時をつらぬくリクエスト

メディア自体や、それを受信・再生する端末などは時代の変遷とともに淘汰されたり表面の質感などが激変したりすることがままありますが、ラジオという媒体は昔から現代にかけて健在ですし、ラジオにリクエストをするという行為も普遍です。

ラジオ番組に曲をリクエストしたりメッセージしたりすると、読まれたり求めた通りの選曲が実現したりするかどうか、放送を聴きながら期待が膨らんでわくわくします。そしていざパーソナリティなりDJなりが自分の投稿内容やラジオネームを読み上げるなどすれば、興奮で心臓がばくばくします。

リクエストやメッセージが採用されるかどうか分かりません。博打感がありますし、投稿内容のクオリティが採用率に関わるのも当然のことでしょう。投稿の母数もきっと結果につながります。多様な要因、因果の端っこで実際に自分の投稿がラジオ番組の内容の一部になった日には嬉しいものです。

破れかけているこの恋を象徴する思い出の曲があったとして、その曲が今回のリクエストでプレイされたらもうこの恋もこれでおしまいにするよ…という「最後のリクエスト」があったとしたら。リスナーは様々な想いでリクエストやメッセージを送ります。リスナーの背負うストーリーがラジオ番組の内容を即席で立体たらしめてしまうラジオマジックがあるのです。リクエストにはリスナーの人生が宿る、映るのですね。

涙のリクエスト チェッカーズ 曲の名義、発表についての概要

作詞:売野雅勇、作曲:芹澤廣明。チェッカーズのシングル、アルバム『絶対チェッカーズ!!』(1984)に収録。

チェッカーズ 涙のリクエストを観察する

ビートやテンポのスピード感から解き放たれて、たっぷりと思いの丈を表現するイントロ。サビはじまり構造といえるかもしれませんが、ビート感をともなわないので曲がはじまってからサビに至るときとでは印象がまるで違います。このイントロののち、軽快なテンポで1・6・2・5様式のコード進行のおきまりパターンがのろしをあげます。ピアノがはじけ、サックスが高鳴ります。

8分音符をいっぱいにしきつめた強起のAメロ。

『涙のリクエスト』Aメロ付近の採譜例。強起ではじまり、8分音符を敷き詰めるモチーフはビート重視。出だしの2小節は8分音符がひしめきますが3小節目“Midnight D.j”のところで音価が4分音符中心になり、勢いのなかにも緩急があります。

Aメロで直線的な特徴を押し出したのに対し、Bメロは頭を休符にして、ファルセットに抜ける声色を交えて高い音程への跳躍を見せます。リスナーの心をはらっとさせ、目を引きます。

『涙のリクエスト』Bメロ付近の採譜例。頭1拍あけた弱起の音型、ファルセットに抜ける音程の跳躍、4分音符を基調に短2度で沈み込み解決する刺繍音のいじらしさが同音連打の勢いのあるAメロのモチーフとはキャラクターが対照的です。

そしてお待ちかねのサビは、2拍分小節線より前に飛び出したアウフタクト始まりで、音価は4分音符以上のサイズを多用しビート感を重視するAメロのメロディよりも開放的で器の広い印象。

『涙のリクエスト』サビ付近の採譜例。音価が広くなり、やり場のない想いをひとつずつなだめ、背中をさするように大またぎな弧を描くメロディのおおむね2小節単位のリフレインが健気で涙がにじみます。「リクエスト」の単語の本来5音の字脚を「リ・ク・エ・エ」のように4音で扱います。「スト」はほぼ子音のみで、カタカナ英語としての字脚の解釈を外し、本来の英語に近い字脚の解釈をほどこしているところが作詞(作曲)上の興味深いフックになっています。

Aメロ・Bメロ・サビと、セクション別のメロディにそれぞれ固有のキャラクター、特長があって聴き心地に快い緩急があります。曲中のサビはイントロとは違いイン・テンポに乗っているので音価は広くても軽快です。

“涙のリクエスト 最後のリクエスト 最後のコインに祈りをこめてMidnight D.J ダイヤル回す あの娘に伝えて まだ好きだよと トランジスタのヴォリューム上げて 初めて二人 踊った曲さサヨナラなんて 冷たすぎるね ヒドイ仕打ちさ”(『涙のリクエスト』より、作詞:売野雅勇)

本曲の歌詞がイメージするのはどうやら“電リク”。電話によるラジオ番組へのリアルタイムなリクエスト方法を電リクと呼ぶようです。

現在、私がラジオを聴くのはもっぱらスマートフォンアプリのradiko使用による聴取です。リクエストやメッセージも私はEメールでしか送ったことがありません。

電リク方式でも、やはり採用されるリクエストと採用を見送られるリクエストは存在するでしょう。不特定多数すべてのリクエストに応えたら放送時間が不足するのは必然です。採用されてもされなくても、直接ラジオ局側に訴求している手応えはEメールなどによるそれとはかなり違うだろうなとは想像します。ちなみにネット検索によると、現代でも電話リクエストは絶滅した手法ではなさそうです。

不特定多数がラジオ局に電話をかける“電リク”とは異なりますが、Eメールなどで事前に立候補を寄せたリスナーの元にパーソナリティが直接電話をかけて、リスナーとパーソナリティの対話をそのままラジオ番組の内容とする企画は現在私の知る限りでも結構例があります。あらかじめ、通話対応可能なリスナーを番組側で特定しておいて、定刻に(タイミングが来たら)番組側からリスナーに電話をかける趣向ですね。

話がはみ出しましたが、ラジオにおけるリクエストには、今この瞬間の気持ちを伝える・訴求するドキドキがあります。その想いは、意中の相手に直接ぶつければ良いのでは?とも思いますが、「当事者に直接この想いを伝えたい」のと、「どうすることもできない(どうにかするつもりはない)この想いを誰かに知ってほしい、共有・共感したい」という動機は別です。どちらかというと、後者の動機は浄化への欲求でしょうか。

ラジオへのリクエストやその採用自体が現実をただちに変えることはなくても、現実を仲介する役割は果たしうるのです。あるいは例えば、放送を聴いている者同士の間のプロポーズの仲介者に番組がなる、なんてことはきっと長いラジオ放送の歴史のなかで1度や2度ではないはずとも思います。そういうケースにおいては、正にラジオはリスナーの人生を左右します。制作者側としてその醍醐味に魅せられたのが、パーソナリティやDJやディレクターかもしれません。

『涙のリクエスト』の楽曲としての魅力は、この想いはどうにもならないかもしれないけれど、誰かに知ってほしいんだ! おいらには熱くてさびしくてやりきれない想いがあるんだ! この想いのエネルギーが叫んでいるんだ! という、空中を飛び交う電波が纏う普遍とその儚さにあると思います。

青沼詩郎

参考Wikipedia>涙のリクエスト絶対チェッカーズ!!

参考歌詞掲載サイト 歌ネット>涙のリクエスト

チェッカーズ公式YouTubeチャンネルへのリンク

『涙のリクエスト』を収録したチェッカーズのアルバム『絶対チェッカーズ!!』(1984)

ご寛容ください YouTube @bandshijin『涙のリクエスト(チェッカーズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』へのリンク