のカーブに沿ってチンアナゴのような物体が移動。姿を現すと黄色い潜水艇。イエロー・サブマリンですね。左から右へ空を漂って進んでいきます。

西洋風の集合住宅のような建物の上をゆくイエロー・サブマリン。まっすぐに紫煙を立ち昇らせる葉巻をくわえた男性の目線は天に寄っており白目が目立ちます。

鳥か虫のように空中をひるがえる葉っぱがサブマリンと戯れるかのよう。右端にめがねにカイゼル髭風の男性のコラージュ。

赤く着彩された電話ボックスの中には体を左右に降り単純な動きを反復するネクタイの男性のコラージュ。手前の猿のお化けのような石像が気になります。階段を上った向こうの奥を黄色い潜水艇がよぎっていきます。

正午を指さんとする腕時計、「NEWS ROOM」の表札。奥にビル。新聞社なのでしょうか。建物の上層階の窓に男性のコラージュ。そんなところに立たれるとヒヤヒヤします。10個の窓にコピペされた猫撫でのモーション。

緑のグラウンドに密集したサッカー・プレイヤーら。ウォーム・アップ風の動きです。青のユニフォームの集団の中央付近の人物の顔はポールに見えます。右にパンすると赤のユニフォームのチーム。真面目にやっているように見えないのが可笑しい。すべてを観察するかのように相変わらずイエロー・サブマリンが最奥をよぎっていきます。

紳士の登場人物が多かったですがここで帽子を身につけた婦人2人のカット。化粧箱からお菓子を延々とつまむモーションの反復。茶もすすらずに咽せませんか。

路上に向かい合った犬とバルド・ヘアの男性の組み合わせ。男性は犬に向かってかがみ、犬は男性に向かって跳ね上がろうとするモーションです。背景にレンガ風の建物。被写体を右に寄せたレイアウトが視線にストレッチを与えます。建物の端から向こうの空をサブマリンが行くのが見えます。

動物やスカルをモチーフにした派手な柄のヘルメットの男性。ゴーグルも着けています。目元にうごめくのは涙か。ここでは空ではなく男性のゴーグルにサブマリンが映り込みます。

石畳の地面をなめるように黄色い物体がむこうからこちらに寄ってきます。ずっと背景をよぎってきた黄色いそれがここでは主たる被写体に。アヒルの嘴を正面から見たような色とフォルムです。

軒先に立った女性が抱えるのは金魚鉢? 鉢の表面に徐々に映り込むのはイエローサブマリンでしょうか。鉢が不審に震え出し女性は視線を落とし俯きます。鉢に何が起きたのでしょう。

通りに立つ傘をさした群衆。こうもりにも似た黒いシルエットが画面を占める強いカットです。複数のレイヤーでパンのスピードを変え、手前・中ほど・奥を表現しています。

左右方向のパンにクロスするのは天地方向のパン。上へのカメラワークです。道路標識の密集。上や奥をさす青地に白抜きの矢印。シカ注意やその他の危険を示す三角形の白地に赤枠の標識。埋もれた駐車禁止が孤独です。奥にそびえる建物のてっぺんにはふくらみをつけて頂上をすぼめた八角錐。花の造形をさかさまにしたような意匠。かたわらに極彩色の蝶の羽を背中に生やした男性がひざに肘をついて座っています。暗転してフィニッシュ。

静止画と単純な動きをつけたコマ送りアニメを組み合わせたシュールなコラージュ。ちょっと無情でことば遊び(押韻)の効いた歌詞の世界を引き立てます。イエロー・サブマリンを傍観者にずっと横の動線を中心にしたカット運びに対し、エンディングの見上げるパンが異彩。これから何かはじまるような不穏と焦燥をかきたて、鑑賞後に余韻します。

曲について

The Beatlesのシングル(『Yellow Submarine』との両A面)、アルバム『Revolver』(1966)に収録。作詞・作曲:Lennon-McCartney。曲を発想したのはポールで、歌い出し付近のラインからひろげていったようです。それ以外の大部分の歌詞を書いたのが誰かは異なる主張が混在するよう。ジョージやリンゴのアイディアも含まれているといいます。

The Beatles『Eleanor Rigby』を聴く

『Yellow Submarine Songtrack』収録版

ボーカルと弦楽のみでビートもハーモニーも旋律も表現した革新の詩とロック。

ぶあついボーカルハーモニー、響く低音弦のアルコ。ヴァースはダウンビートの刻みです。折り返しから高音弦がオルタイネイト。ブリッジで高音弦がダウンビート、内声・低音はロングブレスのアルコです。歌のすきまにヴァイオリンやチェロがフィルイン。後半は動きが熾烈になってくる印象。ボーカルにくっついて低音弦がモチーフをユニゾンしたり。

左のほうに高音弦、右に低音弦、中央にボーカルの定位。ボーカルダブはやや左とやや右に個を識別できる程度の輪郭で振ってある感じです。

エンディング付近の中央のメインボーカル“All the lonely people…”にカブってくる“Ah, look at all the lonely people”は両側にダブっている? わずかに右から先に聴こえる気もします。潤いと艶やかさが感じられてこの『Yellow Submarine Songtrack』収録版が私は好きです。

『Revolver』収録、2009 Remaster

出だしから左寄りのボーカルがちょっと歪んで潰れている感じがします。ドアタマのブロックを消化したあとのヴァースで急いでメインボーカルの定位を手動で右に移動させたのでしょうか。“All the lonely people”でまた急いで中央に飛んで戻ってくる。密着したインナーヘッドホンで聴きましたがちょっと不自然な感じです。エンディング付近の右のメインボーカルにカブってくる“Ah, look at all the lonely people”ははっきり左に振ってあります。オリジナルというべきなのはこの版なのかな? 荒削りな感じといえばそうです。

『1』収録、2015 Stereo Mix

各パートの分離がよく輪郭もよりくっきりしています。複数の弦の個体すら認識できそう。エンディング付近の右のボーカルにカブってくる“Ah, look at all the lonely people”は左に振ってあり『Revolver(2009 Remaster)』収録版を踏襲している感じです。『Yellow Submarine Songtrack』収録版と『Revolver』収録版のいいとこどりをして輪郭を極限まで出した感じです。

ふしぎな旋律 ドリアン? エオリアン?

うたいだしのコーラスのつぎにあらわれるヴァース、“Eleanor Rigby Picks up the rice in the church where a wedding has been” “Lives in a dream” のところにご注目(ご注耳)ください。ドにシャープがついている。

曲はEマイナー調。ドはEマイナー調でシックス、6番目の音です。これにシャープがつくマイナー系モード(旋法)はドリアンです。

ところが、“Lives in a dream”(上図中二段目)と歌うところですぐさまシャープをやめてしまう。ここにでてくる「ド」はナチュラル(シャープなし)です。

だから、ここのメロディにうんちく垂れると、「ドリアンとエオリアンをザッピングしたみたいな旋律」なのです。

食いの反復

うんちくはまあ置いといて、“Picks up the rice…”のところにいまいちど注目してください。おなじ谷形の音形を3度繰り返しながら下行していっています。それも、8分音符1個ぶん食ったリズムを波状に重ねてスリルを与えています。

ここの「食い」の部分にさまざまな引っ掛かりのある単語が来ます。Rice, Church, Wedding……以降のコーラスにも視野を広げるとJar, Door, Sermon, Socks, Buried, Dirt, Graves など。「食い」のリズムで単語に初速と鋭さをあたえていて聴き手に刺さるのです。

組み合わせもうまいし、マッケンジー神父が誰も聴きやしない説教の文言を書く……とか、手の汚れをぬぐいながら墓場から歩いてくる……とか、意味ありげな前後関係のあるお話にもなっています。さまざまな寓意を見出せそうな歌詞です。

Father Mckenzie(ファーザー・マッケンジー) ≒ ハザマケンジ? 

空耳の世界遺産です。ほんとにそうとしか聴こえなくなる。「マッケンジー」の部分は当初「マッカートニー」だったそうです。ポールが自分の父親を想起させるため「マッケンジー」にしたとか。意図しない日本人ウケを誘った絶妙な空耳ライン。余計なイメージ(メンバーの実の父)を削ぐための作詞上のブラッシュアップだったかもしれませんが、音の響きや韻律に関わる取捨選択にほかなりません。空耳を招く気持ち良さやおかしみは、音楽の魅力と符号すると思いませんか。

Em7→Em6→Em#5→Em (ⅶ→ⅶ♭→ⅵ→ⅴ)

繰り返しあらわれる“All the lonely people…”と歌うところで内声(ヴィオラでしょうか?)がカウンターするラインが奇麗です。「ミソシレ」の和音(Em7)の「レ」から、「レ→レ♭→ド→シ」と下行していきます。レ♭のところでコードがm6(マイナーシックス)になるところ、「ド」で根音との関係が増5度になり歌メロ(シ)とぶつかって不安定になる(一瞬ですが)ところ、それがⅴに落ち着くところなんか最高。

“Where do they all come from?”“they”を歌う瞬間(上図下段1小節目・2拍目)はヴィオラのカウンターライン(ド)と歌メロ(シ)がぶつかります。たった一瞬ですが、上のミから下行跳躍で至る「シ」なので歌ってみるとかなり取りづらい不安定な音程です(一瞬「ド」を装飾音で引っ掛けてからとっているようにも聴こえます)。

2回目の“All the lonely people”のあとに続く“Where do they all belong?”は短10度に至る大跳躍。そのあとのポジショニングが1回目とやや違います。こちらもやはり跳躍が大きく、伴奏の不協和音と相まって歌いづらい音程です。

着地先が不安定な跳躍を気持ちの良いブルージーなトーンで歌いこなすポール・マッカートニーに感服です。以前このブログの記事で扱ったことのある『Tow Of Us』(アルバム『Let It Be』収録曲)も、かなり着地先のむずかしい音程の跳躍を含んでいたのを思い出します。

ゴーギャン?

“All the lonely people Where do they all come from?”
“All the lonely people Where do they all belong?”

(The Beatles『Eleanor Rigby』より、作詞・作曲:Lennon-McCartney)

寂しい人らよ、どこから来たのか。かの人らよ、どこに至るというのか。

そんな問いでしょうか。哲学談義を招きそうなラインです。酒と暖炉と座り心地の良い椅子と潤沢な時間さえあればいくらでもお付き合いしたい。ポール・ゴーギャンの作品に似た感じの長い問いかけのタイトルを持つ絵画がありましたね。

まとめのひとこと 後記にかえて

シュールな歌詞の世界の手ざわりは硬質。哲学の問いのようでもあります。弦楽器のストロークやカウンターラインが奇麗。ボーカルと同時に横に流れ、ときに縦の線で不和を起こします。不協を背景に跳躍の歌唱は高度。空耳のおかしみは音楽の魅力に符合します。

青沼詩郎

The Beatles(ユニバーサル・ミュージック)サイトへのリンク

『Eleanor Rigby』を収録したThe Beatlesの『Revolver』(1966)。

『Eleanor Rigby』を収録した『Yellow Submarine Songtrack』(1999)。全曲、オリジナルからのリミックスがほどこされたものだそうです。

『Eleanor Rigby』を収録した『ザ・ビートルズ 1』。最初の発売は2000年。2015年版はジャイルズ・マーチンによるリミックス(この記事の中で話題にしたものです)、映像付き。

ご笑覧ください 拙演