私が谷澤智文を知ったのは、アニメ『君に届け 2ND SEASON』がきっかけだった(その時の彼の名前はカタカナでタニザワトモフミとつづられていた)。アニメのオープニングテーマの『爽風』。
タイトルから受ける印象の通り、気持ちのいいポップだった。ちなみに、このタイトルは『君に届け』の主人公たちの名前の文字を積んでいる(黒沼 爽子、風早 翔太)。さかのぼってみると、すでにファーストシーズンの『君に届け』のテーマ曲を担当していた(タニザワトモフミ『きみにとどけ』)。
『爽風』は彼のアルバム『日本に落ちてきた男』(2011)に収録されている。アルバムを購入して聴いてみると、彼の音楽、ことばの幅、奥行き…「スペース」がますます私をとりこにした。
私は当時の恋人と一緒に、彼のライブを観に行ったこともあった。代官山UNITだった。寒色系の12弦エレキギターに6本の弦を張って(6本の副弦を外して)使用していたっけ。カッコイイ音が鳴っていた。確か、ドラマーが私の敬愛するバンド・くるりの元ドラマーの森信行で、当日当初で知ったから大変興奮した。CDで知っていた曲もやっていたし、その日覚えて「好き」に加わった曲もあった。演奏も含めてすごくいいライブだった。音(音響)も良かった。終演して、物販に立つ彼に、彼のアルバム『空路』CDにサインしてもらった。日付が入ったそのCDがいまも手元にある。2011年7月14日。『ひまわりの日』というイベントだった。対バンはSEBASTIAN X、D.W.ニコルズ、東京カランコロン…そうそう、そんな感じだった。じわじわと思い出す。
それから最近まで、私はタニザワトモフミを摂取していなかった。すごく好きになったし、お気に入りのミュージシャンとして間違いなく自分の胸に書き込んだけれど、なんとなくCDも家の棚にあるまんま触ることがなかった。
というのも彼は、所属のレコード会社も事務所もやめて、世界旅行に出てしまう。2012年9月から、ほぼきっかり1年間ほど。出発時の彼は31歳だった。継続して伝わってくる作品の発表情報があったら、私は途切れることなく彼を追い続けたかもしれない。でも、谷澤智文(タニザワトモフミ)はそれをしなかった。
世界旅行の様子が彼のホームページにアップされている。膨大な文章と写真で、現地の様子と彼の心の動き、思考、行動が記録されている。長らくタニザワトモフミを摂取していなかった私はそれらを無心にむさぼり、自分の「スペース」に取り込んだ。一緒に心を世界へ連れて行ってもらった気がした。
谷澤智文 公式サイト
https://tnzwtmfm.net/
2016年に彼はアルバムを出していた。『ぼくらはみんなスペーシー』。名義も、カタカナから本名の谷澤智文に変わっていた。それよりも前には、SPACE LIKE CARNIVALというバンドを組み、解散していた。
インタビューを読むと、彼は変化し続けることを重んじていることがわかる。変化への姿勢としてデヴィッド・ボウイの名を挙げて語ってもいる。
CINRA.NETより
https://www.cinra.net/interview/201603-tanizawatomofumi
アルバム『ぼくらはみんなスペーシー』のラストには『グッバイ星人』が収録されている。曲の結尾で、『手のひらを太陽に』(やなせたかし、いずみたく)の一節の歌詞を一部置き換えて”ぼくらはみんなスペーシー 生きているからスペーシー”と歌う谷澤智文の声が遠目の音像でコラージュされている(オリジナル音源。ライブでは見られない)。このブログにも書いたけれど、ちょうど私は最近『手のひらを太陽に』のことに触れたり思ったり調べたり歌ったりしていたところだったから、その偶然と奇遇に大変驚いたし、嬉しくなった。ずっと触れていなかった「タニザワトモフミ」に久しぶりに触れにきたら、思わぬ最近の自分の時事性と重なる点が見つかったからだ。発見の事後になってみれば、アルバムタイトル『ぼくらはみんなスペーシー』を見た時点で『手のひらを太陽に』を思い出さなかった自分がむしろ鈍いと思う。
2018年のフジロックフェスティバルに彼が出演した際の動画が見つかる。たった一人でエレクトリックギターを1本持って(2011年7月、代官山UNITで私が見たものと同一のそれだろう!)(ほか謎の機材多数)、こだまと残響を豊かに効かせた音で歌と演奏(、それから環境音?)のパフォーマンスをする谷澤智文。世界の旅、バンド「SPACE LIKE CARNIVAL」を経て、彼は素の「谷澤智文」になって私の前にあらわれた(画面越しだけど)。そのスペース、宇宙を持って。ひとりの中の宇宙、その周りの宇宙を一緒に。
彼は2019年9月に、自身の出身県である岐阜に喫茶雑貨「閃き堂」(高山市)を開いたそう。世界の旅にも憧れるし、現実的に行けそうなぜひとも訪れてみたい場所がひとつ増えた。
変化し続けることを重視した彼の生き方がおもしろい。ただの取り巻きの1人としても発見がある。自分もそうありたいと思う。改めて尊敬したし、彼のファンとしての自分をアップデートした。
青沼詩郎