MV(2017年)

天井からのみおろしアングルを基調に展開する、まさに夢の中のようなMV。子供たちが可愛らしいし、大人たちが登場するシーンの演技・演出もコミカルかつどこか風刺も効いていてとっても痛快です。

手描き、写真、動画、コマ撮りなど技法が多彩。色彩と光陰の緩急・対比が際立っていて、友好心や遊び心があふれています。とても高度な作品だと思いますが、苦労や技術の駆使は完全にバックヤード(現実)に収納されており、映像は冒頭で述べたようにまさに「夢の中」。さらりと軽妙な触感で、後味爽やかな素晴らしい映像です。

リマスターのテッド・ジェンセン

2017年2月15日に発売した『夢の中へ』リマスター。マスタリング・エンジニアがテッド・ジェンセン。この人が担当した作品を私の好みで紹介すると、Norah Jones『Come Away with Me』(2002)、Billy Joel『The Stranger』(2011年のリマスター)、Paul McCartney『New』 (2013)、さらには斉藤和義『45 Stones』(2011)などがあります。邦人アーティスト作の担当例も多いようです。

参考:M-ON! MUSIC >井上陽水、名曲「夢の中へ」の新MV公開。かわいらしさの中に秘められた“毒”の意味とは

リマスター リスニング・メモ

右と左に振られたリード・トーンのエレキギター。2本でハーモニックな単音プレイ。Bメロでは歌に合いの手します。

ボーカルはダブリング。Bメロでハーモニーパートが入ります。2コーラス目ではAメロからハーモニーボーカル。

真ん中付近にオブリガートのアコースティック・ギター。とても明瞭で乾いた音に録れていますが、倍音が非常にきれいに出ていて豊かです。良い演奏・良い楽器。なんの楽器(銘柄、メーカー、商品名)でしょうね。

左にはリズム・ストロークのアコースティックギターも異なるパートで入っています。左は全体のバランスをとって抑え目。ふくよかで調和しています。やさしく気持ちの良い鳴りです。

間奏でハンド・クラップ。

ベースは1拍目と3拍目にストロークの比重を置きつつ、その打点の前に8分音符をくっつけ「ブーン、ブ・ブーン、ブ・ブーン……」といったリズム系。ドラムスのキックとシンクロナイズドです。

ドラムスは余韻を抑えたデッドでドライな音像。音量は全体的にちょっと抑え目に感じますがキックの音像が非常に素晴らしい。まるっこく気持ちの良い押し出しです。ベースと合わさって「夢の中」を快活に遊覧させてくれます。定位は右にあります。左のアコギ・ストロークとリズム出しの量のバランスをとっているのですね。ブラボー。

ピアノがとっても奥ゆかしく支えています。最後のBメロが反復されるところに差し掛かる瞬間にフィルインの8分音符の連打ではじめて存在感が出るくらい。しかしよく聴くとずっと「ロックンロールギター」風の、第5音を長2度上に動かして戻すようなフレーズがいるような気がします。うっすらなので自信がありません。隠し味のようにずっと和声とリズムを支える効力を発揮しているのかもしれません。楽曲結尾の和音の一発の余韻にピアノの豊かな倍音がいるのがわかります。やっぱり、ずっと陰で支えているのでしょうね。はっきりと「君が華だ!」というのとは違いますが、いるのといないのとではかなり違ってくるかもしれません。

感想

探しものはなんですか、と哲学もしくは内省的な問いを投げられたかとおもえば、探すのをやめるとみつかるなどと物事の真理を見据えた鋭い指摘もする歌詞です。かと思えば踊りませんかなどと誘われ、挙げ句の果てにサビ(Bメロ)ではウフッフ〜、です。夢の中のようなとりとめのなさ。まるで極彩色のおとぎ話。井上陽水のことばと音楽にはいつもぐらぐらと揺さぶられる思いです。愉快痛快。

そんな振り幅と色彩の落差をもつ曲ですが、リマスター音源を聴くとサウンド面も非常に丁寧につくられているのが伝わってきました(リマスターでないものとの聴き比べもしてみたいと思います)。

バンドでライブでの再現性が高そうな編成で描き切っているのも好感です。夢の中へという主題の広がりを思うとなんでもやりたい放題な気もしますが、的を射るような精度でまとまっています。無駄のない構築が美しさを醸していますね。さすがです。

青沼詩郎

井上陽水のシングル『夢の中へ』(オリジナル発売1973年、リマスター版2017年)。リマスター初回盤のみボーナス・トラック多数。

ご笑覧ください 拙演