まえがき ラジオのトークで私を魅了したVaundy

Vaundy(敬称略で失礼します)が京都音博2022へ出演を控えていた頃、ラジオにレギュラーで出ていました。それを私は夢中で聴いていた記憶があります(曖昧な記憶ですが確かめるべく検索するとFM802のMUSIC FREAKSでしたでしょうか)。トークのなかで、彼のもの(づくり)の考え方にいちいち感心していました。リスナーからオリジナル曲の音源を募ってコメントするコーナーも面白かったです。同じくらいの時期〜それ以降に発売される雑誌で、彼が特集されたりインタビューされたりするものは熱心に買って読みました。

彼はデザインや美術の学があって、大学の学部的にもそっち系のご出身でいらっしゃって、アルバム『replica』は卒業制作なのだというのも私が好きなエピソードです。

エキセントリックで卓越して尖ってもいて、かつ中央値をいくシンプルさと厚く幅広でまっしぐらなエネルギーを兼ね備えている彼のいちファンなのです、私は。

日常と孤独と事由

圧倒的な身体能力と反射神経から0.3秒ですべてが造られた……みたいな神懸かった結晶感。毎日頭とからだを使い続けて生きてきた人のみがいたれる圧倒的濃度とスピード感、鮮烈・先鋭・洗練。

Ⅳの和音から始まって、ベースが沈み込んでいくAメロ。対して、ⅣからはじまってⅤ、Ⅵmとベースが上がっていくサビが好対照です。共通点のあるコードやメロディ・リズムを少しずつ変奏しながら、セクションの順序や構成でまっすぐに景色を経過させ、展望の開拓を提示するデザインが大衆(いち私)に分かりやすいです。一本道、かつ見たことのある景色が反復して混ざる感覚。新しいのに懐かしい。

メロは8分音符を多用し、サビは4分音符を多用し飛距離の大きいアクロバティックな音程の飛躍を含む華麗なメロディで攻めます。

彼の素性と彼の人を楽しませるガワが重なることで発動する奇跡的な跳躍力を感じます。ここ10年ほどの日本の商業音楽の最先端を象徴する1曲と私が保証します。

存在・与える影響の強大さと独創的な唯一無二の個性(=孤独と表裏一体)を表現する「怪獣」、日常のなかでふとこぼれる機嫌のよさや調子のよさ、お天気がいいくらいの些細なことが導く自然でカジュアルな態度を象徴する「鼻歌」をもじって言葉にドレスを着せた「花」と土着や伝統を思わせる「唄」=「花唄」を組み合わせたタイトル。題名からして飛距離と振れ幅と人生のマルチビューポイントなレイヤーが込められているのが本曲の大きい影響力の規模感を予見しています。

メロディやコード、構造に見る意匠美の高み

『怪獣の花唄』より、Aメロのボーカルメロディ採譜例。8分音符を基調にした同音連打によるビート感・スピード感を有しながらも、リズムにも音程にも緩急と前後のなめらかさがあり、ここの部分の意匠だけを見ても要素に富む優れた「花唄」たる所以がうかがえます。文法上の切れ目とは別に、メロディとしてのフレーズの切れ目が別に設けられているのも本曲のAメロの緩急、起伏の豊かな印象に貢献しています。例えば、文法的には「思い出すのは君の歌」までが文章としてひとつのまとまりになると思いますが、その中でこまかく切れ目を設けるように歌い方(歌唱の実演)によってニュアンスづけがなされているのが「文章」「朗読」の伝統を刷新している印象です。
『怪獣の花唄』より、サビのボーカルメロディ採譜例。音価が4分音符中心になり、メロとの性格の違いが対比されます。歌詞的にも作曲面でもA/Bメロで提示したことを踏まえて昇華しつつ、英語圏の大衆音楽における「コーラス」と呼んでもよさそうなシンガロングできそうなメロディラインの洗練と大胆な単純化がほどこされています。そこで脆弱にならない仕掛けが、「かいじゅうのうーたー」の「……の」と「う」の間の長7度跳躍でしょう。また、サビの歌い出しは強起(1拍目からきっかり入る)であるのに対し、3小節目から4小節目にかけてはアウフタクト。サビ1〜2小節目は4分音符ベースだったメロディが3〜4小節目(あわせて8小節目)では8分音符単位の移勢がトリッキーで、かつ旋律音程としては滑らかな動きになる特長も極めて巧妙です。5〜6小節目は1〜2小節目の再現になっていると同時に跳躍音程の飛距離を抑えて火力を調整し9小節目以降のリフレインを映させる時間的な緩急がデザインされています。
アーティキュレーションの面でも、Aメロでは細かかったまとまりの単位が音価とともに怪獣のように大柄の躯体になり、開放感やスケール感の演出に貢献します。
『怪獣の花唄』より、大サビのボーカルメロディ採譜例。Aメロのメロディとリズム形が似ていますがコード進行的にはサビのパターンに近いです。これまでに登場させている要素の折衷が表現された大サビになっていて、非常に前後関係が自然で景色・心象の接続が調和しています。ボカロ音楽などが登場して以降の2000~2010年代以降のJpop特有の、別々に発想した部品を唐突に組み合わせたような「ガチャ感」がなく、楽曲の聴感上の構造的なフォルムが流線型を思わせるように滑らかなのです。意匠美ですね。

怪獣の花唄 Vaundy 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Vaundy。Vaundyの配信シングル(2020)、アルバム『strobo』(2020)、アルバム『replica』(2023)に収録。

Vaundy 怪獣の花唄(アルバム『strobo』収録)を聴く

セクションによる火力の意匠に緩急があります。1回目のAメロBメロは全然ベースが入ってこない。サビに到達してやっと主砲=ベースが火を吹くんです。コレキタ感が噴出します。ボーカルもサビでレイヤーをまといます。オクターブ下とかハーモニーとか。メロでの歌唱の生々しさが、時代やテクノロジーを背負って仁王立ちするようなカッコ良さがあるんです。サビでシンセが加わって未来的な響きを加え、ネオンに満ちた都市みたいな華やかな情景を私に想起させます。

2Aメロで火力を間引いで、2Bでは静かにしていたベースが大まかな動きではやめに合流してきます。ボーカルについた、スキー場にいるみたいな大きく遠いこだま効果(ディレイ)がサウンドスケープの輪郭を広げます。

ズオーっと歪んだエレキギターのサウンドがサビの燃焼を強めます。右側のトラックは少し余裕がある感じで、ドラムのフィルインのタムだったり、ガビっと極端に歪んだアディショナルのエレキギターが右に向かって定位を広げます。全体の音像としては比較的平面然としていて、立体造形よりはイラストレーション、絵画よりはコミックス(漫画)的なアプローチが娯楽作品としての手のひらやポケットのへの収まりの良さを心得ています。

大サビのところで火力が大きく間引かれ、デジデジしたシンセの反復する機械的なサウンドがリズムをつくり、ベースや和声感を薄め、重なりあったユニゾンする声の質感そのものの強さを押し出し、エンディングのシンガロングやボーカルレイヤー、コール・アンド・レスポンスの圧倒的なカタルシスへの導入になっています。

歪んだエレキをさらに絞り上げてスクリームさせたようにクールにホットに燃え上がりドラムの轟音とバンドの残像とともに女性終止でパっと消えます。リピート再生するとイントロなしの歌い出しにスッとつながるところも再生回数がいかにも増えそうな意匠です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>Vaundy怪獣の花唄strobo (Vaundyのアルバム)replica (Vaundyのアルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>怪獣の花唄

Vaundy Official Websiteへのリンク

『怪獣の花唄』を収録したVaundyのアルバム『strobo』(2020)

『怪獣の花唄 – replica -』を収録したVaundyのアルバム『replica』(2023)