The Prisonaires

作詞・作曲:Johnny Bragg、Robert Riley。1952年に書かれ、The Prisonairesが録音、発表。

これは気持ちがよい。ギター1本の伴奏。ガットかナイロンの弦のポロンと優美な音色です。

メインのボーカルがたいへん器用に幅広い音域を歌い分けます。伸ばした音の揺らし方も綿密。ハーモニーのボーカルが低いところとメインボーカルの近くの音域に線を描き込みます。それでも余白が多い。個々のボーカルの線のニュアンス、その周りの空気まで伝わってくる……ルームアンビエンスを感じます。そこそこコンパクトな部屋鳴りの印象です。どこで録ったのでしょう。

英語のWikipediaサイトをつたない読解力でみるに、The Prisonairesはその名のとおり、囚人のグループだそうです。曲を書いたJohnny Braggも囚人でそのメンバー。Johnny Braggが読み書きの能力がないために、書き記したのが連名のRobert Riley、ということのようです。

リードボーカルの綿密な声の持ち主がJohnny Braggなのでしょうか? The Prisonairesはラジオ・プロデューサーに見出されたような記述がWikipediaにあります。囚人に、たいしたパフォーマンスをする奴がいるんだよ!とふれこんだら、関心を持って聴いてくれる人もいそうなものです。あれがありならこれもあり!と言わんばかりに、注目を集めそうなものに対するメディアやその制作者の貪欲な商魂たくましさ、あるいはそれを受容する世間の好奇の目の存在を思わせます。

Johnnie Ray

Johnnie Rayのカバー(1956)が有名か。

Johnnie Rayバージョン。これ、好きです。ボーカルのウェット感がすごい。びっしょびっしょの路面を思わせる……は言い過ぎかもしれません。濡れてキラキラ輝く路面を思わせます。口笛が高らかでお風呂のよう。あいの手のバックグラウンドボーカルのウェット感(残響)は少なめに感じます。ぽろぽろと、伴奏はガット弦あるいはナイロン弦ギターのそれですね。

Johnnie Rayバージョンは途中で転調します。The Prisonairesのそれと、かなり違う印象です。作業しながら聞き流していたら、連続して音源がプレイされても同じ曲が続いたと気づかないかもしれません。

囚人が書いたという、楽曲の外の情報を知ってしまうとなんだか、想像しうる収監されることの鬱屈や抑圧が、楽曲のカタルシスをより増長して感じられるから私もゲンキンなものです。どちらかというと、楽曲の外側の周辺情報は「それはそれ」と線を引く鑑賞のしかたをすることが多いのが私だ、という自覚でいたのですが……。

個々の楽曲も、おのおののリスナーが価値やストーリーを外側からぺたぺたとくっつけ、「盛って」楽しむのが世の常なのかもしれません。どちらかというと、楽曲それ自体が純粋に持つ表現の奥行きを味わい、解釈を深めようとするほうが「音楽の虜」がやりがちな鑑賞法なのかもしれません。私も一端の音楽の虜……Prisoner(囚人)でいる気でいたのですが、まだまだぜんぜん「シャバの人」くらいなのかもしれません。

青沼詩郎

参考Wikipedia>Just Walkin’ in the Rain

参考Wikipedia>The Prisonaires

The Prisonaires『Just Walkin’ in the Rain』を収録した『Just walkin’ in the rain by PRISONAIRES』

Johnnie Ray『Just Walkin’ in the Rain』を収録した『Just Walkin’ in the Rain』

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Just Walkin’ in the Rain ギター弾き語り』)