流れ者のこころ漂う雲の上
うつろな空にへばりついてささくれて伸びる飛行機雲みたいなどんと氏の歌声がロングディレイの幅をまとってバンドの演奏に乗ります。
16のグルーヴでテンポがゆったり(♩=65くらいか)なので、眺める距離を遠くすると大部分は1・5・6・4のよっつのコードをうつろっているに尽きるシンプルなパターンなのですがつねに根無草でさすらっているような情景の移ろう印象をくれます。
ブリッジのところ「さびしいよって……」、コーラス「夢の中(so precious)……」といったセクションの変化が悠久な眺めの変化、ライフステージの変化を思わせますし、ヴァースにおける、歌い出しのフレーズをすかさず反復するパターンが耳に残ります(「流されて、流されて」……)。人生は些事の反復やルーティンを大部分にしながらも、その小さな単位のくりかえしのなかですごしずつ大きく舵をきりながらどこかへと向かっていく真理を思わせます。
オルガンのポピポピと愛嬌のある丸い音色が私の胸を掻き回します。鋭いギターの歪みと輪郭。ライドシンバルのエッジもきらびやかで、ベースはズゥズゥと輪郭がある音色です。Let It Beっぽいうギターソロにもご注耳いただき、音楽文化の大きな潮流を背景に感じながら夢のなかをさすらう心をイメージして聴いてみてはいかがでしょうか。
くるりによるカバー音源が発表されています。シングル『三日月』(2009)のカップリングで、B面ベスト『僕の住んでいた街』(2010)にも収録されています。くるり版はギターのリズム形がレゲエチックで、ピアノの演奏にニューオリンズフィールが宿っていてガンボ:世界の音楽のごった煮らしさがうまみ深いです。
BO GUMBOSのバンド名の由来はBO DIDDLEY(ロックンロールレジェンド) +GUMBO(ニューオリンズのごった煮音楽)にあるそうです。部分的には前身バンドといってもいいかもしれないローザ・ルクセンブルグ(名曲『橋の下』のイメージを伴う!)のメンバーがBO GUMBOSの看板を動かしはじめます。本曲『夢の中』はその新バンドのほう:BO GUMBOS名義の代表曲のひとつと解釈してよさそうです。
夢の中 BO GUMBOS 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:BO GUMBOS。BO GUMBOSのアルバム『BO & GUMBO』(1989)に収録。
BO GUMBOS 夢の中(アルバム『BO & GUMBO』収録)を聴く
河面の底から飛行機雲の天井まで届きそうなサウンドスケープが大きいです。メンバーの頭数でほとんど再現できそうな誠実なアレンジであるにも関わらず。スケールが大きくてロマンティックなのです。
オルガンのにじみ広がるディストーション感のイントロから、巨大な空間を思わせるドラムの音がイン。硬質で、ボトムからハイまでの距離が雄大な印象のサウンド。本曲含むアルバムの収録はニューオリンズで行ったとのことです。本当にどうやったらこんなにイケメンで器の広いドラムサウンドが創出できるのか。大河の流れのように神秘的です。
ボトム、左右、天井に自然に広がる空間がバンドの生身の演奏で立ち上げられていて、遠くまで抜けている空間にどんと氏の魂の叫びが渡っていきます。元トラックの音量を追い越すのではないか、と思うくらい、ところにより、酩酊感と音量の大きなディレイ・こだま効果がかむさります。自分はここにいながらも、世界のどこにでもいるのだ、空でつながっているのだと思わせる、バンドの演奏とリードボーカルの質感が最高の強調と対立をうちたてています。
リズムのギターは非常に軽いダイナミクスでチャキっとレゲエのような語彙で伴奏しもします。4分台なかばごろの、オルガンソロとエレキギターソロの同時並行は圧巻。喧嘩するでもなく、お互いが自律的な動きをしながらもひとつの空間を共有して自由を謳歌します。
コーラスのso precious down in New Orleansのフレーズにもときおり強く酩酊感のあるディレイバックがあります。「夢の中」のリードボーカルとかけあいながら……そのままフェードアウトするでもなく、ベースをカノン進行ふうに下行させていくキメのフレーズ結尾に、自分でひらいた風呂敷をみずから畳んで音楽を収めてしまいます。飛行機雲はいつのまにかどこにあったかわからなくなってしまったよ。
ここにいるのに、どこにでもあらわれる、心に常にあるものの形を提起して思える名曲です。
青沼詩郎
BO GUMBOSのアルバム『BO & GUMBO』(1989)
くるりのB面集『僕の住んでいた街』(2010)