ことばが浮いてそう

学生の時にレコード会社主催のオーディションを受けたことがあった。そのときに、「将来、関わるかもしれない人」として、そのオーディションを担当していたディレクターから業界の人の名前をいくつか教えてもらった。その中に、宮川弾の名前があった。それで、彼に関わるCDを池袋のP’パルコのタワレコで探して、何枚か買ってきた。その中の一枚が、Niagara AUTUMN&WINTER~Niagara Cover Special~だった。

大滝詠一のカバー集だ。その中に、ひときわ心をひく演奏があった。ビューティフル・ハミングバードによる『スピーチ・バルーン』だった。

ギターと歌のみの、澄み渡る音。曲の良さがまっすぐに伝わってきた。それまで大滝詠一の作品をちゃんと知らなかった(テレビなどで時折耳にしていることには、あとから気付く)私に、ビューティフル・ハミングバードは、その世界を手渡してくれた。大滝詠一はもちろん、ビューティフル・ハミングバードのことも好きになった。

“言いそびれて 白抜きの言葉が 風に舞うよ” 白抜きの言葉ってなんだろう。ずっと私に引っかかって留まった。このときは知らなかったけれど、スピーチ・バルーンは漫画のフキダシのことらしい。言葉をあらわす記号としての「文字」がばらばらになって、景色に力なく散っていく。

その部分のコード進行も私にとって新しいものだった。主調に対して、Ⅶ♭マイナーでBパートに進行する…なんて言い方をするとわかりにくい。仮に曲の調がCメージャーだとする。AパートのおしりでCの和音に解決したあと、BパートのアタマがB♭マイナーだという関係になる。これはC調にとってⅥ♭調にあたるA♭調に突入する動き。ドミナントを経由して、実際そのように進行する。

〜C(ここまでAパート)|B♭m E♭|B♭m E♭|A♭|Fm|Cm F|Cm F|B♭|G|→そして元の主調の主和音へ帰る(ここではC)

そう、転々と旅をして、見事にもとの主調に帰着する。

これに対してAパートは非常に滑らかで、バスが順次下行するいわゆる「カノン進行」に近いもの。AパートとBパートに対立の構造をみる。それぞれが際立つ。Aでは、ふわふわと「ことだま」が散歩する。Bパートでは、それがほどけてくずれて、自我が環境に溶けていくみたいだ。

原曲は大滝詠一の『A LONG VACATION』収録。ご本人はGメージャーで歌っているのかな。ネット上に、自信を持って適法といえそうな音源がなかった。権利関係、シッカリ制限しているのかもしれない。CD、買おう。

青沼詩郎

買った。スリムケースの再発盤。