京都音博2026のくるりステージの幹をなしたレパートリー “The Veranda” 移ろう景観と儚さと恒常
トップノートライティングのお手本。定型リズムの弱起フレーズをリフレインしながらポジションを移ろっていくボーカルメロディ。コードはほぼⅠ、Ⅳ、Ⅴのスリーコードで済んでしまいます。大衆にやさしい。Bセクションは強起&符点のリズムになりメロディの性格が変わります。
世界はせまく、同じで、丸い、ただひとつと歌います。狭く、距離が近い=同じ(運命共同体)であるとする平和文脈をメッセージとして読み取りうる尊さがあります。
1964年に開演したディズニーアトラクション。このテーマソングがついたことを讃えてアトラクション名をChildren of the WorldからIt’s a small worldに改称したという最初期のエピソードがあるとか。ディズニーランド少年合唱団の実演が1965年にレコードで発売されているよう。作詞作曲のシャーマン兄弟はWinnie-the-Poohなどを筆頭に多くのディズニー音楽に携わります。シャーマン兄弟のお父上もティン・パン・アレー(ニューヨーク・マンハッタンあたりの音楽業界)界隈の名のなるソングライターだったのだとか。兄弟のソングライティングの分業・共同のすみわけの詳細は不明ですが、兄弟ともに楽器の演奏ができ、兄のロバートのほうは詩や文学にも長けるようなのでひょっとしたら作詞の中心を担うのはお兄さん(ロバート)なのかなと推測します。
日本語の歌詞をつけたのは若谷和子(わかやかずこ)さんで、サトウハチローさんのお弟子の経歴があるのだとか。
数多の具体のあいだに関連を見出すほどに世界は丸く、ぎゅっと一体のものに思えてきます。それが「狭い」かどうかは私にはなんともいえませんが、あえて「せまい」と歌うことがフックになっているのは本曲の魅力の一端として興味深い仕掛けだと思います。
The Veranda くるり 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:岸田繁。くるりの17番目のシングル『Baby I Love You』(2005)、カップリングベスト『僕の住んでいた街』(2010)に収録。
くるり The Veranda(シングル『Baby I Love You』収録)を聴く
基本的には主人公の足元は自宅のベランダ定点にいて、たばこの煙を吹き吸いしながら、呼吸をするように過去といまとこれからのことが交差するような心象・情景がサウンド面でも表現されます。
リードボーカルの描線は終始単一でダブルやハモリ、バックグラウンドボーカルもありません。これが主人公のありのままのくらしの真実を表現した曲に思える随一の意匠しょう。アコースティックギターをストラミングするコードとリズムの下支え。これだけでも、すなわち弾き語りでも成立しうるし真実を映すことのできるキャラクターの楽曲といえます。それをバンドでやるのは実は案外緻密なバランスを要求されます。
左右にエレキギターが開いてそれぞれ定位します。目立って聴こえるのは左右それぞれにある2本のエレキですが、すこし右寄りだがやや内側に入ったトラックもある?かどうか。3本くらいのエレキがステレオ空間に同居しているかもしれません。
歌詞「それとも全部 忘れてしまうかな」に続いてギターのリバース音がふつふつと花ひらきます。記憶のなかの梅の花でしょうか。忘れてしまうかな?どうかな?忘れないでくれ!だいじなことなんだ!と記憶たちが無言の主張をするかのようなリバース音。録音物としてミックス上の演出が顕著に薫るお化粧といえばこのリバース音くらいで、あとは誠実な生演奏の描線のかけあわせでほとんど成立するでしょう。プログラミングやハードなコラージュはほぼないと思います。ズバリ演奏の空気が命です。
多様な記憶がよぎるようにピアノが、ベースがするすると記憶のハシゴをのぼりおり。エレキギターの発音のタイミングは気心のしれた仲が、生活の必要事項を過不足なく伝えあうような、あるいは必ずしも必要ともいえないありふれた呼吸のやりとりのよう。ドラムの音色は極めて精度が高く輪郭が明瞭で、散逸してしまいかねない空気を自宅の部屋あるいはベランダの空間としてフレーミングします。
反芻される「思い出すだろう」の歌詞。そしてエンディングだけに授けられたダブルタイムテンポの展開で、一気に今日もまた家を出て仕事やら何やらの用事に繰り出していく今から未来へものごとが動く様子が表現されるよう。便りをよこさない君のことをたばこを吸いながら束の間思い出したかと思えば、現実がたばこの火を消すように「また消えた」の歌詞でボーカルだけが瞬間ハダカになって回顧のリージョンがパタリと切れます。
現実の束の間のたばこのみの時間。私的空間の象徴:ベランダをモチーフに、記憶や思考がコラージュのようにぎざぎざ・ざくざく、あるいは境界が溶け合うように入り混じるひとつづきの脳内セッション。そして現実の目覚めのようにエンディングに偏重した音楽的展開の起伏、リアルで個性的なバランス感をそなえた構造・展開が絶妙です。
青沼詩郎
くるり 公式サイトへのリンク>僕の住んでいた街、Baby I Love You
『The Veranda』を収録したくるりのシングル『Baby I Love You』(2005)
『The Veranda』を収録したくるりのカップリングベスト『僕の住んでいた街』(2010)