ブーメラン・ベイビー 加山雄三 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:弾厚作。加山雄三のシングル『白い浜』(1966)B面、アルバム『加山雄三のすべて~ランチャーズとともに』(1966)収録。
加山雄三 ブーメラン・ベイビーを聴く
フル英語。加山雄三さんの曲の多くは岩谷時子さん作詞で、割合的には少ないですが他の作家さんのものであるとしたら松本隆さんかなと記憶している私。『ブーメラン・ベイビー』は弾厚作、つまり加山さんご本人の作詞なのだと知り意外でした。
基本ダブルトラックのメインボーカル。加山さんの発声が軽やかです。日本語ネイティブのボーカル入門者が英語詞に挑戦した際に陥るような「いなたさ」は微塵もなく、流暢でドライな品性があります。
男声のBGV(バックグラウンドボーカル)がここぞのところで歌詞のあるオブリガードをいれます(“Return to me”など)。メインボーカルを追いかけるかたちですね。ランチャーズメンバーのボーカルでしょうか。
エレクトリックギターのソロのハーモニーが独特な空虚な響きを成します。ツインギターのように2本を重ねて録ったのでしょうか。歌の伴奏としては右にポキポキとリズミカルなギター、左にストラミングギターがいるでしょうか。
ドラムが右サイドに定位。左にベースの布陣で、左右にそれぞれギターがいます。男声コーラスが声を発すると定位の幅と厚みが広がる印象です。
ブーメラン・ベイビー アルバム『All by myself』(2004)収録バージョン
2004年のこのアルバムの発売時、加山さんは67歳だったはずです。1人多重録音セルフカバーアルバム。キャリアを重ねても意欲が高いですね。
ブーミーで分厚い音が収録されています。低域がブワっと質量感があります。ベースとドラムスは中央定位、ギターがサイドに開いた布陣はオリジナルと共通でしょうか。エンディングあたりで姿を見せるギターのリフレインが美味しい。
BGVもすべて加山さん1人の声の多重録音のようです。歌詞でメインボーカルを追いかける、発語の数が多めになった(“Return to me Return to me”……などと)オブリガードのボーカルが観察できます。
ギターのストロークがシックスティーンのオルタネイトを含めて緩急があるパターンで、細かくリズムのニュアンスを出します。そのぶん譲ってか、ドラムスはハイハットレスのパターンになっていて、キックとテシテシとスナッピーの尾ひれのリッチなサウンドのスネアでおおぶりな基本パターンを成し、フィルインで16分音符の連打が現れます。この16分音符が達者なものでGSっぽい語彙です。
山下達郎『COZY』(1998)収録『BOOMERANG BABY』をCDで聴く
山下達郎さんによる全パート1人多重録音です。
16分割のオルタネイトで緩急つけるギターのストロークが加山さんのセルフカバーと似ています。それから発語数の多いBGVのオブリガードも加山さんのセルフカバーと似ています。時系列が、山下さんによるカバーのほうが先です。……とすると、山下さんによるカバーは、加山さんご本家による1人多重録音カバーに影響を与えているのじゃないかと思えます。
サイドに開いたちゃきちゃきしたギターはアコギです。リッチでウォームな独特の音像を実現します。
曲中、ずっとといっていいほどほとんどの場面で「ウー」系の背景を支えるボーカルが入っているようです。山下さんの最たる某有名曲あってのせいか、クリスマスを感じてしまう華やいだサウンドです。
コーラスからヴァースに戻るときのメインボーカルの奔放なフェイクが「ブーメラン」を思わせてニヤリとさせます。
何より山下さんらしい至高のアクロバット能力が前面に出るハイトーンなメインボーカルと、コーラス(サビ)部分の調和した下ハモとのコンビネーションが常人離れした波乗りの達人のようです。
山下さんはD♭キーで演奏しています。加山さんのオリジナルキーはEメージャーですから……。え? 驚きました、同性のボーカリスト間での転調としては見たことない飛距離でキーを変えています。減7度上の調ともみなせます。いえ、短3度下の調に設定してボーカルをまるまる1オクターブ上げた、と解釈すべきか。男性ボーカルのものを女性がカバーするときでも、ここまで上げないケースが多いのではないでしょうか。
山下さんのアルバム『COZY』を歌詞カードを見ながら聴いていたら、作詞・作曲が「弾厚作」名義のものがある……という順序で私はオリジナルの加山雄三さんの『ブーメラン・ベイビー』の存在を知り、あらためてご両人それぞれの名義のものを聴き比べてみたのでした。ご両人の音楽による交歓(ブーメラン)関係がいちリスナーとしてもまぶしいです。太陽のようなお二人。
青沼詩郎
『ブーメラン・ベイビー』を収録したアルバム『加山雄三のすべて~ランチャーズとともに』(1966)
加山雄三のセルフカバーアルバム『All by Myself』(2004)
山下達郎のアルバム『COZY』(1998)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ブーメラン・ベイビー(加山雄三の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)