孤独の相対

ふわふわした多様な形の雲がさずかる名前を列挙します。深く重くかつ自由なキャリアの質量をのせた前川清さんの歌声が雲モチーフと対比になって引き立て合います。矢野さんのボーカルはオクターブ上でAセクションをかわりばんこに分けあい、Bセクションをオクターブ違いでユニゾン。童謡民謡のようでありながらエンターテイメント業の夕暮れを嘆くような深い人息嘆きが乗るタイムレスな今この瞬間の雲のかたちのようなくちびつに宿るメロディがやさしい。ピアノトリオ(P,D,B)のサウンドが必要十分。

矢野さんがさまざまなゲストを招いてゲストとの共作やゲストの自作、矢野さん本人の自作をコラボでセルフカバーなどしたトラックで構成するコンセプチュアルで挑戦的・野心的なアルバムです。雲の輪郭のように不定形で自由なのに、それでいてぽつんとしていて孤独が高い空のよう。そんな感慨を『ふたりぼっちで行こう』のアルバムタイトルがよくあらわしています。頼もしく勇気づけられるのに、さびしくてだからこそ自分で生きなきゃという気持ちにさせる美しい詩、歌の数々をアルバムぐるみでぜびご鑑賞ください。

あなたとわたし 矢野顕子&前川清 曲の名義、発表の概要

作詞:糸井重里、作曲:矢野顕子。矢野顕子のアルバム『ふたりぼっちで行こう』(2018)に収録。

矢野顕子&前川清 あなたとわたし(アルバム『ふたりぼっちで行こう』収録)を聴く

歌唱部分をきれいにふりわけ、オクターブのユニゾンに行き着くふたり。お互いにすり寄るでもなくお互いを見て動きを合わせたり自己の描線に潜ったり。土のなかから明日の光が漏れ出るみたいな前川清さんの歌声のふかいこと。メロメロにビブラートします。二人で同時にうたうときはノンビブからビブラートにうつるタイミングを示し合わせたように、エンディングのライン「お嫌でなければふたりでもぉ・・・・・(おぅおぅおぅおぅ)……」がまっすぐに伸びてやがて強く揺らいでいきます。

ベースの弦が指板と指の間で圧力を弛緩される瞬間のカチ。というクリック音のようななげき。フレーズとフレーズの切れ目に命がかよいます。ジャズの畑からポップスの語彙に留学してきたみたいにドラムが絞った手数でプシュアー、ツツツとシンバルをやさしく撫で、コツリとリムをおだやかに刻んでブブっとキックの拍動を注入していきます。

パートごとにおおげさな定位は感じられず、自然にアンサンブルの輪が目の前にまとまっているような音像。余白も含めて映える白地のドローイングのよう。

ヘンにハーモニーしたりすることなく、たださびしいのにお互いが重なっているのに距離のある単一の旋律のオクターブユニゾン。これぞまさしく『ふたりぼっちで行こう』のアルバムタイトルコールの表題たるサウンドです。この楽曲があってこのアルバムは出来た、行ける、勝算が見えた、アガった!という感覚を私はおぼえます。

ふたりでいるから感じられるさびしさ、あたたかさ。あるいはひとりでも。端境の季節、秋の空みたいに澄んだ気持ちよさ、人肌のありがたみが沁みます。

青沼詩郎

矢野顕子ニューアルバム『ふたりぼっちで行こう』Webサイトへのリンク

参考Wikipedia>矢野顕子

『あなたとわたし』を収録した矢野顕子のアルバム『ふたりぼっちで行こう』(2018)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『あなたとわたし(矢野顕子&前川清の曲)孤独の相対【ピアノ弾き語り・寸評つき】』)