カレンダーは前の年のうちに新年のものが要る

大滝詠一さんの創意とコンセプトのアルバム『NIAGARA CALRNDAR』。発売が1977年の12月25日とされているようです。が、複数あるミックスのうち、オリジナルリリースと思われる1977年発売の音源に対して「78年版」なる表記があります。発売が1977年内なのだから、「77年版」の間違いでないのか? と率直に思いましたが違うのです。

要は音楽のフォーマット(媒体、あるいは形式)をした「カレンダー」なので、新年に備えて発売は1977年内である必要がもちろんあるし、「バージョン(版)」の名前としては新しい年の数字を冠する必要があるのです。つまり、「1977年内発売の“1978年のカレンダー”」なワケですね。腑に落ちました。

前年のカレンダーよありがとう。

Rock ‘n’ Roll お年玉 大滝詠一 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:大瀧詠一。大滝詠一のアルバム『NIAGARA CALENDAR』(1977)に収録。

大滝詠一 Rock ‘n’ Roll お年玉 81年リミックスと78年版の聴き比べ

大滝詠一 Rock ‘n’ Roll お年玉(81年リミックス版)を聴く

笑ってしまうくらいにカラオケみたいなボーカルエコー。年明けだけ許されるくらいなやりすぎ感が全力で私を笑わせに来ます。酔っ払っているみたいに私の脳内をとろかせ、カクテル(攪拌)します。あれ、今は西暦何年だっけ?

何を言っているんだこのおめでたい酔っ払いは⁈ と突っ込みたくなるような珍奇な言葉づかいと言葉のはまりかたです。そう、とんでもない位置に語句(単語)のひとつひとつをハメる(あてている)ので、何を言っているかわからない感があるのです。しかし針の穴に糸を通すよりも緻密で繊細な狙い撃ちの歌唱技術のおかげで、ちゃんと聞いていればちゃんと語句が聴こえてきます。何を言っているのかわからないのはもはや元の言葉が口語だかスラング的でそもそも私の語彙の辞書にないせいです。“She’s my Tallahassee lassie Okefenokee / Down in the Palisades Park”とか……

フロリダの地名とかですかね。Lassieはスラングで少女とか女の子とかそんな意味があるみたいです。 Tallahassee lassieとかPalisades ParkFreddy Cannonの持ち歌に同名のものがあります。音楽文脈が深い。つまりこれが“Rock ‘n’ Roll お年玉”の主題の表れなのでしょう。

右のほうから、あるいはエンディング付近ではさらに追加のトラックのハーモニカが聴こえてきます。アリちゃんこと松田幸一さんの演奏とクレジットされています。かろやかにひらひらと身をかわしながら舞うように、シンプルなモチーフからトリッキーで細かいテクニカルなフレーズをさらっと描いていきます。

左にブォンと迫力のある音色でシンプルな伴奏を入れているのはバスハーモニカかと思いましたがバリサク(バリトンサックス)もクレジットされていますのでそっちかな。低くて太いが倍音も強いです。クセになる音色。

リズムが音頭っぽいですね。シャッフルビートというよりは和物の血筋を感じます。

女声がつねにワーとかアーとかを描きこみ、“お年玉” とか“ちょうだい”などの語彙で合いの手をいれます。

オープニングは人がヒタヒタと入室して来る履物をまとった足音、去る月のカレンダーのミシン目を破り取って新しい月を表に露出する動作の環境音につづき、直接的な新年のご挨拶。音頭をとる大瀧さんの独白に続き、“おめでとうございます”と多勢の声が加わります。

エンディングは女声の“ちょうだい”。おねだりでしめます。“景気のいい一年を私にちょうだい!”的な響き。今年も良い年になると自分に暗示をかけましょう。順風ばかりではないことも見越して、常に先手を打っていくのみです。

大滝詠一 Rock ‘n’ Roll お年玉(オリジナル 78年版)を聴く

バリサクのブリブリと動きのある旋律が私の注意を引きます。漂うスティールギターの音色。ハーモニカ、それから女声のバックグラウンドボーカルも左右に振り分けているのがわかりやすい。両方の耳を交互に刺激します。「ブォン」と左側の低い音域でうなるのは、やっぱりバスハーモニカ的なものなのかどうか。

各パートの音の輪郭がわかりやすいです。81年ミックスと比較すると、78年版のほうが各パートのウェット(残響)が控えめでドライな印象の音像です。音数が結構多いですが、緻密な定位づけでちゃんと分離も確保して聴かせようという意図を感じます。

残響の設計を含めて、渾然一体となってきらびやかな気持ちよさで分があるのは81年ミックス。ひとつひとつの音の扱いや設計に込めた無限の意図、大瀧さんという職人の個性とリスナーの距離の近さをより感じるのは78年版です。

二つの版を両方つづけて聴いて初めて気づく点がたくさんあります。ひとつの楽曲に込められた情報がいかに多いか。そしてミックスの違いでそれらが利き手に与える印象、情報の勢力図がいかに劇的に変わってしまうか。その実感に恐れを抱くほどです。

あとがき 脱力と穿ちの光る作詞作曲の兼業

曲の細部、音の設計に無限の意図や職人の手技が宿り、そこが鑑賞の楽しみでもあるのは事実ですが『Rock ‘n’ Roll お年玉』楽曲のもつ最たるメッセージは、シンプルに大衆に向けたおめでたい気持ち、楽しさや明るさを提供したい・共有したいという友愛でしょう。お正月文化を貶すでもなく、ほどよく「笑っている」のも好感です。大瀧さんらしい、脱力と穿ちの光る「新春寄席」の前口上みたいな作詞作曲の兼業もみどころです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>NIAGARA CALENDAR

参考歌詞サイト 歌ネット>Rock ‘n’ Roll お年玉

大滝詠一 ソニーミュージックサイトへのリンク

『Rock ‘n’ Roll お年玉』を収録した大滝詠一のアルバム『NIAGARA CALENDAR』(オリジナル発売年:1977)。30th Anniversary Editionには78年版と81年のリミックス版の両方を収録。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Rock ‘n’ Roll お年玉(大滝詠一の曲)ギター弾き語り』)