風の子守歌』は私が池袋の音楽大学の学生だった頃に知った。

知識も何もなくて、師事している先生の提案にあやかった選曲のもとに学ぶことが多かった。今でも知識はないが、自分でもっと積極的にレパートリーの蒐集や学習に励めば良かった。当時はとにかく実技を磨くことばかりに意識があった(その意識・意義がいかに狭かったか)。音楽の世界の広がりやつながりの魅力をなんにも知らなかったと思う。今でも知らないが。当時はその余裕もなかった。今でもないが…。

池辺晋一郎作曲、別役実作詞。

池辺晋一郎氏は私の通った音楽大学の先生。水戸のご出身とのこと。詩がお好きとのことで、詩から着想した歌をたくさん作っていて合唱曲も多い。しがない作曲家だからないものねだりで詩が好きとおっしゃっている。本物が言うとちゃんと冗談になる。(私も自分の本名が詩郎なので、「しがない」に「詩がない」を掛けた洒落は考え至ったことがある。勝手に共感するが、おそらく本当に「しがない」のは私のほうでは…いえ、もちろん、貴賤も格差もない同じ人間ですけれど。)

別役実は劇作家。ただでさえものを知らない私だが、それにしてもさらに存じ上げなかった(失礼)。昨年3月にご逝去されている。宮沢賢治をとても尊敬した人らしい。イラストレーターの娘さんがいる。「ホクロソーセージ」という習作(戯曲)があるらしく、ホクロのある奥さんを殺した肉屋の主人が遺体をソーセージにしてしまうがホクロが見つかり殺害を疑われるというような話らしい。なんてブラックでホラーな話。気分を害されたら申し訳ない。放送業界作品の脚本をされるとかでも活躍しており、その幅広さと発想のユニークさ、柔軟さを言いたかった。

風の子守歌

シックスの音を含めたピアノ伴奏のイントロがなんとも風流。童謡や愛唱歌に多いメロ+サビ的なシンプルなab構成の歌。軽やかで風のように動きがあって流れゆく。いつもそこにあるのにひとつとしておなじもののない自然現象、「風」をモチーフにしている。それが私にもたらすものは、まるで「子守唄」のようなものかもしれない。そんなことを思わせる歌詞。サビのⅣmの響きがいい。歌メロディに短和音の個性を決める音を持たせているからその特徴が表面に出ている。直前のⅣコードのところから順次進行(短2度進行)でメロディを導いているから、とても滑らかなのにちゃんと「表情」のところで響きの性格が変わる。サビの“あのひのしあわせと”の「」のところである。跳躍、同音連打、弱起を前にはみ出させるサビ前半弱起を後ろにずらしたサビ後半が対になっている。短2度の刺繍音の解決からすぐさま跳躍。

跳躍は、むやみに多用すると単純に歌いづらくなる。でもうまく入ると、あか抜けておしゃれな印象になる。『風の子守歌』は児童合唱版もあるよう。印象的な響き・進行がほどよく含められていつつ、音取りはそれほど困難じゃない。第三者目先で語る歌詞で、しがなくても詩がある。妙味あって爽やかな佳作。さらりと風のように歌いたい。

青沼詩郎

東京大学混声合唱団コール・ユリゼンによる『風の子守歌』

岸部シローによる歌唱(1976)。「みんなのうた」版がこれか。

『Little by Little 池辺晋一郎自作自演合唱曲集』より、『風の子守歌』

CD『池辺晋一郎児童合唱曲集 風の子守歌』

ご笑覧ください 拙カバー

青沼詩郎Facebookより
“『風の子守唄』
私が音大生だった時に知った曲。軽妙な曲調とボリュームではあるのだけれど、さらっと達観した言葉を歌ってもいる。大人びているんだけど押し付けがましくなく、えばり散らさない。知性と称したい。
作詞:別役実 作曲:池辺晋一郎
1976年12月〜1977年1月、NHK『みんなのうた』で岸部シローによる歌唱が放送された。
池辺晋一郎は私の通った大学の先生でもあった。別役実に関しては無知だったけど、劇作家で昨年までご存命だった。宮沢賢治を尊敬している人だったそうで、関連作の脚本を担当したこともあったよう。
『風の子守唄』は合唱曲として親しまれていることが多そう。みんなのうたのために作曲されてあとから合唱用に編曲されたのか?”