作詞:加橋かつみ、作曲:村井邦彦。編曲:Jean-Claude Petit。加橋かつみのシングル(1970)、アルバム『加橋かつみ・パリ1969』(1969)に収録。

加橋かつみさんの朗々としたボーカルが漂い、壮麗な世界を抽出してハイライト紹介するみたい。アレンジ全体、情報量がすごい。3分で終わってしまうのが最高かつ惜しくもあります。

右にいるアコースティックギター。シャラシャラと絢爛に鳴ります。朗々としていて、ボーカルのキャラクターの生き写しに思えます。加橋かつみさん自身による演奏でしょうか。

大胆で贅沢なアレンジですが、最初のコーラスは惜しみなく、ボーカルとアコギに注目を集める、メインパートを裸にするアレンジ。オルガンがさりげなく低音をささえます。ベースがいる?と思ったらオルガンです、多分。バンドがインするところで竿物のベースも入ってくる感じでしょうか。サスティンが無限に出来てしまうオルガン、長いカウンターメロディや、和音の壁をつくる、倍音にクセのある音色でオブリガードをボーカルの隙間に入れるなどの役割を担っているアレンジに出会うことの多い楽器ですがとにかく万能な楽器で、ベースラインもこのように担えるのだと気付かされます。

エンディングで目立つ複弦の楽器はなんでしょうか。マンドリンよりはどっしりした楽器な想像をするのですが、12弦のギターなのか?複弦の音色がすると民族臭を感じる自分の耳の安易さを思いますが、実際そういう魅力が複弦の音色にはあります。ハンマリングでセブンスの音をしゃくりあげるようなフレーズが印象的。壮麗で全部入りな豪勢なアレンジを3分で終わらせるために、このフレーズを繰り返してフェードアウトすることが必須だったのかもしれません。実際、編集でテープをつないだような展開にきこえます。

オープニングのストリングスの駆け上がる16分音符は圧巻ですし、ブラスパートはパーンと福音を散らし……絢爛優美の烙印といわんばかりのハープがポロンと香ります。和音をアルペジオして表現しているのはこのハープなのか、エンディングでも目立つ複弦楽器をブリッジミュートして余韻をコントロールしてポンポンとピッキングして鳴らしているのかなんともわかりません。

壮麗なストリングスが模倣する、短2度でずり上がる印象的なボーカルメロディ。音形の反復も含めておしゃれです。西洋音楽的な出自のある、音楽的な美しさを感じます。この楽曲の、最も私が好む本質の魅力を映した部分。音形の反復、モチーフを丁重に扱う楽曲づくりで私の頭に浮かぶ好きな作曲家はかまやつひろしさん、いずみたくさんなど。すぎやまこういちさん、浜口庫之助さんなども思い浮かびます。モチーフを丁重に扱い、繰り返して印象づけたり変化させて発展させたり、別のモチーフを登場させて場面転換を図る。作曲が魔法でありつつも、決して魔法でない着実な技巧の集積であるのを思わせます。『翼をください』など、山上路夫さんの作詞とのコンビでの数多の作品で知られる作曲の村井邦彦さん。愚直なモチーフの反復でなく、ドラマティックで雅に展開し流れるメロディが最強です。

“花の世界を いつか僕等は 作りたい その日が来るまで 手をつないで かけて行こう 悲しみは 明日に”

(『花の世界』より、作詞:加橋かつみ)

最初のコーラスが顔役になっていて、楽曲全体を象徴している。それを、すこしずつニュアンスを変えながら念押しして重ねていくような歌詞の構成を感じます。シンプルでもあり、象徴的なところをすくって、観念的に熱をほとばしらせて走り抜けて、去ってしまう。この、コンパクトでショート・ショートな感じは、一世風靡したグループ・サウンズの数々の楽曲の構造と通ずる特徴を見出せるように思うのは私だけでしょうか。

加橋かつみさんが所属したザ・タイガースはすぎやまこういちさんによる作曲も目立ち、音楽的に豊かで仕掛けの多いレパートリーが多いグループ・サウンズ・バンドだと思います。『花の世界』は村井邦彦さんの作曲で、加橋かつみさんの朗々とした歌で、グループ・サウンズを出自にもつアーティストの新しい局面をブーストしたような妙作だと思います。村井邦彦さんと作詞家の山上路夫さんは赤い鳥のすばらしいレパートリーの数々を生んだ人でもあります。グループ・サウンズのムーブメントのエッセンスと、赤い鳥的な音楽の豊かさに実直でまっしぐらで潔白な感じのいいところがあわさったような、グループ・サウンズ・バンドで人気を博した加橋かつみさんのソロの船出を祝福するような快作だと思います。目の前に晴れた大海が見える気分です。「花の世界」といったら、「野原」なんでしょうけどね。壮麗なサウンドが「海原」を私に思わせます。

青沼詩郎

 

参考Wikipedia>加橋かつみ

参考歌詞サイト 歌ネット>花の世界

参考サイト Discogs>加橋かつみ>パリ・1969

参考サイト タワーレコーズオンライン>パリ 1969

X アカウント 加橋かつみ official

『花の世界』を収録した加橋かつみのアルバム『パリ 1969』(オリジナル発売年:1969)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『花の世界(加橋かつみの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)