綿毛のような心

軽快なテンポ、サウンド。Aセクション8小節でサっとBセクションへ。「どうしたの」の歌詞で背景にすっと色の違うコードを響かせて音と言葉の協調で清涼を演出します(Eメージャー系で来たところにCM7のコードが「どうしたの」の言葉を誘う変調を表現します)、ABセクション=16小節をひとまとまりに旅路が進んでいきます。

最初に「どうしたの」をあてはめた部分に回帰する際は「キスしようよ」との歌詞がつき、積極的なフレーズにドキっとします。天真爛漫な人格を憑依して「私のことつかまえてよ」と続けます。

8+8=16小節のCセクションにはしっかり尺を注ぎ、楽曲のなかほど(真ん中)がふくらんだ山型、ピークがまんなかにくる扇形、放射状の起伏があたえられ、のちにABセクションの再現(異なる歌詞で)がついてさらっと女性終止で結び、「ここは旅のまだ途中だよ」と主題相当のフレーズで読後感さわやか。旅の続きに視線を誘う曲の終わり方です。

2010〜2011年頃、チオビタドリンク(大鵬薬品工業)のCM曲に使われたのが初めに世の中に露出した機会と思われます。曲の内容に天真爛漫な人格がうかがえるのは、こうしたタイアップの外的な要因が制作の動機に関わっているからなのか、あるいはかねてから存在していたストックだったのか果たしてどうでしょう。2011年の『ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER 2』で初収録(映画『奇跡』挿入歌となった『最終列車』、ライブレパートリーとしても扱われた『鹿児島おはら節』もこのベストコンピで初収録)となり、2014年には企画アルバム『くるりとチオビタ』にまとめられます。

本曲『旅の途中』は演奏メンバーに山内総一郎さん(Gt)、高田漣(Pedal Steel)さん、Boboさん(Dr)がクレジットされています。なだらかなアーチ・カーブで飛び交うギターのポルタメントサウンドが旅路の空を思わせ、ロッドで叩いたのかまるでカホンで演奏したアコースティックバンドのようなかろみのあるサウンドでアンサンブルを接着します。

反射神経や技量の凝縮・抽出がものをいう端正なソングライティングが光るくるりの魅力が感じられる1曲です。CMタイアップを伴いつつもオリジナルアルバムやシングルでなくベスト盤コンピが初収録となっているせいもあってか数多あるくるりレパートリーのなかでポジショニングに浮遊感があり、そんなところも『旅の途中』らしさな気もします。Cセクションのハイライト部分の歌詞「綿毛のような心」に込められた自由を希求する精神はずばり主題の『旅の途中』の言い換えとも解釈できます。

旅の途中 くるり 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:岸田繁。大鵬薬品工業 “チオビタドリンク”CM曲(2010〜2011年頃か)。くるりのベストアルバム『ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER 2』(2011)、企画アルバム『くるりとチオビタ』(2014)に収録。

くるり 旅の途中(ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER 2』収録)を聴く

ボーカルの音像が豊かです。リードボーカルの輪郭の分離と空間の調和の両立が非常に心地よいサウンド。バックグラウンドのレイヤーも厚く華やか。Cセクション(♪あ〜あ〜、どーこまーでも……の部分)のリードボーカルの歌唱はファルセットを用いているでしょうか。仮声と日本語でつづることもあるウラ声。ここではないどこか、旅先すなわち旅の途中の表現におあつらえ向きのボーカル表現技巧ではないでしょうか。

からっとしたアコースティックギター、エンディングのぽろぽろした鮮やかでマイルドな音色はナイロン系のギターかと聴き紛うほどに絹のような耳触りです。

高田漣さんと山内総一郎さんを含んだ編成とのクレジットですが、ポルタメントでカーブを描くのがおおむね高田さんのスティールギターでしょうか。やや奥まって、アルペジオのようにも感じられる細かい動きをしているのが山内さんギターなのか。間奏のギターソロは前半がスティールギターで、後半すこしフィンガリングがこまかくなるあたりが山内さんなのか。しかし山内さんと私が推察するほうのギターもなんだかポルタメントしている箇所がある気がします。ボトルネックを限定的に左手の指にはめつつ、ポルタメントするフレーズとしないフレーズを両立しているのでしょうか。詳細は不明ですが、達者で多彩なサウンドです。

ドラムのプレイ、サウンドも魅惑で、テシっというスネアのサウンドに歯触りのかるいキャラクターを感じます。ハイハットはチチチチ……と極めて明瞭。右手に木のスティックを持って、左手にロッド(竹ヒゴを束ねたみたいなタイプのスティック)を持ったのかな?などと想像させるくらい、ドラムにかぎってもサウンドが多彩です。

Bセクション「どうしたの」のあたり、CM7→E/Bなどとベースに転回形がまざるのもくるり印、ひとつづきの旅路をおもわせる、なめらかにつながったベースラインが耳福。

「あ〜あ、ど〜こま〜でも」……とのCセクションと間奏のギターソロをハイライトに、ABセクション回帰・再現があって女性終止。後ろ髪ひかれるようなさらっとした終止。女性終止は小節のなかで1拍目付近にはまだサブドミナントやドミナントがあり、小節内の中ほど〜うしろで主和音への解決(全終止)がなされるものです。対して男性終止は主和音への解決がきっかり小節のアタマ(1拍目)でなされるものをいいます。

「綿毛のような心」のフレーズが胸に残留。旅路を往きながら、回顧が同時並行で胸のなかに流れる。立ち止まっている暇がなくても、過去もみんな常に胸のなかにあるんだなと思わせます。

青沼詩郎

くるり公式サイト>ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER 2、くるりとチオビタ

参照歌詞サイト 歌ネット>旅の途中

参考Wikipedia>ベスト オブ くるり -TOWER OF MUSIC LOVER 2-

『旅の途中』を収録したくるりのベストアルバム『ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER 2』(2011)

『旅の途中』を収録した『くるりとチオビタ』(2014)