酒と思い出は距離が近い
サントリービールのCM曲。1967年頃かと。再録バージョンらしきトラックがアルバム『僕(俺)だって歌いたい』(1967)の再発?ボートラ(12曲+2曲)に入っていて配信で聴けます。本アルバムにはストーンズのサティスファクションのカバー、ビートルズのイエスタデイのカバーあり。自由な発想で原曲とまったく異なる質感・表現に楽曲の遺伝子を発露させており驚愕です。アルバムの表層の様式としてはブラジルや中米音楽の質感をまとってもいますが、どこかイタリア歌曲のようにネアカ(根が明るい)な精神を感じるのがハマクラさんの恒久の魅力だと思います(イタリア歌曲に寄せるイメージは私の偏見)。
提供作品が非常に多く、職業ソングライター(純然たる作詞家+作曲家の兼任)の草分けがハマクラさんの功績ですが、人に歌わせるための作歴が多いという背景にカウンターを打つ形での「僕だって歌いたい」というアルバムタイトル・コンセプトなわけです。そしてその歌唱の質感が小洒落ていて達者で力が抜けていて気持ち良い。さすがです……
CMバージョンはワンコーラス半で1半くらいで結びますが、『僕だって歌いたい』のボートラに収録されたバージョンは2番のメロの歌詞が書き加えられ、2コーラス構成になっています。サントリービールと結ぶメロディの部分もシャッパラッパ〜というスキャットに置き換えられ、固有名詞に縛られない『小さな思い出』のタイトルの広がりを表現した再録バージョンになっています。原曲のCMソング時よりもキーを半音上げて、かつテンポは少し落としたアプローチになっています。ダイアトニックコードがきれいに響くシンプルなモチーフのリフレインを基調とした作曲は鑑のなかの鑑。
CMソングというそもそもの生い立ちにはフロー系コンテンツとしての自覚に満ちますが、そこにともなう哀愁や博愛を感じもするのです。私が最も尊敬する作家の一人です。
小さな思い出 浜口庫之助 サントリービールCMソング 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:浜口庫之助。浜口庫之助のシングル(1967? or 1968)。アルバム『僕だって歌いたい』(1967)に収録(「僕」を「俺」として配信版としているようか)。
浜口庫之助 小さな思い出(『俺だって歌いたい(+2)』収録)を聴く
浜口庫之助さんの歌唱が極上。酒を飲みこなしています。酒に飲まれた若い日を回顧しながら、すっかり酒を身につけ、着こなしている感じです。ダイナミクスを収束させながら語末を長く伸ばしながらビブラートする歌声が極上。エンディングの「パーパパパッパ〜」の上行音形の歌唱など極楽。こんな音楽家になりたいとしみじみ思います。
左にナイロンだかガット系のギター。右にはバンジョーでしょうか。2・4拍目をかろやかに押し出します。
ベースが中南米音楽のようなリズム系。1拍目と2拍目裏と4拍目にストロークポイントを置きます。ペッキペキのピックベースのサウンドのキャラクターが強烈です。
パーカッションなどの類の影はなく、竿物と歌のみでリズム要素も満たします。この腰のかるさが、酒を飲みこなしたしっぽりとした場で「アニキ、ちょっと昔のなつかしいやつを演ってよ」とでも居合わせた兄弟にふっかけられてそのへんにあったギターですかさずこたえてみせるみたいな達者ぶりを感じさせるのです。
CMに用いられた当初のものはバージョンが違います。円盤を取り寄せるとか(検索するとか)してみてください。スリーコードで弾けるので音楽を自分でやる人は歌ってみるのも良いと思います。酒のサカナにね。
青沼詩郎
再録?の『小さな思い出』をボートラに収録した『俺だって歌いたい(+2)』
『小さな思い出』を収録した『浜口庫之助 CM大全』(2008)