ずっと散歩中

私が初めて買ったアルバムがJUDY AND MARYの『POP LIFE』(1998年、Epic Records)だった。

住んでいた街の、今はなくなってしまったCD屋で買った。私は当時小学生だった。衝動的に買ったのでなくて、予約とかして計画的に買ったのだったと思う、小学生だったし。

JUDY AND MARYを最初に見知った衝撃とかを強く記憶しているわけでもない。好きになったきっかけの、その瞬間を覚えていない。気付いたら、もう好きだった。情報源はたぶんテレビだ。

私が『POP LIFE』に触れるよりも前に、テレビアニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』が放送されていた。私はそれを5歳上の兄と居間でゴロゴロしながら毎週観ていて、その主題歌がJUDY AND MARY『そばかす』だった。刷り込まれるように好きになっていったんだと思う。狂ったようなギターのイントロ、バンドの音、YUKIの声、歌メロが良かった。

『散歩道』は成長して大人になった私の中にもずっとある。私があるローカルラジオに出演する機会があったときにも『POP LIFE』のCDを持ち込んで、かけてもらった。小学生の時に購入したあのCDだ。単純に好きで、ずっと心に持ち続けていた曲で、あえて分析的に聴き返したことがあったのでもなかった。

ここ十数年間くらいの私はギター、ベース、ドラムス、歌といった楽器を多重録音して曲を作っている。さらに近年は、鍵盤ハーモニカやテンホールズ・ハーモニカを頻繁に使うようにもなった。『散歩道』のサウンドは、私の原点なのかもしれない。今朝になって、ふとそう気付いた。イントロや間奏に入るピアニカ(ピアニカはヤマハの登録商標。鍵盤ハーモニカ)が、気ままでハッピーな雰囲気。でも、歌詞にはキュンとなる爛漫な言葉が並んで、それでいてほろりとくる。

作曲者は、ドラムスの五十嵐公太。作詞者はYUKI。YUKIとTAKUYAによる詞と曲が多いJUDY AND MARYのレパートリーの中では稀で、私にとって特別なエネルギーを感じる作。

ちなみに、私が高校生の頃から何度も出演した縁ある吉祥寺のライブハウス・シルバーエレファントはポップやロック中心のイベントと同じくらいプログレ(プログレもロックだけど)のイベントを開催しているハコでもあるのだけれど、五十嵐公太はこのプログレのイベントに幾度も出演している。私の一番昔からの大好きな作『散歩道』を作った人物が、私にとって一番馴染みのライブハウスと縁がある事実にしみじみとする。

『散歩道』はDメージャーキー。素朴なのに華やかで明るい響き。半音下からずり上げるギターのコードストローク。左にエレキで、右にアコギが遊ぶ。シックスの音を含めたサビのベースフレーズ。サスティンで支えるオルガントーンは、かの名プロデューサー・佐久間正英(ああ、さらにしみじみ)。

ⅣマイナーやⅥ♭を絡めたコード進行と歌メロ。ギターソロの終わりにのみⅤ→Ⅳのコード進行が使われているのが私のツボ。この進行は古典を基にした音楽理論にはない語彙で、ブルースやロックでは定番の進行。さわやかで愛嬌たっぷりのポップソング、そのギターソロの「お仕舞(お終い)」の「ここぞ」の部分に、さらっと一度だけ使ってみせるところが好きだ。細かいポイントだけど。

ちなみに、奥田民生によるカヴァーが存在するのも今朝知った。Sonyつながりか。

青沼詩郎

JUDY AND MARYデビュー15周年記念トリビュート・アルバム『JUDY AND MARY 15th Anniversary Tribute Album』(2009)。