あじさいのうた 原由子 想いはグラデーション

シングルが出てすこし期間があき、ボリューミーなアルバム『MOTHER』に収録された、原さんご自身ソングライティングのはずむリズム、シンセのサウンドが印象的な曲。

メロディセンスが豊かで緻密。惜しみなく愛を注ぐ情報量。サザンの船をのせる海こそが原さんであると背筋に流れ込んで来る気分がしました。

“もうすぐあじさいみたいにオシャレになってあなたのぬくもりにこの身をまかせる”

の歌詞のラインに震えます。主題のモチーフ、あじさいが登場します。己の人格の投影先があじさいなのだと読み取れます。その心身の成熟、ハナの季節、ハイライト、機が熟した瞬間にあなたと過ごしたいという可憐な想いが表明されます。

サビは「だんだん」のリフレインに愛嬌とリスナーへの歩み寄りを感じます。

比較的シンプルな大サビがつくサービス精神。

サビに折り返しがあり、「だんだん」のリフレインから脱却したボリュームを獲得しています。CD時代らしい曲の長さをポップソングが獲得する構造の秘密をひとつあげるなら、サビの折り返しにあるとこの曲を通して気づきます。

だんだん好きになって……のサビに入るときのコードがⅢmなのが良いです。6月、あじさいの季節の中間色、パステルカラーな知覚・感性を和音の面でも表現して思えて絶妙です。

原曲、ぜひ鑑賞してみてください。

あじさいのうた 原由子 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:原由子。原由子のシングル(1987)、アルバム『MOTHER』(1991)に収録。

原由子 あじさいのうた(アルバム『MOTHER』収録)を聴く

これ、マイクを通してエアーで録音したトラックがボーカルだけじゃないかなと思います。ほか全てプログラミング。あるいはキーボードのライン入力かリアルタイム入力などはあるかもしれません。

そのせいもあってでしょう。表現者・原由子さんの心の原風景が意思がそのサウンドが排除した酸素のぶんだけ、真空パックしたようにピタッと。そのパックのなかに一緒に自分もつつまれたような感覚です。主人公は色づいた最も見頃のあじさいのような瞬間をあなたと共有したいと願うかもしれませんが、リスナーはその想いのなかに一緒に封印されたような気分です。

リスナーにいかに没入を提供するかも音楽に携わるものの手腕でしょう。プログラミング。ひいてはシンセサイザー。あるいはボカロ音楽などが特定のリスナーを強く強くひきつける魅力ってそういうところにあるのではないかと思います。使いこなせば、意図の純度の海にリスナーを誘うことができます。

あじさいのうたの鑑賞体験の話に戻って、ハーモニカ、口笛などアクセントになる音色を効果的に用います。イントロのシンセブラスの音色が華やかです(アルバム『MOTHER』収録の直前の曲『イロイロのパー』からつづけて聴くとその落差に意図、悪ノリ(良い意味で)を感じます。ヨコシマなヨゴレ歌からの清廉潔白な乙女歌へ)。

リズムの密度の使い分けが凝っています。キックの表拍、ダウンビートの感触を適確にフィットします。サビなど、2小節に1回くらいの頻度でスネアを鳴らす。雨あがりに水玉をうかべたあじさいの葉や花や萼のかたわらで乙女な心をもった純真が踊り、はずむ風通しの良さがあるのはそうしたリズムトラックの構築に余白があるからでしょう。ベースの音の描き込みの疎密の設計が緻密です。

と、ここで答え合わせを図ってWikipediaページにある本曲のクレジット(演奏者名義)を引いてみましょう。

「あじさいのうた」

• 原由子: Lead Vocals, Keyboards

• 藤井丈司: Computer Operation

• 原田末秋: Guitars

• 琢磨仁: Bass

• 松田弘: Drums, Backing Vocals

私の耳バカを露呈してしまいました。めっちゃたくさん演奏者の実演がこめられているようです。もちろんコンピューター・オペレーションもあるとはいえ、原さんのキーボード以外は打ち込みかな〜なんて思ってしまいました。

トリガーなどをつかっているようなのか。あるいは音の処理(クウォンタイズほか)なのか。非常にピタっとしていて、包装の隙間から極力空気を排除した真空パックみたいなサウンドだと思ったのです。

制作方法や過程の正解がどうであれ、新鮮な乙女な気持ちをあじさいのモチーフに重ねた表現の創意、オリジナリティと普遍性が本曲の絶大な魅力であるのに違いありません。

カーペンターズの某有名曲とか……あるいは冒頭のシンセにはヴァン・ヘイレンのサウンドも思い出します。あとはオールディーズ的な様式愛も薫りますね。原さん自身の個性とその協力者一帯の叡智が、あじさいの花みたく集合してひとつの房をなします。

原さんの妊娠中に制作された曲とのことらしいです。楽曲中に出てくる代名詞「あなた」は、おなかにいる子にむけた言葉だったり、その子になった気持ちで抽出・選定された代名詞だと読めば、恋愛の歌としても博愛・親愛の歌としても読めるでしょう。ソングライティング(に触れること)をとおして、あなたは恋する乙女にも、未曾有の未来を背負う新しい命にも転生できるのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>あじさいのうたMOTHER (原由子のアルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>あじさいのうた

サザンオールスターズ Official Siteへのリンク

『あじさいのうた』を収録した原由子のアルバム『MOTHER』(1991)