映像
エキストラのダンサーたちに彩られて
拍手の中ドレスの赤の映像。軽快に体を揺らして歌う美空ひばり。いくらからだを揺らしても、姿勢がきれいです。背筋がすっと通って崩れない。笑顔も出ますし「Yeah!」とかけ声。ノリを演出します。間奏でも謎の小躍り?のようなしぐさ。エンディングのフェイクもバリバリにキマっています。
ブルー・コメッツと
笑顔のキーボディスト。ドラムスが中央・最前にせり出したセットです。サビはシンガロング(全員で歌う)。 翼のように演奏メンバーが向かって右に広がり、向かって左はキーボディスト。間奏で彼にカメラが寄ります。美空ひばりの髪型、服装、表情や身振り手振りが独特で目を引きます。
無伴奏の歌唱のイントロ
ゆっくりしたテンポ、伴奏なしボーカルのみのイントロ。真赤なドレスで上手(ステージ向かって右)から登場。後頭部に真赤な太陽然とした大きな花のような頭飾りをつけています。サビで手拍子をあおるようなパフォーマンス。間奏にギターソロ。ボーカルフェイクも「Ye! Ye!」と息巻く熱、この楽曲に対する美空ひばり自身の解釈の方向性を感じます。一方、ラストの歌詞「恋の季節なの」を繰り返すところで繊細な表情の歌声を見せ、ぐっと注意をひきます。駆け抜けるように終わってしまいますが、熱量の起伏で見せるところもあるパフォーマンス。美空ひばりもコンサートの演目として重宝していたのではないかと思えます。
尾崎紀世彦と
黄金色に輝くえりもと。レモンイエローのドレスに白い手袋。34歳……(現在の私に近い年齢なので気になってしまいました)。普段私が持っている美空ひばりのイメージよりお若くみえます。尾崎紀世彦と共演してこの曲を演奏したのですね。彼は黒い上下。美空ひばりを立てていますが、サビで張り上げた声がいかにも『また逢う日まで』が私に印象づけた通りの不屈の歌唱に思えます。ここではカウンターメロディを歌ったり、重唱したり。テレビ番組の映像のようです。
曲について
美空ひばりのシングル(1967)。アルバム『歌は我が命~美空ひばり芸能生活20周年記念』に収録。作詞:吉岡治、作曲:原信夫。作詞者は『おもちゃのチャチャチャ』をこども向けに補作詞した人として覚えがあります。
美空ひばり『真赤な太陽』を聴く
あやしげなチープ感ただようトーンのオルガンのイントロ。倍音の分布を思わせる独特かつ定番なトーンです。定位は右側寄り。平歌では短く2拍目や3拍目ウラをとる2小節、ロングトーンする2小節をくりかえします。
サックス。左側に定位しておりオルガンと対の存在感です。イントロのモチーフやカウンターメロディ、オブリガードを奏でたり、右側のオルガンと協調して非常に短い音でリズムを演出したりしています。
エレキギター。左側に定位。2拍目にストロークしてリズムのアクセントに加担しています。サビのストロークはダウンの4つの拍頭を重んじつつオルタネイトで味付けしている感じがします。温和で耳に心地よいアタック。オルガンのぴーぴーと特徴のあるサウンド、サックスの艶やかなエッジと合わせ、バンドのバランス良好です。
ドラムス。中央でリズムを支えるとともにサウンドの中核。平歌のスネアストロークが非常に繊細。構成の端境でリムとヘッド両方を同時にヒットしたような「カン!」という甲高いアクセント。まるで演出家が舞台稽古を仕切る際に手を打ち鳴らすように、場面の転換を促します。ダイナミクスやニュアンスを変幻自在に操り、表情に富んだドラムス。お手本にします。
ベース。やや右寄りの定位、ピックストロークでしょうか。ペキンパキンとしたアタックにズゥゥンと深い響きが追随します。キックとシンクロしたストローク。サビでは8ビートのダウンストロークでたたみかけます。サビ前半4小節のベースの上下の動きが激しく、緊張感を醸します。5度跳躍を中心にセブンスも含めて動かします。こちらも手本にしたいベースライン。
私としてはThe Zombies『Time of the Season』を思い出すベーシックで、ちょっと面影が重なるような感覚もあるのですが、収録アルバム『Odessey and Oracle』の発表が1968年。『真赤な太陽』(1967)の発表年が先です。洋楽を参考にした邦楽曲は枚挙にいとまがありませんが、『真赤な太陽』と『Time of the Season』については私が紐付けただけで他人の空似といって良さそうです。どちらもクールな響きと演奏の熱量を持つ私のお気に入り。
『真赤な太陽』リスニングの話に戻り、バックグラウンドボーカル。バンドメンバーがサビで美空ひばりとユニゾンしています。ユニゾンに続くフレーズではパートを分けて重唱。次いでエンディングの歌詞「恋の季節なの」を繰り返すところでは抑制を効かせてひそめたようなあやしげな発声で男声がレスポンス。隠しごと(秘めごと)をしているかのような含みを感じます。バンドメンバーの歌唱が鉄壁の美空ひばりをさらにフォロー。向かうところ敵なしのミュージシャンシップです。
美空ひばりのボーカル。ノンビブラートから、伸ばすトーンでビブラートを強める移ろいが麗しいです。細かいしゃくりの色付けが繊細で機微があり妙。ピッチの経過、ハマりどころの気持ちよさは言わずもがな。情感をたっぷり表現しつつも軽妙で、朗々とした品格。アクの付け方・抜き方の幅、自由なバランス感覚も卓越しています。
感想、後記
美空ひばり・ジャッキー吉川とブルー・コメッツ両者の個性が拮抗。どちらに著しく譲るでもなく、双方が魅力を高めあっています。夢のようなグループです。
ワントップでもステージに輝く美空ひばりにとって、ジャッキー吉川とブルー・コメッツとの共同は、新しい境地への一歩だったのではと想像します。もちろん、美空ひばりの幅広いキャリアのすべてを知ればこれに適う前例もあるのかもしれません。美空ひばり史への関心がますます深まる一曲でもあります。あらゆるバンドマンやソロ歌手とシェアしたい理想のモデル。
バンドは全体でひとつの生け花のようなものかもしれません。一輪の花たる歌手がそこにコミットし、花瓶とすべての草花を合わせた生け花全体が、共同によって一段と華を増すようなイメージでしょうか。曲のタイトル『真赤な太陽』が想像を掻き立てます。きっと生け花でも映えることでしょう。
生け花はたとえのひとつですが、素晴らしい作品は媒体を超越します。太陽の恩恵を受けて、新しい芽が伸びる様子を思います。
ところで、自分達の名義を持つバンドがバックバンドを担当しても、共同名義を冠することなく、ソロ歌手のみの名義で発表する事例も多いと思います。
『真赤な太陽』についていえば、事情を知らない私から見ても、バンドメンバーのボーカルへの参加度の高さが目立ちます。アレンジメントへの全面的な貢献もバンドメンバーの領分でしょう。当時のグループ・サウンズブームのすさまじさも、背景として手伝った面もあるかもしれません。人気最上位のミュージシャンらによる、勢いある共同だったのかなと想像します。
作詞とキャスティングどちらが先かわかりませんが、歌詞“恋の季節なの”を表現する上でも混声の編成が好ましく思えます。表現者たちの共同、すなわち恋の季節か。
青沼詩郎
『真赤な太陽』を収録した『美空ひばりベスト 1964~1989』
『真赤な太陽』を収録した『歌は我が命 -美空ひばり芸能生活20周年記念-』
『Time of the Season』を収録したThe Zombiesのアルバム『Odessey and Oracle』(1968)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『真赤な太陽(美空ひばりとジャッキー吉川とブルー・コメッツの曲)ギター弾き語り』)