泡立てた卵白のかろみ

かろやかな曲調で恋のかろみを主題の“メレンゲ”に込めて表現。「恋はメレンゲ」の主題コーラスのコール(よびかけ)にレスポンスするファルセットを含めたボーカルが器用なBセクション。

メレンゲと聞くと、卵白を泡立てて焼き菓子のうえにのせたりするあれを想像します。それと、音楽スタイル(ジャンル、様式)のメレンゲを想像しますしその重ね合わせをタイトルに込めたのかなと思うのですが、そもそも音楽スタイルとしてのメレンゲも、あの卵白を泡立てたモノに由来してその名で呼ばれているとの説もあるとかないとか……。

メレンゲ音楽に卵白を泡だてる泡立て器をチャッチャッチャッチャ……とやる音がパーカッションとして実際に用いられるのか知りませんが、一般にメレンゲ音楽にはギロ系のパーカッションが用いられる傾向はあるようです。ギロのサウンドはまるで泡立て器をせわしなく動かしているかのようなギチギチいうサウンドです(でこぼこ面を棒でこする小物楽器)。

この楽曲『恋はメレンゲ』はABセクション、Gから半音上のA♭に転調してABセクションの反復で終結する超簡潔構成。メレンゲを踊った縁であのことのロマンスの花が咲く……との軽いストーリーをかろみのある音楽テクスチャで表現。内容と音楽の具体の一致がとれています。

大瀧さんの創作脳としては、音楽スタイルのメレンゲを用いるアイディアと、『恋はボサノバ』(イーディ・ゴーメ)のパロディをするというアイディアが結びついてこの曲を生み出した、といったいきさつなのかもしれません。

この『恋はメレンゲ』を収録した、大滝さんソロ2作目となるアルバム『NIAGARA MOON』は、ウルフルズが “大阪ストラット”としてカバーしたものの原曲『福生ストラット』を含みます。『楽しい夜更し』なども収録しており、かろみとジョーク味のあるノベルティソングみたいなレパートリーがひしめき、創作の道具箱をごちゃごちゃっとしたままのぞきみているような背徳感と中毒性を帯びたフラフラした雲のような魅力的なアルバムです。

恋はメレンゲ 大滝詠一 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:大瀧詠一。大滝詠一のアルバム『NIAGARA MOON』(1975)に収録。

大滝詠一 恋はメレンゲ(アルバム『NIAGARA MOON』収録)を聴く

この曲の内容のかろみを憑依させた大滝さんのかろやかな歌唱が風前の灯あるいはケーキの上のメレンゲみたく寒風吹きすさんだら飛んでしまいそうにかるい。かるい曲をかるく歌えること。当たり前のようで慧眼光ります。引き出しの無限な大滝さんらしい楽曲です。

楽曲のかるい人格を尊重してかベースまでハイポジションで本当にかるい。もうギターの音域かよというくらいにハイポジションにみだりに足をふみいれあのことダンス。ダンス。ダンス。

ちゅるちゅるみゅるみゅるとフェンダー系らしいシズルのあるエレキギターのサウンドが八艘飛び。スライドギターのポルタメントのプレイあり。

パーカッションの前後左右感が壮観。右にむかっていろんなタイコが開いていくみたいに感じます。スティックさばき闊達。左にはグシャグシャとギロがせせこましく家事を消化する洗濯板よろしく。サックスか何かの管楽器が軽妙なトーンと緩急のあるモチーフを浮かべて曲が幕を明ける。どあたまのベースの分散和音の上行音形はエンディングにもコピペされたようにくっついて幕開け・幕引きを表現、楽曲のフレーミングとして機能します。

「恋はメレンゲ」のおきまりのフレーズのコーラスが雄々しく、女々しい印象のリードボーカルとコントラストをなします。パート数、音数はかなり大所帯であくまで音楽的熱量は高く。しかし描写するテーマはごくかろやかに。メレンゲだけを食って生きていくのはあまりにバランスを欠きますが、こういう吹いたら消し飛びそうなかろみのあるものを愛でる器の大きさこそが人の踊るフロアーになる、文化を育む庭になるのではと思わせます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>NIAGARA MOON

参考歌詞サイト 歌ネット>恋はメレンゲ

大滝詠一 | ソニーミュージックオフィシャルサイトへのリンク

『恋はメレンゲ』を収録した大滝詠一のアルバム『NIAGARA MOON』(1975)。50th Anniversary Editionが出ています。