どこで歌っているの? と思ったらこれはスタジオ? 落ち葉でいっぱいにした地面に樹木のイミテーション。すごいセットに気をとられて歌から意識がそれてしまいます。葉っぱのあいだからカメラワークがとらえる山口百恵は最小限の挙動で美しい姿勢を保って、ウェットな歌唱。2サビは惚れ惚れする堂々とした高らかな歌声です。エンディング付近もまた、枝や葉の向こうに彼女をとらえるアングルと構図。斬新ですが、ちょっと枝を払ってやりたくなります……。

曲について

国鉄のキャンペーンソングとして制作されました。山口百恵のシングル曲で、アルバム『曼珠沙華』(1978)に収録。作詞・作曲:谷村新司。編曲は川口真で、私の好みでいうと『ドリフのピンポンパン』を編曲した人です。

山口百恵『いい日旅立ち』(1978)リスニング・メモ

お琴のサンプリング音のような幕開け。ディレイ(こだま)がかかっています。このトーンはBメロのおしり付近での上行フレーズなど、ちょいちょい出てきますね。楽器の仲間として構造上お琴と近いハープも用いられていて、こちらはエンディングで絢爛にかき回します。

イントロでトランペットが情感たっぷりに歌います。間奏もソロですが、約半分でストリングスにバトンパス。

ストリングスは高音パート中心でしょうか。サビに入る時の細かい連符のまくし上げで盛り上げたり、長い音符を描き込みます。

アコースティックギター。やや右寄りから左に向かって残響が広がる感じです。低音豊かでサウンドの核といってよさそうです。ヒラ歌では8分音符でアルペジオ。サビでは要所に16分音符を混ぜてさりげなく変化と妙味を出しています。

ベースが非常に奥ゆかしいです。アコースティック・ギターのダイナミクスレンジが広く低域も効いているので、ストロークパターンが簡素なヒラ歌ではアコギとストロークが重なってわかりずらいほどです。ときおりフィルインで変化のある動きをしたり、サビで4分音符の刻みをしだしたりするところで「あ、ベース(いますね)」と目立ってくる感じです。奥ゆかしいですが、要所でさりげなくおいしいオカズをいれています。聴き慣れるとちゃんといるのがわかります。私のイヤホンのせいも大きいと思うので、でっかいスピーカーで一度聴いてみたいですね。

ドラムス。私、この演奏が非常に好みです。ハイハット芸が細かく惚れ惚れします。ダイナミクスレンジ、トーンの表情付けのコントロールが効いていて、歌を引き立てているのですが歌と同じくらい私の心を持っていきます。ヒラ歌ではスネアをリムで。バスドラを1拍目と2拍目裏に入れるパターンですが、Aメロ5小節目からは1・3拍目オモテに打点。パターンによる変化づけも巧みです。サビ(Bメロ)ではキック4つ打ちパターンになります。間奏では8分音符2発で1・3拍目を埋めるパターンでビートをドライブ。全体にわたって、針の穴に糸を通すような精度。余韻の短いミュートの効いたトーンです。

クラヴェス(拍子木)が、Aメロが戻ってきたところで「ケッ、ケッ」と2拍目表と3拍目ウラに鳴り、ドラムスのベーシックリズムに彩りを添えます。

コーラスがBメロ(サビ)でさりげなく「ウー」「フー」といった感じで奥行きを演出。

感想など

国民的スターが「日本のどこかに私を待ってる人がいる」と言ったら、そりゃそうね、歓迎する人は多そうだと思いますが無名の私を誰が待ってんねん! というのは私の率直な感想のひとつ。ですが、これは未来の出会いのことを言っていて、何も私が有名人である必要など当然ないのです。旅に出れば、私と出会うかもしれない、その可能性を持つ人が全国にいるよ、と。そんなことを思わせるメッセージを持った、ソングライティングのお手本のような曲。キャンペーンの趣旨にも沿った内容の歌詞、美しいメロディと山口百恵のずば抜けた歌唱で知られる名曲ではないでしょうか。

青沼詩郎

谷村新司 公式サイトへのリンク

『いい日旅立ち』を収録した山口百恵のアルバム『曼珠沙華』(1978)

『いい日旅立ち』を収録した山口百恵の『GOLDEN☆BEST 山口百恵 コンプリート・シングルコレクション』

作詞・作曲者:谷村新司の『いい日旅立ち』を収録した『抱擁‐SATIN ROSE‐』(1984)。こちらのアレンジ・谷村新司の歌唱も抜群に良かったです。ストリングスのメランコリックがすごい。

ご笑覧ください 拙演