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時計の内部機構の様子から始まり、すぐさま公園の時計にフェード。それを見上げる人物がヘッドフォンをつけると、繋いだ手の記憶(?)がクロス。バンドメンバーの演奏シーンも挿入されます。『こいのうた』をヘッドフォンで聴いているという演出でしょうか。シーンは公園から街へ。直立した主人公を見上げる構図が意味ありげです。

街の通りを歩く主人公。立ち止まりどこかに視線をやります。手の中には懐中時計。それにクロスして、懐中時計の鎖を絡めて繋いだ2人の手のカットが挿入されます。ぶら下がった懐中時計が揺れます。雪が降っている場面を思わせる効果。主人公と、親密だった誰かの手でしょうか。

ヘッドフォンを外して首にかけつつ、主人公が入ったのは時計店のようです。老齢の職人が横を向いて細かい作業をしています。職人は主人公のほうを見向きもしません。集中している様子。研磨のような作業に見えます。やっと主人公に気づき、着席を促す職人。主人公は会釈して着席。

再びヘッドフォンを着けたり、本を手に取ったりして店内で過ごす主人公。入店前の場面で挿入された、繋いだ手と懐中時計と降雪のカット、滑り台の階段に腰掛ける主人公のカット、時計の内部機構が動く様子のカットなどがクロスします。回想や時間経過の表現でしょうか。映像中、バンドメンバーの演奏シーンも断続的に挿入されます。

職人の仕事が一段落したのか、ようやく接客してもらえた主人公は懐中時計を職人に差し出します。修理の依頼のようです。品物を見つめ、主人公と何かの合意を交わした様子の職人が作業にあたります。解体されたり組み立てられたりする懐中時計の様子。数度挿入されている時計の内部機構のカットは、この懐中時計の内側の様子だと思うと合点がいきます。拡大鏡を持ち上げた職人のカットの挿入。直る見込みが立ったのか、それとも主人公が持ち込んだ品物に感心しているのか、彼の表情がわずかに柔和に見えるのは気のせいでしょうか。滑り台に腰掛けて空を見上げる主人公のカットを経て、通りに立つ主人公、そしてスタジオのバンドメンバーの構図にも雪が交う演出。

修理が終わったようです。懐中時計を受け取る主人公。安心した表情で一礼。職人が主人公が首にかけたヘッドフォンに興味を示したようです。主人公がヘッドフォンを職人に手渡すと、職人はそれに触れながら視線をやります。主人公も覗き込むように注目します。何かをつぶやきつつ、職人はすぐヘッドフォンを主人公に返しました。何を話したんでしょうかね。 職人「珍しいね、それ。ちょっと見せて」 主人公「はい(手渡す)。」 職人「へぇ……立派だ。どこにつなぐのこれ。ああ、ここ。へぇ……ありがとね(返す)」……無難に想像するとこんな感じでしょうか? もっと何かハイコンテクストな会話かもしれません。

「(懐中時計を)大事にね」とでも言う感じで、主人公が持った懐中時計を指さして頭を小さく縦に動かすと、脱いだ作業着を腕にかけ、トレイを持った職人は奥へ引っ込みます。主人公は店内に背を向けてヘッドフォンを付け直し、微笑みました。少し口を開いて笑うほどに嬉しそうです。店の外に向かって進み出る主人公でフェードアウト。

MVの感想 小さい小さい光

感情の抽出物の象徴(歌:バンド)、それを持ち歩く物の象徴(ヘッドフォン)、時間の経過の象徴(時計)、時間(過去:思い出:記憶)を持ち歩ける物の象徴(懐中時計)、それを修理:ちょうどよく整えてくれる他人の象徴(時計屋の職人さん)など、深読みが面白いさまざまなモチーフを登場させて、ひとりで街や公園にいる彼女を主人公にした、ちょっとさみしいような、ちょっと心あたたまるような絶妙な小さな物語のMV。

「雪」は固有の恋が起きた季節の記号なのでしょう。映像の見た目にも華やかさが出ました。「雪」は歌詞中の表現「小さい小さい光」にも重なります。雪は儚く溶けてしまう存在ですが、でもこの恋しい思いはずっと胸にあって、その感情もまた小さい小さい光なのだという深読みを想像しました。

時間の象徴・時計をモチーフに、主人公の記憶や感情の回顧、いま目の前で起きている時計職人とのちいさな束の間のコミュニケーションややりとりが交わる映像作品。恋の青さ、後悔、恋が胸にある幸福感、気持ちが動いた記憶などを想像させ、『こいのうた』の曲想を広げてくれるMVが素敵です。

曲やバンドについての概要

GO!GO!7188のサード・シングル、ファースト・アルバム『蛇足歩行』(2000)収録。作詞:浜田亜紀子、作曲:中島優美。ユウこと中島優美がギター・ボーカル、アッコこと浜田亜紀子がベース・ボーカル、ドラムスがターキー。

GO!GO!7188『こいのうた』(シングル版)を聴く

カノン進行風のコードですが、ベースのポジションのとりかた、それからギターの音の構成にも個性がある感じです。ぱっと聴いて「カノン進行ね」と思うのですが、飽きません。メンバーらが、お互いの範疇を任せ合ってやっているためにこういう音の響きが出来上がったのかもしれません。GO!GO!7188の事情に私は明るくありませんが、良いバンドだと感じます。

ボーカルもギターもベースも、音の定位が自然にまとまってきこえます。よく聴くとちょっとだけ音の中心がメイン・ギターが右寄り、ベースが左寄りでしょうか。ドラムスのシンバル類を左右に振って音像を広げています。

ライブでほとんどそのまま表現できる編成をパッキングするポリシーを感じます。ですがBメロで左にトレモロ・エフェクト風のギターのアルペジオが聴こえてきます。

歌い出しやAメロのギターは1本の感じですが、サビでストロークギターを2本くらい重ねているかもしれません。パワーコードの感じと、歪みエフェクトをオンにした感じが出ています。

ギター・ソロ部分でもバッキングをダブって音が薄くならないようにしています。ギター・ソロ直後でベースと歌のみのAメロになるので、温度の落差がよく出ています。

コンパクトな編成のバンドなので、間引くところの温度の下限をギリギリまでつかうことで演奏に起伏を与えています。ここではBメロを介さずにサビに直結する構成になっていて、これも冗長感を遠ざけて曲を流れの優れたバラードにしていると思います。

ギターソロ前のBメロがサビに行かずにソロに行く構成になっているので、おあずけにしたサビをあとで回収した感じです。繰り返しのない静かなAメロをはさんでエネルギーを伏せておき、転調してサビ。巧みな構成です。

ギタリストとベーシストの声でしょうか、2本のボーカルのハーモニーも工夫されていて聴きどころです。多声音楽のようにそれぞれが自由に動いていくようなもところもあります。カノン風のコード進行との相性の良い味付けです。

A・Bメロのうちからフレーズの一部だけをチョイスしてハモるなど、ハーモニーパートのボーカルの出どころの塩梅が良いです。

構成メモ

サビ → Aメロ → Aメロ’ → Bメロ → サビ(2) → Aメロ(2) → Aメロ’(2) → Bメロ(2) → ギターソロ → Aメロ(3) → サビ(3)(転調:半音上げ) → 擬似サビ(さらに半音上げ)の「ラララ……」エンディング 

歌詞 一瞬で永い恋

“きっとこの恋は 口に出すこともなく 伝わることもなく 叶うこともなくて 終わることもないでしょう ただ小さい小さい光になって あたしのこの胸の温度は下がらないでしょう” (中略) “きっとあなたには 急に恋しくなったり 焼きもちを焼いたり 愛をたくさんくれて 愛をあげたい人がいるから ただ小さい小さい光のような 私の恋心には気づかないでしょう”(GO!GO!7188『こいのうた』より、作詞:浜田亜紀子)

片想いを胸にとどめている感じのする歌詞です。音楽的に豊かなカノン進行風でサイズ(曲の長さ)も大きめの『こいのうた』ですが、モチーフとなる主人公の恋は意外と内向的なものなのかもしれません。

付き合ったりすることがなくても、頻繁に会う機会のある相手への主人公の思いを想像します。よくものを考え、発言に慎重になりがちな人格を想像します。

恋、怒り、不満……原動力となる人の心はさまざまですが、バンドというフォーマットはその発露を手伝います。心の爆発に乗って誠心誠意したためた音楽であれば、私は延々と聴いていたいと思います。

『こいのうた』からは学生の恋を想像します。“小さい小さい光”と表現しつつも、主人公はこの恋を自分の人生の糧にしている、支えにしているように思えます。

小さいと表現されてはいても、主人公の心に不可欠の、強く鋭く鮮やかな光なのかもしれません。あるいは、雪のひとひらのように儚く消えてしまうのか。一瞬で「永い」ものもあるかもしれません。恋こそが。

後記

私はGO!GO!7188が実際に活動している期間にはあまり触れていませんでした。私が高校生くらいだったとき、級友や後輩にコピーしている人がいたのを思い出します。

今になって鑑賞したきっかけは上に貼ったライブ動画でした。ROCK IN JAPAN FES.と概要欄にあります。ステージ上部の横断幕に「2004」。スリーピースバンドで芯のあるメロディ、歌詞を音楽的なコード進行に乗せてやるスタイルは私の理想のひとつであり、共感します。

解散していなければ……とも思いますが、(世間の熱が)アツイものは冷えてからいただくというひねくれものが私なので、この出会いもまたさだめか。おかげで『こいのうた』の耐用性を実感できます。2021年初夏、デジタルデータを介した隔たり越しでも私の心を揺さぶりました。

名前のない体験の一連、『こいのうた』。

青沼詩郎

『こいのうた』(シングル版)を収録した『ベスト・オブ・ゴー!ゴー!』(2006)

『こいのうた』(アルバム版)を収録した『蛇足歩行』(2000)。イントロのボーカルが楽器ナシのまるはだか。

『こいのうた(とのさまツアー2001)』のライブ音源が入っています。配信アルバム『レア コレクション オブ ゴー!ゴー!』(2012)

ご笑覧ください 拙演