作詞・作曲・編曲:池田貴史。レキシのアルバム『レキツ』(2011)に『きらきら武士 feat.Deyonná』として収録。

フェードアウトで約4分、これほど長いのか短いのかワカンナイ曲も稀有。オワンナイでくれ!と個人的には思います。エンディングでイケイケなオルガンソロがクワァーっと弱起で入ってきます。私の体感としては、たとえばこれがまだ2コーラス目の後の間奏くらいで、ここからまだ次のコーラスがリフレインするくらいの期待感が胸に残ります。

サウンド、アレンジの良さが冴え、澄み渡ります。ギター・ベース・ドラムス・キーボード(ピアノ)にメインボーカル2本。主要なキャラのみで楽曲の重要な要素をやりきっているコンパクトさがある他方、2本のメインボーカルが重なって字ハモしたり、一人がダブったりして、オシャンなR&Bやソウルみたいな可憐で息遣いの近いボーカルの洗練されたニュアンスが出ています。

コンパクトなバンドの演奏で主要な骨子をやりきっている潔さがあるのですが、たとえば“武士 今何回目?”のところなど、ボーカルに加工の効いた処理。耳を引く遊んだサウンド面での仕掛けが随所に光ります。

音楽がエンターテイメント(楽しいもの)であること。それを送り出す側はいたって真面目であること。かつ極限まで遊ぶこと。純粋に楽しむこと。できるだけ潔白にそれらをやりきること。そうした方針の重要さを物語ってくれている気がする秀逸なトラック。歌詞も演奏も、演奏後のミキシングとかそういったプロセスも全部含めての作品であることから「トラック」と敬意を表して呼びたくなるのです。楽曲であり作品であり、2本の耳を刺激する濃厚ソースなのです。

歴史をテーマに音で(音楽で)遊ぶのに特化した歌詞。『きらきら武士』は歴史に明るくない私のような者でも楽しめる塩梅でしょうが“鹿之助”は私からするとマニアックな気がします(ここで初めて知りました)。歴史好きの諸先輩方に戒めを食らうかもしれません。

ポップソングは聴いて、自分も口ずさんで楽しむ側面があります。その時、歌い出しからいきなりこの歌詞です。“あなたは武士”。……もう違う……現代、武士、イナイ。絶対、現実としては「あなたは武士」なワキャぁないのです。落ちサビはじまり、歌い出し一行目からちょぃ待ち!と心のなかの私にツッコませます。

もちろん、武士の精神みたいなものは現役の生きた魂だと思います。私が知らないだけで、世界のどこかには現存する正真正銘の「武士」がいる可能性だって否定はできませんので「絶対」は言い過ぎたかもしれません。

ポップソングの多くは、共感したり、自分の境遇を当てはめたり重ねたりして、自分自身や誰かを勇気づけたり慰めたり気分を高めたりする機能を、図ってか図らずしてかは別として、有しています。

そのとき……「あなたは武士」のラインは、ポップソングの多くが有する特徴をいくぶん外れます。ここだけをみても、もうすでに稀有なのです。確信犯の歴史惚気をぶちかましている。

歴史を好きで好きでしょうがない人の心には、常に歴史に関係のある思念がぬるぬると輪廻転生している。ヘビロテで心のスピーカーから歴史愛の陣太鼓がガンガン鳴り続け、心の中の将軍が戦況を同志と分かち合うべくマイクに向かってライミングしまくっている……のかもしれません。

そう解釈したとき、『きらきら武士』は、ほんとうにこの作家・池田貴史さんが、己の中の原風景、己のもつリソース・財産・資源に真摯に正対する、本気で全霊の比類なきラブソングなのだと思えます。

彼のもつ音楽上の手技手腕知見のすべてを潔く動員し、反射神経を開放してすっぱりとキレ良く写しとった作品こそが『きらきら武士』なのです。傑作だ。

ドンシャカスパコンと抜けまくり爆発しまくりのバンドサウンドは、デヨンナこと椎名林檎さんのご自身名義や東京事変名義のサウンドのキャラクターとも存分に通う部分を感じます。椎名林檎さんを呼びつけて(呼びつけて、なのか知りませんが)、池田さん自身の演奏とかけあわせてこの可憐でオシャンな透き通るボーカル、バックトラック(バンド)で「あなたは武士」「きらきら武士」って……遊びと楽しみのゲリラ伏兵です。「武士」の語句からは、粗野で良くも悪くもオトコくさい表現を想像してしまうのが平凡な反応の一例でしょう。そういう暑苦しさを寄せ付けるリスクも生じうるモチーフなのに、こんなにも澄みわたる洗練を呈した奇跡。

コードなんかずっとⅡm-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵmですもん。そう、はっきりと着地しないままずっと4分間駆け抜ける。歴史にはじまりもおわりもないのを思わせます。ずっと「最中」(さいちゅう)なのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>きらきら武士 feat.Deyonna

参考Wikipedia>レキツ

参考歌詞サイト 歌ネット>きらきら武士 feat. Deyonna

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『きらきら武士 feat.Deyonná』を収録したレキシのアルバム『レキツ』(2011)。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『きらきら武士(レキシの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)