マイナーなマイブーム

短調にはまっています。今日のヒットチャートをざっと見渡すと、その多くが長調で間違いないと思います。短調はマイナー。少数派なのです。

短調で始まって、サビで長調になるという事例もあるでしょう。Mr.Childrenの『花 -Memento-Mori-』が思いつきます。逆に長調で始まって、サビで短調になる事例が思いつきません。知っていらっしゃったらぜひ教えてください。

およげ!たいやきくん(1975)

キング・オブ・短調ソングといったらこれではないでしょうか。キング・オブ・短調どころか、あらゆるシングルの中で最も売れた曲。マイナー(短調)曲が、メジャー(長調)曲を含めた格付けにおいてもトップだなんて、武者震いしそうな気持ち(?)です。

子門真人の歌が堂々の美声。朗々として艶やかで伸びやか。完璧です。この歌声あってのヒット曲。もちろん、曲と詞も。作曲佐瀬寿一作詞高田ひろお

つっこみどころ満載の歌

たい焼きは、日々消費されて回転(流動)するはずです。だから、毎日焼かれて嫌になっちゃう個体がいるはずがありません。主人公?のたいやきくんは、個体ではないのかもしれません。あるいは、どっちにもなれる。個であり、全であるという。(話が飛躍?)

たいやきが海なんて泳いでしまったら、ふやけてしまうでしょう(ちょい待て、まず泳がんやろ! …まあまあ。落ち着いて、私)。“しおみずばかりじゃふやけてしまう”(『およげ!たいやきくん』より、作詞:高田ひろお)という歌詞も出てきます…え、弁解になっていない? ここでの“しおみず”は、腹を満たす食事の文脈で出てきます。この直前の歌詞は“たまにはエビでもくわなけりゃ”(『およげ!たいやきくん』より、作詞:高田ひろお)ですが、鯛は甲殻類を好んで食べる習性が確かあったと思います。そんなところばかりは妙にリアル? いやいや、鯛じゃなくてたい焼きでしょう? エビを好んで食べるわけなかろう…と突っ込む私は放っておきましょう。

そして釣り上げたおじさん、それ(たいやきくん)食べます?! 不気味すぎません?!

釣り上げ、たいやきくんを食べたおじさん。食べる前につばを飲み込んだようです。たいやきくんをうまそうに食べたと歌は結ばれますが、つばを飲み込むのはおいしそうなものを前にしたときの表現であると同時に「覚悟」の表現ともとれます。たいやきくんを食べたおじさんは、不気味なものにチャレンジする気持ちだった可能性も否定できません。

屁理屈ですが、釣り上げたおじさんたいやきくんを食べたおじさん同一人物でない可能性もあります。まったく同じ個体のおじさんだなんて、歌詞のどこにも書いていません。(私はミステリー小説の読み過ぎ?)(歌詞の表現とその可能性をすみずみまで味わって楽しんでいるだけ)(それでも「すみずみまで」とはいえず、まだまだ広げられることでしょう)

高い音域が続いたり再来したりする難曲

童謡として扱われがちなようですが、この曲の歌唱を私はメチャ難しいと思いました。まず、キーが高い。よっぽど地声の高さに自信のあるあなたでなければ、移調すべきです。私は原曲どおりの調でチャレンジしたらまともに歌えませんでした。

使用される歌の音程の範囲の内、高い音域付近の保続が長いのです。また、その部分を過ぎたかと思えば、またすぐに高い音域が再登場するのです。これは苦しい。たいやきくんの苦しみを表している? さも簡単そうに歌いこなす子門真人。ヒーローもの関連作の歌唱を多く手がけた彼自身もまた超人であり歌の巨人です。

そうした難しさゆえに、「童謡」と扱われることの多い作品としては、「歌われる」よりも「鑑賞される」機会の多さが勝る、数少ない作品ではないでしょうか。童謡や愛唱歌を多数収録した私のフェイバリット歌本『歌はともだち』(教育芸術社)の選曲にもこの『およげ!たいやきくん』はありません(少なくとも私の手元にある版には)。この曲を収録するかどうかを鑑みた結果、その難易度の高さを考慮して外した(収録しなかった)というプロセスが存在したのではないかと想像しています。

心底、海底、鉄板の底

ナンセンスで非現実的な物語の世界は、つっこみどころ満載です。これがこの曲の至高(思考)の楽しみだと心底思いました。いや、海底(うみぞこ)かしら。鉄板の底? ああ、楽しい曲です。今日も、いまも。

青沼詩郎

シングル『およげ!たいやきくん』。付録の塗り絵も話題だった?
『およげ! たいやきくん アニバーサリーベスト』。オリジナル音源、BEGINによるカバー、カップリング『いっぽんでもニンジン』(なぎらけんいち)ほか収録。
『およげ!たいやきくん』ほかアニメやヒーローもの関連曲を多数収録。『ベスト・オブ・ベスト 子門真人』
『およげ!たいやきくん』の歌詞に、ナンセンス絵本といえばこの人、長新太の世界を思い出します。私のフェイバリット絵本、『キャベツくんとブタヤマさん』

ご笑覧ください 拙カバー

青沼詩郎Facebookより
“1975年、フジテレビ『ひらけ!ポンキッキ』で発表された曲だったとさっき知りました。作詞:高田ひろお、作曲:佐瀬寿一。子門真人が歌い、シングルになりました。当初は番組で生田敬太郎が歌っていましたが、レコード化の予定がなかったために彼が他と結んだ専属契約の問題で交代になったのだとか。エエ声で朗々と歌う子門真人の歌、詞、メロディの印象強さに安易に挑戦してみたくなりましたが、この曲の歌唱は私には難しかったです。案外高い音域が連続したり頻出したりと容赦ないので、童謡という扱いを受けてもいる割にはそれらしくない。そういうところもウケてヒットしたのかもしれません。あらためて聴きましたが、私は長新太のナンセンス絵本の世界を強く連想しました。ツッコミどころの尽きない歌の内容。マイブームの短調です。”

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