YouTubeより
Deanna Durbin(ディアナ・ダービン)
フルートからストリングスへと渡るモチーフ。ハープが優美。おおらかなテンポでたっぷりと、壮麗に歌います。異国の広漠とした草原のよう。
ディアナ・ダービンの歌唱はベル・カントといっていいのかわかりませんがまるで声楽家のそれです。確かな音程、母音と子音のセパレートよく、ビブラートは均整がとれています。メロディの最高音域でめいっぱいフェルマータし耳福。
The Scholars
バス・ヴォイスがせりあがります。やや右に男声がいるでしょうか。左に女声、2コーラス目では主旋律。ソプラノ・アルト・テナー・バスの4声でしょうか。世にも美しい。編成としても私の好物。
1コーラス目は「Woo」「ah」の発声でコーラス。4分音符のまとまりで動かしたり長い音符を含めたり。ソプラノは細かめの音符もあります。
コーラスごとに調性が変わっていきます。
1コーラス目はB♭メージャー。
2コーラス目はソプラノが主旋律でE♭メージャー。
3コーラス目はテナーが主旋律でBメージャー。前の調の主音であるE♭を新しい調の第3音(ⅲ)に読み替え(E♭→D#)た転調は斬新で爽快。3コーラス目後半はアレンジメントが華やかです。特に2:40頃〜からのソプラノの動きが注意をひきます。小節線にまたがる大胆な音価の保続でまっすぐに描線したかと思えば、強拍にあてる一瞬の非和声音のスリル。〜3:00くらいまでのおよそ20秒にダイナミクスの質量のほとんどが詰まっているのじゃないかと思わせます。ここでドラマは収束へ。
曲について
スコットランド民謡。1700年頃に作詞され、1838年頃作曲された様子です。作詞:William Douglas(ウィリアム・ダグラス)、作曲:Lady John Douglas Scott(ジョン・ダグラス・スコット夫人)。
雑感
メロディ
メロディは1オクターブの跳躍を前半の8小節の間に2度、見舞います。一気に飛び上がったのちは、滑らかにゆっくりと降りてくる音形。およそ2小節半を費やすナナメの線。まるで揚力がはたらいているみたいです。
9小節目以降は対照的。第5音→主音(ⅰ)の4度ジャンプアップののち、順次進行で主音(ⅰ)〜第3音(ⅲ)まで天井を押し上げる音形です。このモチーフが2度繰り返されます。
12小節目の後半からは、はらりはらりと木の葉がゆっくり身を翻しながら落ちていくような音形。順次進行でずっと降りていくかと思えば短3度で小上がりし、しまいには歌い出しのメイン・モチーフを半分以下の音価にきゅっと縮めたように説諭、主音に着地。恋愛における、繰り返される感情の波や熱情を思わせるメロディです。
背景、主題
歌詞は古語っぽくて、あまり見かけない文字列や単語、省略形がみられます。ただでさ英語非堪能の私にはわかりかねる部分もありました。楽曲の背景、歌詞や翻訳例は本文末の参考サイトリンクほかを見てみてください。
恋愛、それも悲恋の歌のようです。身分の問題で結ばれることのなかった主人公の思いでしょうか。
作詩されたのが1700年頃。作曲されたのが1838年頃。クリミア戦争孤児・未亡人などへの慈善活動を目的とした歌集に掲載されたのが1854年と、この時点まででもすでに150年ほどの幅を持ちます。そこからさらに170年近く。あわせて300年超のすえ、今日のあなたや私のくちびるに宿るに至ります。歌は、刹那の儚い思念の煌めき。それでいて、長命・悠久な知的財産でもあるのです。
むすびに
はじまりは1組のカップルの悲恋の描写だったかもしれませんが、思いが歌に宿り、300年を超えて生きているのです。これはある意味、超越した「恋の成就」だとさえ思います。
私が門外漢だからいえるのでしょうか。恋というのは至極パーソナル。論理でも営利でもありません。感情と感情の一方的な好都合がたまたま合えばロマン、合わなければこの世の終わりなのです。
作者は悲壮な思いで詩を書いたのかもしれません。あるいは理性でペンを走らせたのかもわかりません。
いずれにせよ、300年を超え、誰かさんの恋や愛の波は私に届いています。ハロー。会えて光栄です。
青沼詩郎
参考サイト
世界の民謡・童謡 > …アニーローリー Annie Laurie スコットランド民謡/父親に引き裂かれた二人の恋の行方は?
『Annie Laurie』が聴ける『The Very Best Of Deanna Durbin』。
イギリスのコーラス・グループ、スコラーズ(Scholars)が歌う。『プレミアム・ツイン・ベスト 庭の千草~なつかしきイギリス民謡』。
ご笑覧ください 拙演