記憶に残っている映画

あまりたくさんの映画を観る方ではない私です。記憶に残っている作品がぽつり、ぽつりとあるくらい。映画そのものは好きで、劇場に観に行くのも、家や好きな場所で小さな画面で観るのもどちらも好きです。

記憶に残っている作品のひとつが『それでもボクはやってない』で、加瀬亮さんが出演していました。監督は周防正行さん。痴漢冤罪がテーマの作品で、「社会派」などと呼ばれることも多かったのじゃないかなと思いますがそう呼ばれていたという根拠は特にありません。

痴漢冤罪というテーマは重く苦しく、クリティカルなものに思えます。ですが、周防正行さんが描く世界は、ずっと淡白でした。味気ないとかそういう意味でなく、率直なのです。加瀬亮さんという、「どこにでもいそうなお兄さん」っぽい外見を有した俳優さんと、作品の扱う主題や舞台がよくマッチしていました。周防正行さんにも加瀬亮さんにも、私はこの作品をきっかけに好感を覚えました。

『それでもボクはやってない』は2007年の作品。いつ観たのか自分の人生の時期との照合がとれていなかったので、へぇそんな時期の作品だったかと今更まじまじと思っています。

思えば森博嗣さん原作で押井守さん監督のアニメーション映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』が2008年。主要なキャラの声優で出演したのが加瀬亮さんでした。これをきっかけに私は原作シリーズならびに森博嗣さんのあらゆる著作に、後年ずっとに渡ってずぶずぶにはまってしまいます。当時私は大学生で、この作品は劇場で観たのを記憶していますし、もやもやさせる魅力があって、ひとりで劇場で観たのち当時付き合っていた人を連れて再び劇場で観るくらいはまった記憶があります。押井守監督を私に強く印象付けるきっかけの作品でもありました。

『それでもボクはやってない』も『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』も自分が大学生だった頃の作品なのだと勝手ながら記憶の照合がとれたのはさておき、ずっと後年になってから、映像コンテンツのサブスク(アマゾンプライム)で周防正行監督の『Shall we ダンス?』(1996)を観ました。

社交ダンスにさまざまな音楽が用いられるし、主題歌がドリフターズの『ラストダンスは私に』で、1960年代くらいの録音作品の質感が私は無防備にえこひいきするくらいに好きなのでなんとなく鑑賞し始めたと記憶しています。

『それでも僕はやってない』よりは、そもそも社交ダンスという楽しい活動が主題になっていますから、劇中ではコミカルでニヤリとさせる場面に出会います。淡白で実直な目線という点では『それでもボクはやってない』の監督と同じだと言われたときに納得の行くところかなと思いますが、それでも全然違う作品でどちらも私は好きです。草刈民代さんの訥々としたコムスメ感と、気持ちの変化やちょっとした価値観の成長を思わせるエンディングの「これぞタイトルコール」な決め台詞。役所広司さんの演じる、下心と純朴な気持ちが混じり合ったどっちつかずですべてをぺらぺらしゃべらない主人公のリアル。渡辺えりさんや竹中直人さんが火花をばちばちさせて弾けるようなコミカルでスパイシーな場面の数々。好きなところがいっぱいあります。

あまりたくさんは観ないと言っておきながら、こうして書いていると映画そのものは大好きな自分に気付かされます。勝手な内省、ひとり合点を読んでくださってありがとうございます。

Save the Last Dance for Me(ラストダンスは私に) The Driftersを聴く

作詞・作曲:Doc Pomus、Mort Shuman。The Driftersのアルバム『Save the Last Dance for Me』(1962)に収録。

エンディングに向けて熱量、質量感を上げて行くのがうまいです。しれっと始まるオープニングが良いいですね。

ベースとピアノが強調する1拍目オモテと2拍目ウラ。勢いがつくリズムです。

ドラムセットがいなくて、チーチチ……とトライアングルがハイハット的な役割。タイコの類をはじめはあまり感じないのですが、後半でトントコと存在感が出てきます。スナッピーをおろしたスネアを柔和に叩いているのか、コンガなのかなんとも判別のつかない感じのタイコです。独特の図太いヌケ感はコンガかな?

コーラスグループとだけあって、あらためてヘッドフォンでじっくり聴くとかなり下のほうの音域まで男声が出ているのを感じます。中盤のヴァース以降は”Oh, I Know” や“You Can Dnace”など歌詞に含まれるフレーズを壊れて巻き戻るレコードかテープかみたいに繰り返します。コーラスはアー系母音で壮麗に。ストリングスが絢爛に盛り上げます。

メインボーカルの「ンー……」と悩ましげなニュアンスづけが端正な歌唱にほどよく汚し・濁し感をそそぎ、大人の社交場にかしこまってしまう心をほだします。社交ダンス、気軽に初めてみようかしらなんて思わせる気さくさです。

思えば、ウッチャンナンチャンがテレビのバラエティ番組で社交ダンスをやっていたのを観た記憶があります。あれが映画『Shall we ダンス?』(1996)と同年で、ちょっと「ブーム」みたいな機運があった気がします。当時の私は小学生でした。

結局何はさておき音楽のほうに行く私です。チャチャチャ、ルンバ、マンボ、ジルバ……音楽がつまったお楽しみ箱が社交ダンスの分野にもごろごろ転がっています。気分を外国に連れ出してくれる。また色々聴いてしまうんだろうな、私。

図:『Save the Last Dance for Me』ベースのリズムパターンの採譜例。ピアノ、トライアングルと連れ合ってベーシックを築きます。ギターもピアノと近い帯域にいる印象。ブリッジ(1分3秒頃~)付近でギターのストロークが密度・熱量を増し、踊るような足取りを感じさせます。どんなに身体が不自由になろうとも、最後のダンスは君と踊るからとっておいてよ……と、胸熱なメッセージと重なって思えるギターです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ラストダンスは私に

ワーナーミュージックジャパンサイト The Drifters

参考Wikipedia>スカイ・クロラシリーズ

参考Wikipedia>Shall we ダンス?

The Driftersのアルバム『Save the Last Dance for Me』(オリジナル発売年:1962)

映画『Shall we ダンス?』(1996)

アニメーション映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Save the Last Dance for Me(The Driftersの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)