ウィンクのちの大盛りエンド “涙リク”B面
『涙のリクエスト』が描いたのは、深夜のラジオDJへ想い出の曲をリクエストすることでのみ浮かばれるかどうか……というやりきれない想いの間接的な浄化、その悲哀だったかもしれません。
その”涙リク”のB面曲が本曲『あの娘とマッシュポテト』。“涙リク”と比較すると、なんと能天気なことかというくらい落差、対極性に秀でます。B面によって飛距離を出す観点ですばらしい選曲とも思えます。
ドゥ・ワップスタイルのコーラスに1・6・4・5のおきまりのコード進行。リードボーカルとオブリガードがかけあいます。「マッシュマッシュ、マッシュプリティポテイト……」
主人公の意中の人は喫茶店だかなんだかの飲食店のホール係のようです。たとえばフライドポテトならかなり一般的なメニューのように私には思えるのですが、マッシュポテトがアツい店ってちょっと珍しいように思います。1980年代は定番だったのでしょうか?
私の想像の逸脱にすぎませんが、「マッシュ(ポテト)」の響きは髪型としてのマッシュルームカットを思い出させもするので、短髪の活動的な感じの女性が本曲の人物造詣なのかなとのこじつけを誘います。楽曲の曲調がきわめて明るくて活発なので、そんな私の逸脱した妄想も許される気がします。
あの娘は主人公のオーダーにウィンクを返してくれるし、マッシュポテトが大盛りにされるに至るトキメキのオチがつき、わずらわしさを忘れて両手離しで頭のなかにお日様を導き入れるハッピーな気分にさせてくれます……が、あんまりにもこんなにまっしぐらに恋のはじまりが順調ですとハニートラップなんじゃないかと疑うことをこの曲の主人公に助言したくなる私のなかの老婆心が騒ぎもします。
このフィクションをもし1.5~2時間サイズの映画にするなら話は別ですが、3分間のポップソングに滲み出るものは、ハッピーな楽曲であらばハッピー一辺倒にデザインするのがまず定石と思います。そこから方向性がブレない範囲で豊かさへの希求を反映すればよいのです。
あの娘とマッシュポテト チェッカーズ 曲の名義、発表の概要
作詞:藤井郁弥、作曲:大土井裕二。チェッカーズのシングル『涙のリクエスト』(1984)、ベストアルバム『EARLY SINGLES』(1994)に収録。
チェッカーズ あの娘とマッシュポテトを聴く
はりつくような低音ボイスの存在感がヘッドフォンで聴くとすごいです。マッシュマッシュ、マッシュプリティポテト……て言ってないときは「ばうん、ばうん……」と唱え続けてリズムを弾ませています。主人公の空も飛べそうな浮ついた喜びの心の表現でしょうか。
ベースのイントロを覆いつくさんばかりに印象が大きいのがガヤです。動物園みたいに騒がしい。盛った猿かよというくらい……(失礼しました)。このガヤが間奏のサックスソロをささえます。ただの環境音的な演出以上に、楽曲の熱量を下支えしています。あの娘とマッシュポテトという主題は、主人公とあの娘のうまくいきそうな恋のはじまりを茶化し、にぎやかす仲間の輪にあるのではないでしょうか。
田舎から上京してきた人をさして、イモっぽいなんて表現することがあるでしょう。すこし馬鹿にしているみたいで私自身はこの表現を好んで使うことはありません。
主題のマッシュポテト、これを主人公の投影像と読むこともできるのではないでしょうか。イモっぽいおれだけど、青いエプロンに黄色い刺繍でイニシャル入れたあの娘がウィンクしてくれたぜ! ポテトは大盛りに変わったぜ! この喜びでポテトもいい感じにほろほろにくずれてほだされちまうぜ! ……というタイトルコールとしてのマッシュポテト。あの娘とマッシュポテト(←ぼく、俺)。
バンドのサウンドはすっきりしていて、声の成分にきちんと光があたります。エレキギターの裏拍のリズムがかろやか。ドラムのタム類がずどんと左右に質量太く広がり迫力があります。
青沼詩郎
参考Wikipedia>涙のリクエスト、チェッカーズ、EARLY SINGLES
『あの娘とマッシュポテト』を収録したチェッカーズのベストアルバム『EARLY SINGLES』(1994)