最近、ここで音楽コラムを書いている。5月くらいから続けてきたから、何を取り上げようか迷うこともしばしば。
ただ音楽を聴いて、書くだけでは自分を素通りしてしまうこともあると感じて、最近は積極的に、記事で取り上げた音楽を自分でも歌ってみるようにしている。(YouTube チャンネル)
未知なる名曲はいくらでもあるだろう。私が無知なだけで。でもヒヨコ頭にインプットされた名曲メモリ、知っている「歌いたい歌」も尽きてくる。「歌いたい歌」に絞って音楽を漁るのも、ちょっと飽きがくる。
直近のリリースを集めたYouTubeプレイリストを流してみる。「最近の音楽ってこんな感じか」。じじくさい私。
キレイな音像のベース。はっきりしていて重心の低いビート。毒と刺激に満ちたギターに打ち込み。ハイファイな映像のMV。ナヨったボーカル。次々に飛び出す音楽に聞き惚れる。自分が好む音楽との差異が、かえっておもしろい。
「直近の音楽」に傾向を見出すも、それでいて多様。キャリアのある人もいる。椎名林檎率いる東京事変『赤の同盟』。
「直近の音楽」に影響を与え続けている張本人。ほかの新人たちのサウンドに感じる毒や刺激、ビートや低音と浮遊するウワモノや歌の対比。そうしたトレンドの発信元になっている存在こそ椎名林檎・東京事変ではないかとシミジミ思う。ワンコーラスで流してきたプレイリストだったけど、ここで足をとめてフルコーラス聴いた。ファッション的に見た目や形式をいくら真似されても、ここには林檎の赤がある。
プレイリスト中に、VTuberが混じった。YuNiというシンガー。
攻撃性高めの音楽をたくさん流したあとに聴くと、まろっこい(まるい・まろやか・なつっこいの造語)ポップの耳触りに妙に安心する。漫画原作でアニメの『宇崎ちゃんは遊びたい!』…のテーマソングらしい。
YuNiはそのいろんなアーティストの既存曲のカバーを多数投稿している。最近、「カバーのネタ探し」が自分の問題になっている私は関心が湧いた。30歳過ぎた野郎が、ただ置いたカメラの前でへたくそな歌を録りっぱなしにした無加工で無工夫な動画をアップしているだけの私のチャンネルとは大違いである。
この曲の背景を音楽ルーツを交えて語るにしても、椎名林檎・東京事変の存在は論旨の重要な鍵なのではないかと思える。そこにボカロやネット動画投稿文化が激しくぶつかった。その先でいいとこどりをした未来形がVTuber…みたいな。
姿をさらさないでパフォーマンスする人は、VTuberが出てくる前からいた。姿はいいが顔出しNGというのもある。私のピヨピヨ脳アーカイブで思い出すのはBEAT CRUSADERS、GReeeeN、MAN WITH A MISSION。目はOKというラブリーサマーちゃんもいる。VTuberの論旨とはだいぶ外れたな…。
VTuberの制作については謎が多い。私が語るには無知すぎる。が、少なくとも「ロケ地」の制約はなさそうだ。基本的に、音声・音楽の制作環境とコンピューター・グラフィックスのキャラの動きを制作できるデスクトップがあればできそう。
ロケ地の制約がないからといって、ローコスト・手間レスになるとは思えない。大変なんじゃないか? それともメリットが多いから流行ったのだろうか。
ただ、歌い手本人がいくらおっさんやおばさんであっても、ぶさいくでもすっぴんでも見た目(だけ)はうるわしいアニメ風キャラクターになれる。そのメリットはありそうだ。
いろんな仕事を持って、それらを並行して活動する生き方が主流になりつつある(と思う)。たとえば先に一瞬名前だけ出したGReeeeNは歯科医らしい。VTuberたちにも、公務員だとか会社員だとか多いのじゃないかと想像する。顔を出さないメリットがその人の生き方を豊かにするなら、有効な選択肢だと思う。
私は時代遅れなやりかたで、前からあるものを愛でて懐かしんだり、その良さを確かめては安心してばかりいる。でも、たまに「いま」を覗き見る日をつくるのもいい。もう手遅れなのは承知だが。私自身が今更どうにかなることもない。それでも音楽は面白い。
青沼詩郎
YuNi
東京事変