まえがき
安全地帯の傑作の数々の作詞者といえば松井五郎さんのイメージが強いです。
安全地帯は90年代に長めの活動休止期間があったようで、2002年頃にまた活動がはじまります。その頃のアルバムが『安全地帯Ⅸ』(2002)で、全収録曲の作詞者は安全地帯に抱く私のこれまでのイメージ通り松井五郎さん、もしくは松井五郎さん含む共作名義。その次のアルバムが『安全地帯Ⅹ』で、2003年リリースです。
この2003年のアルバム『安全地帯Ⅹ』収録の全曲の作詞者が黒須チヒロさん。PSYCHOというバンド名で、いち時代のバンドブームの火付に盛大に貢献したと思われる勝ち抜きバンド番組「イカ天」に出場経験があり(PSYCHOはのちにpsycho babysに改名します)そのバンドのボーカルギターでソングライターなのが黒須チヒロさん。
6月は雨がよく降る地域に私は住んでいますから、雨や晴れなどの天候ワードをテーマにしたポップソングを検索するなど聴き漁る機会があり、安全地帯にも『雨のち晴れ』という曲があるのを検索で知りましたがそれを収録したアルバムを通して聴いてもどれも素敵だ……この楽曲、このアルバムの背景をおおざっぱでいいから検索してみようと知り得たのが以上のような前置きになります。
雨のち晴れ 安全地帯 曲の名義、発表の概要
作詞: 黒須チヒロ、作曲:玉置浩二。編曲:安全地帯、星勝、金子章平、安藤さと子。安全地帯のシングル、アルバム『安全地帯X〜雨のち晴れ〜』(2003)に収録。
安全地帯 雨のち晴れ(アルバム『安全地帯X〜雨のち晴れ〜』収録)を聴く
爽やかです。玉置さんソロ名義の傑作『田園』を思い出させるようなシンプルさ、コントラストの強さ、画面のハッキリさもあるが繊細さもある。爽やかな風のようでもあり、突然の通り雨のようでもある。明かりと翳りの塩梅が、起伏の落差が、演奏や歌唱で表現されています。
チョンチョンとキレと尾鰭のある感じのイントロのサウンド。ドーソード、ドーソード……、と5度の跳躍音程を移勢をからませてリードするシンプルなモチーフ。ミュージックボックス……オルゴール系のサウンド、ストリングスがレイヤーしたようなシンセの音色で印象づけます。エンディングの音の切際に残るストリングスシンセの音色などアナログ感がたっぷりで、メロトロンで出したような音の優しさがあります。バンドの全体の音にわたってそう。ベースも五度でよく動きを加えるし、ドラムスもダスっ!とあたたかみのある音色でまっすぐなビートを誠実に表現。ベーシックの音もひとつひとつ優しく、温かく、気持ちが良い。
右に12弦のアコギがいて左にエレクトリックギターが対になっています。ふりそそぐ光線や雲模様のようなアルペジオを両耳に注ぎ入れる。センターには倍音と響き豊かな玉置さんの深くエネルギッシュなリードボーカル。ボーカルがレイヤーになってハモるところのエネルギーなどバスルームから溢れんばかりです。
朝のニュース天気予報を
あの時はちゃんと見ていたはずで
あの計画書に書かれてない事態
あぁ無情 雨模様
(安全地帯『雨のち晴れ』より、作詞:黒須チヒロ)
押韻に茶目っ気と湿り気があります。「計画書」「事態」など、歌詞っぽくない、行政発表とか報道に用いられていそうなカタイ響きの単語をおもむろにぽいぽい放り入れたかと思えば「あぁ無情 雨模様」、急にライミング詩人が顔を出す。この振れ幅が惹きつけるのです。どんな精神がこの落差あるフレーズを書かせるのかと興味を持たせる。人はすべてが見えないからもっと知りたいと思うものです。
計画書のフレームにとらえきれる範囲なんて限られている。ほとんどが未知なのです。誰と、どんなふうに道を行くのか。こくこくと変わる天気のもと、天変地異のもと。
あくまで楽曲『雨のち晴れ』としてフレーミングできる範囲は当然限られているのですが、この曲の向こうにまだまだ風光明媚があるのを予期させる。明るい愛に溢れているのは影があるからなのですが、あくまで、今は陰や雨雲の下に仮にいたとしても、光のほうを向いて望んでいるように思えるから爽やかで好きな曲です。
青沼詩郎
参考Wikipedia>雨のち晴れ/ショコラ、安全地帯X〜雨のち晴れ〜
『雨のち晴れ』を収録した安全地帯のアルバム『安全地帯X〜雨のち晴れ〜』(2003)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】 活休の雲を抜けて 雨のち晴れ(安全地帯の曲)ギター弾き語り』)