作詞・作曲:岸田繁。くるりのアルバム『天才の愛』(2021)に収録。

悠久な音景

6分半越えの大曲……的なサイズなのですが、音が去ってしまう瞬間の私の気持ちは「良いぞ!!もっとやってくれ!!」です。ああ、終わってしまわないで……と。6分半でも短い……!名残惜しいのです。エンディングで金管楽器がうわぁーっとハーモニーし、エレキギターの潤沢にひずんだリッチな音がかけ合わさって……胸がわくわくします。ポップソングとしては6分半は明らかに長いですが……もっと聴きたい、もっと盛り上がれる!このわくわくする高揚のさらなる増長を望む気持ちの私がいます。

やわらかな管楽器の音色はこのアルバム『天才の愛』を脱退前最後の参加アルバムとするファンファンさんによる演奏ですね。トランペットでなくフリューゲル・ホルンか何かだったか、黄金色に焼けるような情景をトランペットから想像することの多い私ですが、潮風のアリアでの音色から感じるのはアルプスの青天井です(我ながら稚拙で貧弱なイマジネーションですが)。「潮風」と聞けば海をイメージするかもしれません。海辺や海洋から遠く山岳や高原まで、雲のようにまたがったり散ったりして透明な因果がつながるような、オープンで爽快な景色を誘います。

ドラムスのオープンなサウンドも楽曲のイマジネーションに多大に貢献します。石若駿さんの演奏ですね。ハイハットの半分開いたサウンドが表情豊かです。16分割の細かさで「ドドッ」と連なる、心臓の鼓動のようなキックはまるで眠りと覚醒のはざまをうろつく午睡のような気持ちよさ。適度な余白ある感覚で、悠久な雰囲気を醸します。

ベースはこのオープンなドラムスのプレイがもたらす余白に、むしろ心血を注ぎこむように、肉のふさをつけるようにストロークを描きこみます。16分割のフィールがいっぱいに出ているドラムスに対して、ベースには8分割のフィールに手厚さを感じます。

潤沢にひずんだエレキギターがドラムスとベースが描く大地や海原、それがが引く地平線のうえを飛び、浮かぶような趣です。いっぱいに風や上昇気流を受けて、数度羽ばたいては風に乗り……余白と上手に戯れる筋の確かさです。

ボーカルのハーモニーがだんだんと豊潤になり、個で滑空していた鳥から、群像の描写に移ろっていくような印象です。最後のほうのコーラスでは歌詞に“魚群”と含めており、海中で柱をなす魚の映像のイメージ……鳥にとってのフィールドは空で、魚ならば海が生活空間。自然の恩恵をうけて、人間が山岳や高原、平野の地を踏んで生きている。風光明媚な映像をたくさん喚起する言葉、歌、バンドの音のかけあわせが絶妙です。

生演奏の音によって壮麗で天井の高い空間を醸成していますが、途中16分音符でカタカタとメカニカルな振幅で揺さぶるようなプログラミングっぽい音が目を引きます。近年のくるりの楽曲っぽさの「はんこ」のようなものかもしれません。バンドの緻密で盤石なアンサンブル、気骨たっぷりの演奏をあくまで中心に据え、彩りを添える塩梅で機械的な「テック」が同居するような趣。お刺身のうえにちょっと添わった黄色い菊の花……みたいな、目を楽しませる感じです(私の喩が貧困でうらめしい)。案外、こういった気の利いた彩りこそが現代的なパッケージの必須要素かもしれません。

『真夏日』と『潮風のアリア』

個人の観察のまなざしを感じさせる、映像的で具体的な描写に、神から目線的な俯瞰、観念や抽象の結実がちらばったきらめきを感じる歌詞のラインの連なり。悠然としたスケール感、ひとつひとつの瞬間と、幅のある時間のうつろいが重ね合わさった味わいに、くるりの近作の『真夏日』を思い出します。

『真夏日』のほうがより、クローズドでスポットな目線……個人の肌身や趣味嗜好・関心の対象との距離感が近い感じがし、『潮風のアリア』のほうがよりオープンな帯の広さ、観察者としての主人公や、鳥や魚、それらを俯瞰する目線を自由に移ろいながらも、社会、人間の集団としての感情の掘り出しを試みたような幅・スケールの雄大な趣があります。そうした、対象や感情との距離感、「絞り」の弛緩の面で振れ幅があるようでいて、「組曲」のような、通底する複数の曲からなる「1曲」のような趣向を、『真夏日』と『潮風のアリア』の間に感じるのです。一体何故? センテンスの連なりによって幅や質量のあるものを抽出する態度なのか……確かな演奏の積み重ねの隙間に、ちょっとだけプログラミングの「ボンド」を注ぎ込んで「あそび」を接着したようなサウンドのつくりにも、勝手ながら通底するところを感じます。

言語で固定するのがむずかしい、媒体の向こう側にあるようなものを呼ぶなら魂とかそういう名詞がふさわしいのかわかりません。音楽を媒体にあそびと研究のあいだを行き来し実践する……くるりらしい妙作の一連にいつも、言葉の向こう側にある魂を揺さぶられているのです。

ユーザー、リスナーとしての私が観測するのは発表される楽曲、すなわち土の上に顔を出し、咲く花なり結ばれる果実なりなのですが、土壌、土の中で起こっていることがそうした成果を生んでいるわけで、成果物に土壌の特色を察知することがしばしばあるのです。畑を拓き、耕す未来のワクワクを思います。

補遺

ファンファンさんの演奏パート、フリューゲルホルンで確かでした。タンバリン、胸熱です。コレキタ感。管パートはホルンもあり、米崎星奈さん。音博2020も参加されていました(参考記事 音楽ナタリー>くるり&岸田繁楽団、充実のパフォーマンスを繰り広げた初のオンライン「音博」)。音景のディティール、深いです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>天才の愛

参考歌詞サイト 歌ネット>潮風のアリア

くるり / QURULI

『潮風のアリア』を収録したくるりのアルバム『天才の愛』(2021)