まえがき
大集合しての生中継と、バックトラックの事前収録、ボーカルの事後収録など複数のプロセスがひとつの録音芸術として結実しています。4拍子と3拍子の複合したひねり、複雑なバックトラックに込められた多様な音楽的片鱗などの独創的な要素と、いかにもビートルズ後期以降のジョンらしい同音連打の多いシンプルなメロディと本質的なメッセージの折衷が傑作たるゆえんです。
All You Need Is Love The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのシングル(1967)。衛星テレビ中継『Our World われらの世界』のための書き下ろし。アルバム『Magical Mystery Tour』(1967)のアメリカ版に収録され、公式にオリジナルアルバムとみなされるようになった様子。コレクション『The Beatles / 1967-1970』通称“青盤”(1973)にも収録されている。
The Beatles All You Need Is Love(アルバム『Magical Mystery Tour』収録2009 Remaster)を聴く
世界初の宇宙中継……と謳われた企画番組のために作られた曲。要するに衛生放送のことなのでしょうか。そんな背景あってか、音の情報量の交雑ぶりがすごい。人の声、ストリングス、金管、クラップ。パラララララ……とオープニングの小太鼓。イン・ザ・ムード、フランス国歌、など世界的に有名な実在の音楽の片鱗も登場するし挙句の果てジョンは自分たちの『She Love You』yeah, … などと歌い出す。ストリングスの上行音形の順次進行には『Hello, Goodbye』を思い出しもします。
ジョンのヴァースの歌のトーンは落ち着いています。しみじみ語りかける。そして「It’s easy」でしめくくるまとまりの定型。主題の「All you need is love」の音形は同音連打の多いシンプルなものです。
ヴァースの語りかけのリズムはなかなかの破調というか突っ込み具合で、素敵な人類共通のミッションを孕んだ名曲で真似して歌いたくなるわりには案外むずかしい。英語を急き込むように詰める。ネイティヴスピーカーにはお手のものなんでしょうかね。
オールユーニーディズ・ラヴ、「バッパパラバ……」と主題のあとに逐一ブラスの合いの手が入る。多種族のコールアンドレスポンスが音楽のなかでも成立しています。
ヴァースのジョンの語りかけるリードの裏で「love love love」のバックグラウンドボーカルのリフレインがみずみずしく清涼。
ベースの丸く太い、しかし浮遊感のあるサウンドはビートルズ印。ドラムの印象があまりぐいぐい前に出ておらず、グルーヴを牽引するのはこのベースです。大所帯ですし、リードボーカルのゆらめく緊密なリズムと楽器のカウンターメロディだけでも十分リズムの補完がなされている。バランスをとったドラムの音量感が適正。タンバリンやハンドクラップも入っていますが奥のほうや脇のほうにいて、音量感も背景にうまくなじんでいます。
ストリングスが右に注意をひく音形が感じられますが、左からも顔を出す局面もある。ステージに広くストリングス隊がひろがったような布陣を思わせるミックスは、まんなか・左・右とざっくり3方向でデザインしたような印象。大所帯で雑多な音景ですが見せ方が粗雑にならないように工夫されている気がします。2023mixなど聴くとまただいぶ印象が違うかもしれません。
長めのフェーディングで楽隊が遠ざかるようにゆっくりと消えていきます。私が遠ざかっているのか。相対的には違いないですね。ビートルズのつくったたくさんのエピックを基準にものを見る私です。そんな愛好者が世界中にいるし、この先も現れ続けることを思います。交雑した愛がうまいこと交通整理されて胸に届いている心象です。
青沼詩郎
参考歌詞サイト KKBOX>All You Need Is Love
『All You Need Is Love』を収録したThe Beatlesの『Magical Mystery Tour』(1967)
『All You Need Is Love』を収録したThe Beatlesの2023エディションの『ザ・ビートルズ 1967年~1970年』(オリジナル発売年:1973)
参考書
ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)