映像

岩崎宏美とオケとコーラス

管弦楽が壮麗。ポップスのアプローチ……「うたのおねえさん」くらいのあんばいの発声に親近感。コーラス隊の数ときたら!「おおわがやどよ」のところは「ン、チャッチャッチャ……」とかろやかな曲想にした編曲ですね。その直後の結びのラインはコーラス対との重唱。2コーラス目は映像でもコーラス隊をじっくりみせます。「おおわがやどよ」……フルート活躍です。深く礼をし、コーラス隊への敬意を右手でかろやかに示しつつ去っていく岩崎宏美。コンパクトなサイズの民謡をこのアンサンブルではなかなか聴けません。お宝のようなセッションですね。

森 麻季 ピアノ伴奏で 転調を重ねて、原語・日本語両方で

静謐なピアノの伴奏。洒脱でクラシカル。原語です。子音、母音、ビブラートの順のまとまりで一句一句を朗々と響かせていきます。結びの句はフェイク気味にハイトーン。技巧がみえます。転調。……だけかと思ったら2コーラス目は日本語。身振り手振り、表情がたっぷりつきました。そして日本語で2コーラス目に突入、また転調。Aメージャーです。結びは心もトーンも落ち着けてきます。

転調が気になったのでもう一度聴いてみます。

Eメージャーではじまる。原語。「Sweet Sweet…」のところで半音進行のメロディにしているのがオシャレです。

→E♭コードをドミナントにして、A♭メージャー調に突入。日本語です。両手をいっぱいにひろげて手のひらを天にむけて歌います。サンタさんが背負った巨大なおもちゃぶくろを抱えるようなポーズです。

→EメージャーコードをドミナントにAメージャー調へ突入。日本語歌詞の2コーラス目です。いっぱいにひらいていた手はしばし閉じ、高音域でまたひらいてみせます。「おおわがやどよ」のあとの結びの句に入るあたりでは、まるで足の裏から大地のエネルギーを吸い上げるかのような堂々たる発露。「質素で素朴な我が家」が主題の歌にしては、絢爛優美になりました。質素・素朴こそがホントの贅沢なんじゃないかなと気づきます。本当の豊かさってなんなんでしょう。埴(土)の剥き出しのお家に生まれたり育ったり暮らしたりする人生に己を重ねてみたくなります。

NHK東京児童合唱団

ハープのアルペジオにのって、穏やかなフルートの前奏。児童合唱ですね。ベースがピツィカートから「おおわがやどよ」のところでアルコへ。間奏は高音弦のメロディにマリンバのトレモロです(……これこれ!)。はずさないアレンジ。2コーラス目は各声部の綾が豊かになってきますね。「おおわがやどよ」のところで曲想が変わる。テンポを落として穏やかに平静にきかせる。宿を思う気持ちを聴き手にも演じ手にも与える標想ではないでしょうか。澄み渡る合唱と主題にふさわしい編曲です。

ザ・スコラーズ

ピアニッシシシモ! なイントロダクションが見事です。ソプラノのソロではじまります。コーラスは「ん〜〜」という感じ。音域が高くなるあたりでコーラスも「アーー」とひらいた音色をつかいます。「Home Home …」のあたりでまた「hum~」とクローズドな響き。2コーラス目の高音域のところはコーラスの芯もつよくなります。聴き手の感情、高まります。2コーラス目の「Home, Home…」のところは特にテンポをゆったりさせて穏やかに、やさしく問い掛けるように。4声体をうつくしく現代に響かせる名グループだと思います。

曲について


作詞:里見 義、作曲:Henry Rowley Bishop(ヘンリー・ローリー・ビショップ)。 英語の原詞の作詞者はJohn Howard Payne(ジョン・ハワード・ペイン)。曲名は『Home! Sweet Home!』(『ホーム・スイート・ホーム』、『楽しき我が家』)。 1823年にオペラ『Clari, Maid of Milan(ミラノの乙女クラリ)』で発表。 日本語詞版は1889年『中等唱歌集』(東京音楽学校)に掲載。

後記

劇(オペラ)の中の歌なのですよね。主題がブレていない。質素でも我が家は豊か!そんなシンプルなメッセージ。劇のワンシーンを意識して書いたからこそ、この素朴にして洗練の曲が生まれたのかもしれません。

豊かさってなんなのかって思いますよね。資源や労働力を湯水のようにつかって頂点に立つことではない。そう思って私は生きている気がしますが、私が感じるそのあたりに多くの人が共感しうる。そんな主題をもった曲ではないでしょうか。

映画『ビルマの竪琴』では、この歌が日本軍とイギリス軍の隊どうしの戦闘の手をとめ、両隊を合唱にいたらしめるんだそうです(未視聴)。それはまぁフィクションにおける演出だとあえて言った上で付け加えます。ふるさとの質素な生活、楽ではないにせよ、多くの人が経験しているであろうそれは普遍なのです。土地がちがっても、時代がちがっても、つつましく、がんばって生きている。空はどこでも見上げればそこにある。立つその場所が、高価で貴重な石が敷き詰められた宮殿であろうと、ぬりたくって固めた土が露出して草木にかこまれたみすぼらしい民家の前、あるいは窓の下だろうが、花鳥風月のうつくしさ・いとおしさには関係がないのです。

別に「頂点で過ごしたい」という志向を嗜めるつもりもありません。目標や向上心は人生を豊かにしうる。同一の夢をすべての人が叶えることはできない。頂点は、ひとつだからこそ「点」なのです。この歌は、「面」の歌。あるいは「立体」でしょうかね。そこに私もいます。

青沼詩郎

参考サイト

世界の民謡・童謡 > 埴生の宿 Home, Sweet Home

Wikipedia > 埴生の宿

ザ・スコラーズによる『ホーム・スイート・ホーム(埴生の宿)』を収録した『庭の千草~なつかしきイギリス民謡』

NHK東京放送児童合唱団による『埴生の宿』を収録した『母が好きだった歌〈童謡・抒情歌・はやり唄〉~明治・大正生まれの母を思い出す~』

ご笑覧ください 拙演