出会いのコンピ『QUE!』

『QUE!』というコンピレーション盤(2002年、ソニー)があって、それを高校生くらいのときだったか買った。17,8年くらい前だ(この記事の執筆時:2020年)。当時テレビで見たThe Clash『I Fought the Low』が使われたCMが気になって、この音楽かっこいいなと思って収録されたアルバムを探したのだ。そこで当のThe Clashのアルバムを買うんじゃなく、彼らのI Fought the Lowが収録されたCMコンピに気持ちがいったところがナントモ私の軟派さを物語っている。

I Fought the Low原曲はザ・クリケッツ(The Crickets)。バディ・ホリー(Buddy Holly)らのグループだ。そんなことも最近知った私。
メンバーによるライブやレコーディングの様子、バックステージ、ストリートでのモブの小芝居(?)のようなものを貼り集めたオフィシャル・ビデオ。ごみごみしていて動きがあって、メンバーの像がブレるエフェクトもカッコいい。随所で歌詞の単語を画面に表示しアクセント、曲の内容を印象づける。ハーモニックなツインギター風の間奏や、歌のあるところでのギターのオブリガードのフレーズやアレンジがシンプルだけど伸びやか。クラッシュのこのカバー作品から私は影響を受けていると改めて聴き直して思った。好きだなぁ。私にとっての『I Fought the Low』はクリケッツより完全にこっち(もちろんこれからクリケッツもたくさん聴きたい)。

でも、このコンピのおかげでいい音楽にたくさん出会えた。コンピはコンピのいいところがある。このコンピレーションアルバム『QUE!』にはOasis『Whatever』Bob Dylan『Like a Rolling Stone』ほかが入っている。豪華でビッグネーム揃いだから、どれを挙げてどれを挙げないというところに意図の外側が込められてしまいそうなので特定のトラックを挙げるのに躊躇したがやっぱり特別好きだから挙げた(無駄なひとくだりを失礼しました

)。

そんなふうに、いろんな気になるアノ曲コノ曲が入っているから、このコンピをわざわざ選んだのだったと思う。テレビCMは当時の私の、音楽を仕入れるための情報の有望な畑のひとつだった。Ben Folds『Zak and Sara』もこのコンピに入っている。この曲もやっぱりテレビCMで見て(聴いて)カッコいいと思ったのだった。コンピの企画に完全に的を射られていた私(リスナーとしてどんなペルソナを見据えて制作したコンピだったのか、いまになって気になる。高校生のガキも想定内だったのか?)。

ひとりでなんでもやってしまう鬼才ベン・フォールズ

チキチ・チキチ・チキチ・チキチ……怒濤の間断なきハイハットのトリプレット(3連符)。よく聴くに、このドラムはダブっている。ハットがずっと鳴っているほかで、タムのトリプレットが鳴る。ひとりの人間で同時にプレイすることはできないフレーズだ。

ベン・フォールズはすごい人で、多重録音でひとりでなんでもやってしまう。この『Zak and Sara』が入っているアルバム『Rockin’ the Suburbs』なんて、ほとんどのパートをひとりで演奏したらしい(Wiki)。私は彼をひとり多重録音の頂点のひとつに数える。私もそういうスタイルでバンドの音をつくるが、私の嫉妬なんか屁でもない。憧れるカッコ良さ。

透明なコーラス(バックグラウンド・ボーカル)のサウンド。低音ボイスもいい。生ピアノが圧倒的な絢爛さで曲の印象を支配するが、エレピのじわる響きも和声、サウンドを支えている。シンセがポップな調子を出しまくる。白と黒(鍵盤)の全部盛りか。サウンドのセンス、頭抜けてる。洗練されてるのにパワーでぶっ飛んでくる。涙が出てくる、カッコ良過ぎて。

ベン・フォールズストーリーテラーとしても格別な香気を放っているのは、私の拙い英語力でも十分察知できる。細部までは一聴しただけではわからないけれど、押韻で気持ちのよい切れ味を随所に感じる。歌詞に出てくる主題フレーズの“Zak And Sara”ばかりは一聴してわかる。“La da~da~……”。このやさしさよ。これがポップだ。

アゲてオトす、転がしのブリッジ

Aメロ(?)やオープニングの基本のコード進行は |Ⅰ|Ⅰ7(ⅣのⅤ)|Ⅳ|Ⅳm|、曲のキーはF。トップノートが |ファー|ミ♭ー|レー|レ♭ー|という動きになる。完璧な半音進行ではないけど、保続する声部のなかで特定の声部が動いていくクリシェ風な動き。ボーカルの「らだだ・・・」長6度跳躍上行が気持ちよく抜ける。ブリッジ(Cメロ?)のコード進行もいい。

|Ⅵ|—|Ⅱ7(ⅤのⅤ)|—|
|Ⅴ|Ⅰ|Ⅳ|—|
|Ⅱ7の1転(ⅤのⅤ)|—|Ⅴ|—|
|Ⅲ7(ⅥのⅤ)|—|→Ⅰへ

(度数で書いたらなんかようわからんようになったのでコードネームにする)

|Dm|—|A|—|
|C|F|B♭|—|
|GonB|—|C|—|
|AonC♯|—|→Fへ

(ざっくりデフォルメしたコードの模倣例。)

コードチェンジの尺(ひっぱる長さ)を変えて、転々とさせたり保ったりして、緊張感を生んでいる。このCメロ(?)の後半からはベース音をだんだん上行させていく。気持ちも高まる。高まるのに、ここの部分の末尾の歌詞の単語は“submarine”。深く潜るものの象徴だ。音楽は「アゲ」て、歌詞で「オト」している。なんて、対比がきいてるんだろう。しかもオシリに“asshole!”とつく。完璧だ。

やればできるひとり多重録音

スティーヴィー・ワンダー、レニー・クラヴィッツ、奥田民生、斉藤和義、そしてベン・フォールズ……。「本人によるひとり多重録音」を思ったときに、私の嗜好で思い出す人たち。この山もまた高く果てしない。私はせいぜい裾野の芥子粒みたいなワナビーズかもしれないが、この人たち、そしてベン・フォールズを見ていると面白くてならないし、向上心が燃える。

比較にならないが、私とて誰しも「やればできる」ことを知っている。それを教えてくれるのが、ひとり多重録音なのだ。すでに私の人生の半分以上を占めている活動だ。どんなに無理だと思っても、絶対できるのだ。それは、やったからにほかならない。それも、たったひとりでだ。その先にチームがある。ひとりでやれることをやっている者にこそ、繋ぐことのできる手もあるだろう。この世界のどこかでひとりを尽くしているあなたにも、しかるべき繋がりがありますように(自分に言っている、私)。

青沼詩郎

ガーシュウィン『Rhapsody in Blue』のモチーフが最後のほうで顔を出す。音楽愛に満ちた気迫と熱狂。彼らの代表曲のひとつかも? ドラマ『ロング・バケーション』にこの曲が使われたとか。(日本での知名度をあげるのに一役買った?)
パンキーでクレイジーな弾き語り。
ゴージャス。

Ben Folds 公式サイト
http://www.benfolds.com/
インタビュー動画なんかも載ってます。英語。

早分かりベン・フォールズ
http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Special/benfolds/special/

『Zak and Sara』を収録したBen Foldsのアルバム『Rockin’ The Suburbs』(2001)

当時の私が夢中になったコンピ『QUE!』(2002)。

『I Fought The Law』を収録したクラッシュのベストアルバム『The Clash Hits Back』(2013)。“82年に行なわれたブリクストン・フェアディール公演のセットリストどおりに並べられたスタジオ音源と、代表曲8曲を追加した全33曲”(HMV&BOOKS Onlineより引用)とある。日本まで響いてきた海外のバンドの有名なシングル曲はオリジナルアルバムに収録されていないことがけっこうあるので嬉しいベスト盤だ。