夜中にボーっとしてテレビを見ていた。いや、テレビがついていて、その前に居た。真剣に何かを見ていたのでもなかった。

すると、ふといい感じの音と歌が流れてきた。アニメのエンドロールだった。そのアニメをいつも見ていたのではなく、ただたまたまテレビがついているときに流れたものだった。

この音楽はなんだろう。バンドの音なんだけど、コードがもどかしくてきゅっとしてる。Ⅳメジャーセブンスの響きだ。

画面を注視して誰のなんの曲か求めた。字が出る。

THE BAND HAS NO NAME

名無しのバンド?

Mistake

間違い?

声には聴き覚えがある。聴き覚えがあるもなにも、これは奥田民生ではないか。

THE BAND HAS NO NAMEと『Mistake』

THE BAND HAS NO NAMEは一枚目の作品『THE BAND HAS NO NAME』を1989年に録音、1990年に出す。でも、プロモーションされない。録音後にたった一度、日比谷の野音でライブをやって、アルバムリリース後は目立った活動もなかったそう。知らないわけだ。

それから沈黙を破ったのがテレビアニメ『ハチミツとクローバー』が放送された2005年の頃だろう。

彼らは2作目『』(つくづく、ネーミングのノーフィルタリング感)を同年に出す。1枚目の『THE BAND HAS NO NAME』の再発盤も同時に出す。で、同年に「ハチクロ」アニメのエンディングに『Mistake』がなる。

Mistake』は1枚目『THE BAND HAS NO NAME』に収録されていて、2枚目『Ⅱ』にも新しい演奏で収録されている。「ハチクロ」に使われたのは新しいほう。

『THE BAND HAS NO NAME』収録の『Mistake』。すっきりした印象のサウンド。エンディングのギターのアルペジオが8分音符で埋まっている。
『Ⅱ』収録バージョンの『Mistake』。音が厚くパワーある印象。ボーカルに奥田民生成分を多く感じる。エンディングのギターアルペジオは裏拍に打点を置いてシンコペーション(移勢)させていてゆったりした印象。

シャレオツコード、力の抜き方・入れ方

1番私が好きなところはサビの出口。Ⅳメジャーセブンスの音をボーカルのメロディに与えている。もどかしくてちょっとけだるい響き。

ロックバンドのサウンドでこういうオシャレな和音を用いたものが私はかなり好き。the pillowsthe band apartを思い出す。歌メロに、根音に対して濁る響きを大胆に用いる作例は奥田民生『風は西からなどにもみられる。『Mistake』の作詞は八熊慎一、作曲は奥田民生

サビでは長7度、つまりメージャーセブンスの響きをつかって、おしゃれにポップにあか抜け、ふわっと脱力した印象。それに対して平歌はⅠ7やⅣ7など、ロックやブルースっぽく攻撃力あるニュアンス。中間的なキャラクターのBメロが両者をつなぐ。サビと平歌が対になっていて引き立てあう。表現の切り替えと力加減が絶妙。フックとコントロールの効いたロックの投げ分け職人。野球するなら、こんなリーダーのいるチームに入りたい。

平歌にはⅤmⅦ♭調っぽい動きも含められていてフックが効いている。(原曲Eキーに対して、DやGのコードをつかう流れ。Cも出てくる。EメージャーキーにおいてDはⅦ♭、CはⅥ♭の響き。)

THE BAND HAS NO NAME メンバー

THE BAND HAS NO NAMEのメンバーは『Mistake』作詞の八熊慎一たちばな哲也橘あつや(この3人がSPARKS GO GO)、奥田民生松浦善博の5人。

あとがき THE BAND HAS NO GAME

投げっぱなしでぶつっと切れてしまったみたいに音沙汰を立ったり、また始めてみたり。夢みたいなメンバーが気まぐれに組んだ最強の草野球チームみたいだ。ある日試合のお声がかかりでもしたら急に出場したりしやしないか。

「これが俺らの物語です」みたいな、緻密に積み上げる挙動とは対極を思う。ふらっと現れてブラボーなゲームをして、終わったら飲んで散っていくみたいな。

目立っていないのにすごいプレイを持っている達人が世にはゴロゴロいる。Twitter上に、海外の土埃くさそうな路上でおもむろに演奏を始める小汚いかんじのオッサンとかお腹の出た中年のご婦人なんかの歌やギターやリズムが神懸かって輝いているなんて投稿をたまたま目にしたことがある。

GAMEはおもむろに世界のどこぞでおっ始まる。私の周りで今後そういうことがないとも限らない。THE BAND HAS NO NAMEだって……ないですかね?

青沼詩郎

THE BAND HAS NO NAME 公式サイトへのリンク

https://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/HITandRUN/sgg/tbhnn/

SPARKS GO GO 公式サイトへのリンク

https://sparksgogo.jp/

『Mistake』(新録のもの)を収録したTHE BAND HAS NO NAMEのアルバム『Ⅱ』(2005)

『Mistake』を収録したTHE BAND HAS NO NAMEのアルバム『THE BAND HAS NO NAME』(1990)

ご笑覧ください 拙演

青沼詩郎Facebookより

“THE BAND HAS NO NAME『Mistake』 作詞:八熊慎一 作曲:奥田民生
アルバム『THE BAND HAS NO NAME』(1990年)に収録。2005年に再発。同時に新作『Ⅱ』も発売。
『Ⅱ』のほうにも『Mistake』の新録が入っていてそちらはアニメ『ハチミツとクローバー』の1期後半のエンディングに使われた。
ボケッとしながら深夜テレビの前に居たら、なんとなく猛烈にいい曲が流れてきた。ちょっと気だるいセンスのいいバンドの音。ボーカルの声にはなんか聴き覚えがある。
それはアニメのエンドロールだった。すかさず注意して表記をみる。曲は『Mistake』、バンド名はTHE BAND HAS NO NAME…いろいろ「なんじゃそりゃぁ」である。
でもちょっと調べたら奥田民生を含むバンドだとわかる。SPARKS GO GOの3人、松浦善博からなる5人バンド。
1990年のアルバムリリース後、プロモーションや活動がなかったそう。2005年の『ハチミツとクローバー』エンディングで出会うまで私もまったく知らなかった。”