ウルフルズに憧れる。トータス松本の歌声が大好きだ。私はずっと自分の歌にコンプレックスがあった。声がくぐもっているし、音域が低くて狭い。トータス松本の声はパワーがあって暖かい。強くて優しい。こういうふうに歌えたらいいなと思った。
好きになる曲がいろいろあっても、なかなか自分には歌えない。そんな思いが、自分の歌声にコンプレックスがある私には強かった。弱気づく反面、ウルフルズの曲、トータス松本の歌声は、その声のイチバン照りがあって「オイシイ声域」が、私の声域のオイシイ部分とそう遠くもない気もした。実際、ウルフルズの曲の中には、私にも歌える曲がいくらかあった。その中のひとつがシングル曲かつアルバム『すっとばす』収録の『借金大王』(1994)だった。
この曲は漫画『ナニワ金融道』を原作とする同名のテレビドラマのエンディング等にも使われた。あまりにもドラマの内容とマッチしている歌だけれど、調べてみるとテレビドラマがはじめて放送されたのが1996年とある。この曲が出たのは1994年だから……そう、ドラマのための書き下ろしにあらず、か。
ドラマの存在なしに、借金する若者とその周囲の人間関係をテーマにしてこの曲を書いたのだとしたら鋭くユニークな着眼や発想だ。あるいは、原作の漫画の発表は1990年〜1996年なので、作詞・作曲のトータス松本が原作のファンだったのかもしれない。あくまで私の想像の域だけど。
そのへんの真実はさて置き、曲、詞のユニークさ、妙。金を貸したであろう主人公と借りた人物を軸に、借金の本質を鋭利につく。人間の情けなさを含めて描き、ブルージーな匂いをまとわせたロックンロールの態度。
この『借金大王』を収録したアルバム『すっとばす』の魅力も見直す。ファンク、ロック、ブルース、歌謡、フォーク……多様なスタイルの味わいで、かつエネルギッシュでわびさびあるサウンドがいい。プロデューサーの伊藤銀次の存在も大きいのだろうか。
『借金大王』は音階の第三音をフラットさせた、ブルーノートが良い。イントロから印象的なギターリフの頭のトーンがそうだ。己の情けなさと世の中の非情さにもんどりうつ響きを映し見る。そこからドラマや映画さながらの物語と舞台設定と、明るく突き抜けたトータス松本の歌唱、バンドのサウンドで引き込まれてしまう。高校生くらいのときから私のお気に入りの一曲だった。
青沼詩郎
ウルフルズ 公式サイトへのリンク
https://www.ulfuls.com/
ナニワ金融道(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%8B%E3%83%AF%E9%87%91%E8%9E%8D%E9%81%93
ウルフルズ『借金大王』を収録したアルバム『すっとばす』(1994)
『借金大王』を収録したウルフルズの『ベストだぜ!!』(2001)