V6とオリジナルのAGHARTA(アガルタ) テレビから流れたWA

V6の面々が愛らしくキラキラしている。暖かみのある色調の画面。シックスティーンのグルーヴがはじけるダンス。メンバーで声を合わせる響きはジャニーズ・ソングから童謡・愛唱歌に渡り、あらゆる人をつなぐ。

『WAになっておどろう』はV6の歌だと思っていた。1997年に世に出た歌。当時私は11歳、小学5年生くらいか。テレビが私の主たる情報の入手源だった当時、V6が歌うパフォーマンスを目にした。これが『WAになっておどろう』の私の最初の認知だ。

オリジナルアーティストはAGHARTA(アガルタ)。NHK『みんなのうた』で放送された。1997年4・5月。AGHARTAのシングル『ILE AIYE 〜WAになっておどろう〜』発売が同5月。V6のシングル『WAになっておどろう』が同年7月。V6のカバーは素早かった。「覆う」を意味する「カバー」の概念を思う。すばやいカバーでオリジナルを覆ってしまった。当時の私はオリジナルのAGHARTAの認知の機会を逃したのだ。作詞・作曲は長万部太郎こと角松敏生。

オープニングやエンディング付近の遊びのあるミックスやアプローチ、壮麗な奥行きあるサウンドが圧巻。中庸なテンポの4つ打ち。デジタルとエスニックな響きを掛け合わせたダンサブルなグルーヴが素晴らしく、円満の長尺。ライブでみせるテンポアップのアレンジはこの音源にみられる。

『ILE AIYE 〜WAになっておどろう〜』 角松敏生 30th Anniversary at 横浜アリーナ

なんと若々しいお兄さん。ポジションの高いはつらつとした声。2011年は東日本大震災があった年。歌が苦境に立つ人の背中を押す意味をまとった社会情勢にあったかもしれない。そうした境遇で聴く『WAになっておどろう』はどんなものだっただろう。今でこそ想像するしかない。全霊のステージは響くものがある。

パーカッシヴなアンサンブル。低いタムがズンズン響く。ラテン・パーカッションのパカパカと乾いた陽気な響きがはじける。ベースのスラップソロもごきげんだ。聴衆もみんなハンズアップし左右に振る。コーラスが壮麗。どこまでがステージからの声で、どこからが聴衆を含めた会場全体の声なのかわからない。いつのまにかギターを手にした角松敏生が早いパッセージでギターソロの後奏。達者である。

終わりかと思ったらテンポを早めてリズムセッション。サビは続く。1拍ごとにジャンプするならこのテンポだ。エンディングはセブンスの響きでキメてかき回す。観ごたえ・聴きごたえたっぷりの長尺ライブアレンジ。YouTube概要欄にある通り、横浜アリーナでの2011年の6月公演。30th Anniversaryとあるように、角松敏生のデビューが1981年6月。

長万部太郎のペンネームで作家として生産し、歌手をプッシュアップする裏方の人物かと私は長いこと思い込んでいた。自身がフロントに立ちこんなにもステージにみずみずしさとエネルギーを溢れさせる稀有な人であるのを思い知った。小学生の私が知り得なかった、音楽界のハイライトのひとつにうなる。

ヨルバ語 魂の家 意味を超越した響き合い

「イレ アイエ」はナイジェリア、ベナン、トーゴと西アフリカ地域で話される言語で「魂の家」を意味するらしい。V6版で薄く認知していた頃には「イレ アイエ」の存在を知らなかった(フルコーラスを通して聴く機会も少なかったかもしれない)。V6版では「イレ アイエ」はメインタイトルから外されているがAGHARTA版ではむしろ主題だ。一人ひとりの歌の線が輪郭を保って響き、重なりあう場所すなわち魂の家なのだろう。

「イレ アイエ」のフレーズが登場するのは間奏だ。主音の低音保続の上でⅠ-Ⅳmを繰り返す。メロやサビではないところに曲の主題、核心たるモチーフを配置するのも見習うべきソングライティングの一法だ。字面にするとなんとア行の多い五文字だろう。「入れ(イレ)ぁ家(アイエ)」の駄洒落を思いつく。外国語と日本語で響きも意味も似る偶然。他に例がないこともないだろうが、稀有な響きである。ヒットソングたる一因かもしれない。意味も発音も超越して魂が響き合う。

作家で聴くJASRAC会員作家インタビュー>角松敏生

JASRACサイトにおける2011年3月、角松敏生30周年時のインタビュー。長万部太郎の由来は、角松敏生氏が由利徹のファンだったから。由利徹氏のギャグ「オシャ、マンベ」に由来するそう(参考:remanbe>「オシャ、マンベ!」の生みの親、由利徹さんってどんな人?)。

「おしゃまんべ」で私が真っ先に思い出すのは大滝詠一氏がコーラス隊に与えた遊び心あるペンネーム(クレジット表記)「オシャマンベ・キャッツ」(シンガーズ・スリー)。リンク先のインタビューは角松氏がはっぴいえんどから影響を受けたエピソードからはじまる。やはり根があちこち繋がっている音楽(芸能)の世界を思う。コンピュータを使った一人での音楽制作の完結性を挙げたうえで、他人と奏でるのを忘れないよう説く角松氏のメッセージにグッと来る。私にとっての箴言である。

青沼詩郎

参考リンク

角松敏生 公式サイトへのリンク

V6 エイベックスサイトへのリンク

Wikipedia>WAになっておどろう

Wikipedia>ヨルバ語

『ILE AIYE 〜WAになっておどろう〜』を収録したAGHARTAのアルバム『Revenge of AGHARTA』(1999)

AGHARTAのシングル『ILE AIYE 〜WAになっておどろう〜』(1997)。『WAになっておどろう~ILE AIYE~ NHK みんなのうた VERSION』も収録。

『WAになっておどろう(NEW ALBUM MIX)』を収録したV6のアルバム『NATURE RHYTHM』

ボーカル再録、アレンジ変更のある『WAになっておどろう [SVb version] 』を収録したV6の『SUPER Very best』(2015)

V6のシングル『WAになっておどろう』(1997)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『WAになっておどろう 〜イレ アイエ〜 (AGHARTAの曲)ギター弾き語り』)