軽音部の部室で、ドラマーとふたりっきりのギターボーカルの私。

私の高校時代の記憶の多くを占めるのはそんな光景だ。

ベースがいなくて、ドラマーとギターボーカルふたりっきり。こういったシーンは、ギターボーカルやドラムスをやっている人なら誰でも一度や二度や三度以上あるはずだ。

練習のときにベースが欠席するとかしてたまたまそうなったとか、そもそもその日集まれるのがギターボーカルとドラマーのふたりだけだとわかっていながら集まったとかいうパターンが考えられる。実際、そういうことは多いだろう。

で、さらには、4つの太い弦を操る演奏者が本番前に急に脱退するとかして、ライブで実際にギターボーカルとドラマーのふたりで演奏したことがある人もいるかもしれない。

「積極的ふたり」というのもあって、そもそもネガティブな理由じゃなくギターボーカルとドラマーのふたり編成を望んでやっている人もいるだろう。はじめはベースのいたバンドからベースが抜けて、それがいつしか積極的2ピースバンド様態になるバンドもいるだろう。

The White Stripesが出てきて、「そのカタチってふつうにアリだね!」という価値観が一般の音楽好きに浸透したのではないかと思う。もちろん、それ以前にだってあっただろうけれど。

『Seven Nation Army』。2003年発表のアルバム『Elephant』の1曲目に収録されている。

Seven Nation Armyというタイトルは、Salvation Army(救世軍)をボーカルのジャック・ホワイトが昔、聴き間違えていたことに由来するそう。

歌詞は、自分たちを追い回すマスコミの存在が背景になっているのかもしれない。ボーカルのジャックとメグは弟と姉というのが公式だけど、実は元夫婦だというのが漏れたのだとか。

現実はともかく、作品・歌詞がかっこ良ければそれでいい。もちろんその表現者をとりまく現実の問題というのはいつも、新たな表現を生む。この曲だって、現実なしには生まれやしない。そういう意味では、生まれる作品さえ良ければ現実はどうでもいいとは言い難い。現実が資本になって作品は生まれる。

曲はいったん本人の手をはなれて発表されたら独立する。個の存在となる。表現者は親である。そういう意味で、表現者と作品は別人であるが、かつその出自は切り離せない。悩ましくもただならぬ関係なのである。ジャックとメグの関係にも、共通点がありはしないか。いや、あってもなくてもいいのだけれど。

曲、かっこいい。このリフがサッカーアンセムになっているらしい。

「ギターにしちゃ、低すぎる!」私はうなる。

下げたチューニングをしているのかと思った。実際に、真似してやってみる。下のBまで出ているから、本来のギター弦のいちばん低い音Eよりも完全四度下げることになる。ボヨボヨになっちゃう。かなり太いゲージの弦を選べばなんとかなる? いやいや、そんな苦肉の策はいらない。オクターバーで下げちゃえばいい。エフェクターだ。

途中でみられるギターの特徴的なサウンドは、オクターブ奏法+ボトルネック奏法と私はみる。なおも私はうなる。この限定された編成で演奏に幅を出す、いい発想だと思う。ライブじゃなくて、レコーディング音源のほうはダブっている(多重録音で別録りしている)かもわからない。いや、どうだろうな。この2人組なら、せーのでイッパツ録りかもわからないけど。

ベースレス2ピースバンド(あるいはスリーピースバンド)の悩み、ギターソロのときのバッキングどうすんねん問題が残る。そこで見事なひとつのアンサーを先のライブ映像は提示してくれている。2小節に1回、そのアタマでジャンとコードを鳴らしておいて、それ以外のところで自由にボトルネック! なるほど。そうきたか。私だったら、複数の弦で和音を感じさせながら旋律も奏でるフレーズを小賢しく工夫して、練習を重ねて器用に本番で披露する、なんて表現をつい選んでしまいそうだがジャックはそんなことをしなかった。

ドラムスのメグの演奏がまたすごい。どうすごいかって曲中、ほぼ4分音符である。8分音符なんて、一回も出てこない。基本のリフに組み込まれているのが、2拍3連風のリズム。これ、厳密には2拍3連じゃなくて、タイで結ばれたシックスティーンビートだと思う。でも、メグのラフな演奏もあってか、2拍3連っぽくきこえるところもある。ジャックのほうがリズム感が良さそうだ(ジャックはドラムの経験もあるとか)。メグの演奏はそれ自体魅力。なんと伸びやかに叩くんだろう。ライブ映像、イイじゃん。これで成立させるって、真似し難い。

ボーカルメロとかギターフレーズはブルーススケールを基本にしている。「ミーーミソッミッレドーーーシーー」って感じ。ドがマイナーペンタトニックスケールからは外れるかな? このドがいいよ、ドが。Eのナチュラルマイナースケールというか。

薄暗く狭い部屋の淵。とどまりよどんだ、たばこの煙。ガレージロックと聞くとそんな曲想をもった音楽を想像しがち。The White Stripeのサウンドはうざったい煙をかき散らし、その向こうを垣間見せてくれる気がする。

力を行使する知性を感じる。クレバーでクールな人格を持っていそう。煙たくて暗い部屋だけがこのキャラクターを育むのは難しいだろう。そういうところが案外、ロックなドラマに欠ける平凡な出自の私の心に響く一因なのかもしれない。

青沼詩郎

【参考書】

『本当はこんな歌』町山智浩著、アスキー・メディアワークス刊、2013年。『Seven Nation Army』のナカ・ソトについて知見をくれる。このブログで私が本曲に焦点を当てるきっかけをくれた。