自分へのうしろめたさ
現在の自分への不満は、不滅である。
不満と呼ぶからうしろめたい。
不満でなく、希望だ。
「もっと、こうしたい」という願望は、常に湧き出す。どこまでも続いて。それが生きているということ。
町で同級生に出くわしてしまうと、うしろめたい。
「(やめて! 見ないで! いまの私は、まだ途中だから…)」
という気持ちが私にはある。
じゃぁ、いつ到達するんだよ。
いつになったら、胸を張って歩ける「自分」になるんだ?
そんな「自分」になる未来は、おそらくずっと来ない。
私の「願望」の精度が低いからかもしれない。
それではあんまりだ。
だから、そんな気持ちはそれとして、やっぱり外をうろうろ出歩く。
別に「胸を張って」歩く必要はない。
自然に頭からぶら下がった背骨を両の足でスーッと運んでいけばいい。
いや、地球に私がぶら下がっているのかもしれないし。
りんごの真実
変わることは、うしろめたいことじゃない。
ただ、そうなっただけだ。
「りんご」があるとする。
見た目は赤いかもしれない。
でもそれは表面のこと。
体積のほとんどは、白っぽくみずみずしい部分が占めている。
「りんご」の真実のほとんどは、赤くない。
「りんご」の真実のほとんどは、白。もしくは水分だ。
もちろん、「りんご」の真実のごく微々たる量は、赤。
外から「りんご」を見たとき、その表面の「赤」が目立つ。
ほとんどの観測者が、その表面をとらえて、さも「りんご」の「真実のほとんどは赤」という認識で埋めるだろう。
そういうことが起こる。
つまり、私やあなたが、いま行動を起こして、いちばん外側に見えているこの瞬間の現実が「変わった」としても、それは真実のごく表層の部分でしかない。たとえ劇的に変わったとしても、真実のほとんどは「りんご」でいえば「白」であり「水分」の部分なのだ。
だから、変わることをおそれることはない。
変わるのに相当の理由があるのならば、変えればいい。「変化」が蓄積していって相当量になったとき、それ相応の真実の質量が得られるだろう。変わったというその瞬間の事実のみでは、その真実は弱いのだ。
ある瞬間に、ある人に死が訪れるとする。それ以降、その人の「生」は更新されなくなってしまう。だから、ある瞬間の変化(たとえば「死という出来事」)は大きい。でも、その人が「生きてきた」という真実が、その瞬間にぺしゃりとなくなるわけじゃない。むしろ、「その人の死」という事実のほうが、まだまだうすっぺらい。もちろん、今後は「その人の生」は更新されなくなるから、未来を思うとそれは重く大きい真実に変わっていくことは明白だけれど。
恋愛相談
この間、あるお店のカウンターをはさんで恋愛相談をしている人がいた。私は端からそれを見ていた。
話の聞き役はお店の人(男性)。相談者はお客さん(女性)。女性には現在、長く付き合っている人がいる。相談相手であるお店の男性に、彼氏への不満をこぼす。そして、いま、他に気になる人がいるという。彼女は、現在の彼氏と関係をつづけるべきか、別れて新しい恋に走るべきか悩んでいた。
この話と「りんご」の話を絡めて思う。
彼女が現在の彼氏と今後も関係を続けるか、新しい恋の道を走り出すか、その決定自体はたいした重みの真実じゃないのだ。もちろん、周囲の人間は「エー! 彼氏と別れたの? 長かったのにね」「えー! 新しい人と付き合い出したの? 長かった彼氏は?」とか言うかもしれない。それは、りんごの表面の「赤」を見ているからだ。青リンゴかもしれないけれど。
『卒業写真』
ここまでは荒井由実『卒業写真』(作詞・作曲 荒井由実)への長い長い前置きだ。
荒井由実の『卒業写真』は、私に以上のような思考を生じさせたきっかけだったのである。
何がって、その歌詞がだ。
私に言えることは以上の前置きに尽きる。
あなたはどう思うか。
曲は、1975年リリース。荒井由実の3枚目のアルバム『COBALT HOUR』に収録されている。
その発表よりも、ハイ・ファイ・セットによる同曲の発表がやや早い(同年だけど)。
グループのために書き下ろされたのだ。わずかに遅れて、荒井由実本人による先述のアルバムが発表される。有名かつ荒井(松任谷)由実の代表曲だと思うけれど、非シングル曲なのはそのためか。
荒井由実『卒業写真』リスニング・メモ
ファンクかR&Bの影響を思わせる。ドラムが非常にグルーヴィ。クリーンなエレクトリック・ギターが左、右にメロウなエレピ。ブラスやストリングスがサビを盛り上げる。音数の足し引きが洗練されている。オルガンが空気のようにいて、曲の雰囲気のカンバスになっている。トーン変化のグラデーションにも聴き入る。
青沼詩郎
松任谷由実 公式サイトへのリンク
https://yuming.co.jp/
シミュレーションゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』(2015〜)
への松任谷由実による書き下ろし主題歌『あなたと 私と』(フルサイズ)が8月10日から配信開始。
(リンクはショートバージョン)
ご笑覧ください
青沼詩郎(筆者)による『卒業写真』カバー。