映像

映画『明日に向って撃て!』劇中?

密着した男女。すーっと平行移動していきます。自転車に乗っている…んですよね? なんて乗り方をしているんでしょう。しかもそのままりんごのようなものを食べたり食べさせたりしています。曲芸のような乗り方です。画面の手前や奥には樹々。ちょっと離れたところから主人公らを抜いたカメラワークのようです。家畜(牛?)のいる地帯を駆けるふたり。絶妙に手前のストラクチャーの陰になってなかなかじっくり見せてくれませんが、徐々にふたりの自転車の乗り方の全貌が明らかになります。運転者(男性)の前に女性が乗っているのですね。私の思い込みでは自転車の2人乗りは前が運転者、うしろが同乗者。こんな乗り方があるのか……自転車のつくりによって可能になる乗り方です。日本で普及している前カゴの付いたものではこの乗り方は厳しいでしょう。

納屋のような場所で女性が降ります。そのままはしごを登って、納屋の向こう側にまわった自転車に乗る男性をみおろします。弧を描いて自転車で走る男性。帽子をひょいと外して戻し、ごあいさつ。笑顔。彼女も笑顔。ハンドルに両足を載せ、両手を挙げてみせます。大丈夫? ちょっとよろめいたかと思いきや大丈夫。楽しそうです。納屋の上から女性が牧草を投げて男性にまさかの攻撃。男性、響いて見せます。ハンドルをわざと臭くガタガタ震わせます。おふざけは続き、今度はつっぱった腹筋をサドルに載せて後ろに向かってまっすぐ両足を伸ばした曲乗り。多芸ですね。

シーン変わって険しい斜面を乗馬で行く2人。いまのシーンと同じ2人でしょうか? 遠くに緑のある山々やいかつい岩山の台地がみえます。やや陽が傾いてみえますが何時ごろでしょうか。人物に寄ったカットで男性2人だとわかります。どこかへ向かっているのか。やがて丘陵地帯から砂丘へ。なおも馬が走ります。いくつか丘をこえたあたりで身を翻して止まり、今来たルートを振り返る2人。2人がやってきた馬の足跡が残ります。ふたつの筋が1台の車がやってきた轍に見えなくもない。振り返る2人のうち1人はひげ面です。ふたたびあゆみを進め、やがてシーンはたそがれ。奥の山のむこうに夕空。馬に乗った男性ふたりは奥から手前右方向に駆けていきます。

実際に映画でも自転車に乗る男女のシーンでつかわれたそうなのですが、後半の乗馬のシーンはどうでしょう。この動画で曲をフルサイズ聴かせるためにエディットしたのかもしれません。

男女の乗輪シーンでも特に雨は降っていません。「雨」の情景を借りて逆境と向上心をうたっている歌にも思えなくありませんが、ほのぼのしたビートとキュートなメロディが男女の仲睦まじいシーン:恋愛の描写? にもよく合うようです。

ライブ バンドで

放射状に客席がひろがる特徴ある会場。BJトーマスは長髪ですね。マイクを長めに持つのが独特。やや軽快なテンポですね。ストロークはコーラスがかったエレクトリックギターです。カツっとドラムスのリムショットがアクセント。ストリングズも軽快にカウンターラインを歌います。間奏は鍵盤がシンセブラストーンで。エレクトリックピアノのストロークのハネたグルーヴも出ていますね。結びのラインの「Me」のふしまわし。エンディングの曲調が変わるところのきっかけのドラムスの迫力がありすぎてすごい。スネアもここふぇようやくオープンショット。ピアノ・ギターのストローク。パラパパッパ……と軽快なブラストーン。バンドが走りだしますがライブなのでフェードはない。潔くひとまわししてフィニッシュ。MCが入って次の曲へ。可愛らしい原曲のフンイキとは趣のちがったライブバンドアレンジでした。

曲について

B・J・トーマス(Billy Joe Thomas)のシングル(1969)、アルバム『Raindrops Keep Fallin’ On My Head』(1970)に収録。アメリカ映画『明日に向って撃て!(Butch Cassidy and the Sundance Kid)』(1969)主題歌。 作詞:ハル・デヴィッド(Hal David)、作曲:バート・バカラック(Burt Bacharach)。

B. J. Thomas『Raindrops Keep Fallin’ On My Head(雨にぬれても)』を聴く

ざっくり聴く

コロンコロンと乾いた音はウクレレでしょうか。ナイロンギターにしてはキャラがまるく軽い……ギターはギターで右にいる感じがします。ピアノストロークも。歌のラインのきれ目でのリズムのキメを複数の楽器がユニゾン。独特の厚みある音の成層です。じんじんとアナログなゲインの効いたエレクトリックピアノでしょうか? 間奏の金管楽器はエンディングでも活躍。特徴ある刺繍音の移勢と変拍子を交えたエンディングです。

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ドラムス。ブラシ、もしくはロッド(竹ひごをまとめたような感じのスティック。「チャッ」というアタックの質感が出ますがブラシよりもはっきりします)でしょうか。スネアのアタックが「パツッ」と小気味よい。ン、タッタ……とハネたビートを出しています。ウクレレ? のストロークとよくコンビネーションしています。ベーシックでキックも打っているのかどうか、ベースのアタック音でほとんどわかりません。打っていたとしたら1・3拍目のオモテですね。

エンディングではサンバキック風のドッドド……というパターンが聴こえます。スネアはオルタネイトで埋めたストロークにアクセントづけでリズムパターンを出しています。

ベース。1・3拍目にストローク。コントラバス型のアコースティックベースっぽい音です。ズーン、ズズーンという深い胴鳴り感。ところどころ1・3拍目直前のウラ拍を引っ掛けてノリを出します。エンディングのサンバビートストロークはキックと協調。

ウクレレ。ナイロンギターじゃなくてウクレレだと思うのですが合っているでしょうか。中央に定位しています。2・4拍目を強調していますがほぼ4拍にわたってベーシックにストローク。そのまま弾き語れるパターンです。

ピアノ。右側に定位。平歌(ヴァース)の折り返しから入ってきます。やはり2・4拍目を強調したパターンです。構成の端境でリズムと和声をキメています。ウン、パ・パーン……というストローク。ここがホットなアナログゲイン感あります。アコースティック・ピアノとエレクトリックピアノトラック両方あるのか? じんじんと歪みの入ったトーンに感じます。エンディングの変拍子のところではリズムの刻み細かくゴキゲンを演出。技巧を感じます。

ギター。ピアノとほとんど同じ定位で入っている? 聴き分けがやや難しいですがアコースティック・ギターが入っているように感じます。ちょっとコーラスも効いてフェイズがかったようなトーン。チャキチャキとしたアタック音のキャラクターがコロコロンとしたウクレレのキャラと対称的です。右に定位している鍵盤楽器が撥弦機構を持った鍵盤楽器だった……なんてオチもあったりして? チェンバロなんかがその機構ですが、チェンバロの音とは違います。エンディングの変拍子部分を聴くと、はっきりとギターとアコースティックピアノがいる。キャラクターの違いと異なるリズムの弾き分けがわかります。本編はなんというか馴染んでしまって、ギターとピアノが合成音でひとつのパートを演じているかのようです。音の調和や合算の妙です。編曲、各パートのアンサンブルを構成する耳が素晴らしい。

ストリングス。ヴァース折り返しから入ってきます。コーラス部まではサスティンで支えますが、コーラス(Bメロ?)でチャンっ!とピツィカートをいれています。水が撥ねたみたいな音色です。雨水がぴしゃりと落ちて砕けたみたいな情景を思わせます。変拍子のエンディングはリズムを全面的にベーシック隊に譲っています。サスティンで、ちょっと2度でぶつかったような濁りの和声を感じさて素敵。

ブラス。トランペットでしょうね。間奏で主役。Bメロの歌メロディをトレースしたメロディです。右に寄った定位です。間奏は短く、すぐさま左側にコーラスが「Ah~」と入ってくる。ここのバトンの受け渡しというのかコールアンドレスポンスというのか、耳の注意の導き方がメチャ好き。右でパパパと華やかな音を聴かせて左でマイルドな調和を出現させる。わびさび、めりはりある感じです。ブラスは2本くらい重ねてユニゾンしたサウンドです。同じ人のダブか、複数の奏者による「せ〜の」か。なんともいえないところですね。

コーラス。Bメロのところで「Ah~」と入ります。この「Ah~」が入る直前、地味で何度も聴き逃していましたが、実は「Hum~」といった閉じた系の声色ですでにいました。左側に透明な響きを添えています。ストリングスの繊細な線の合音とはまた違った調和です。

メインボーカル。スッと奥に向かって抜ける、暖かくもスッキリしたホール系の残響がついていますね。BJトーマスの声質は乾いたきもちの良さ、アタックにわずかにしゃがれた味のあるボーカルです。映画の舞台の乾いた気候の地域のイメージに非常に合った声です。それでいて歌のモチーフが「雨(Raindrops)」なのがなんともいえず良いですね。

雑感

バート・バカラックの作曲。メロディとコードの良さはもう言わずもがなのオスミ付き。バート・バカラックの書くメロディや和声の何がこんなに魅力なんでしょうかね……。

覚えやすい音形のリフレイン。そしてそれを、音程のポジションを変えて発展させていくところでしょうか。

同じ音形を繰り返されると、ヒトはそれに愛着を感じます。単純接触効果というらしいです。音楽にもそれがあるんですね。でもただの反復ではつまらない。飽きるし冗長です。それを、音程を変えるとか和声を変えるとかして、覚えやすさ・人懐っこさを保ったまま音楽を豊かにしていっているのでは。もちろんちがったパターンやモチーフも登場させながらね。

歌い出し付近のコードは Ⅰ→ⅠM7→Ⅰ7→Ⅳ。トップノートを下行させていってⅣにつなぐ。Ⅰ7でⅣにつながる準備(緊張感)が万端になるのです。今日ではポップス定石ですが、いいですね。それ以前にももちろん西洋音楽であった定石だとは思います。Bメロで明暗のはっきりしないⅢmの和音を用いたりⅥMを用いてⅡmにつなげたりもしています。Ⅲm→ⅥMの動きを2回やるのがバート・バカラックっぽいですね。おいしい動きや音形はきっちり反復して用いることで印象を深めるのです。

ウンチクやリクツはともかく彼の音楽は心に直接はたらきかけてくるのだ…と逃げたくなりますが、リクツも許す緻密・精巧な意匠も持っているのがバート・バカラック音楽ではないでしょうか。

歌のモチーフは雨つぶフォーリン。雨は憂いごとの比喩か。情景のせつなさと音楽の愛らしさのギャップが絶妙で甘美。世界の名ポップスに数えてまちがいない素敵な曲ですよね。

B.J.トーマスの乾いた明るい声と、雨の湿ったにおいが響き合います。

青沼詩郎

世界の民謡・童謡 > 雨にぬれても 歌詞の意味・和訳 世界の民謡や歌謡・童謡、ポップスの歌詞や雑事に明るく網羅したサイト。

『Raindrops Keep Fallin’ On My Head』を収録したB. J. Thomasの同名アルバム(1970)

映画『明日に向って撃て!』(1969)

ご笑覧ください 拙演