季節をめぐる軌道
大瀧さんの作曲に阿久悠さんの作詞が珍しい小林旭さんへの提供曲。大滝さんボーカルバージョンのセルフカバーが『DEBUT AGAIN』で聴けます。小林旭さんバージョンはライブバージョンがサブスクに見つかります。小林さんオリジナルのスタジオ音源は現在円盤からアクセスできるのみなのかどうか(この記事の執筆時:2026年10月)。弦楽器アレンジがジャズの大家として私が認知する前田憲男さん。
悠然としたおおまたぎな音価、なめらかなメロディラインに歌が大衆のものであることへの愛情を感じると同時にひとめぐりの季節を渡る曲想が表現されているように思えます。壮麗なサウンドがウォール・オブ・ナイアガラ感。
熱き心に 小林旭 曲の名義、発表の概要
作詞:阿久悠、作曲:大瀧詠一。小林旭のシングル(1985)、アルバム『旅空夜空 -熱き心に-』(1986)に収録。『DEBUT AGAIN』(2016)に大滝詠一のセルフカバーを収録。
小林旭 熱き心に(アルバム『旅空夜空 -熱き心に-』CD収録)を聴く
カッコよっ!これ聴いたら小林旭をちゃんと聴いたことなかった人も一撃です。大空の波を自在に乗りこなすタイム感。メロメロにレーザービームのようにビロビロギュイーンとまっしぐらにかかるビブラート。張り上げた時にゲインを高めたエレキギターみたいにただキラキラするだけじゃない歌声のブルーズ感。大きな音価を大仰に聞かせる圧倒的な声量のみならず、消え入るようなディミヌエンド、メロディ・フレーズ尻の処理、ジェントルで男前なやさしさ。小林旭さんの歌声はまさしく千金。
この歌声がナイアガラサウンドと折衷しているのがまさに革新。なめらかにきれいに歌えばいいってもんじゃない、あくまで演歌のコブシとの掛け合わせだからこそ面白いのです。自分で言っておいてナンですが、もちろんなめらかさ・スムースさも備えて同居しています。
左にヴァイオリンが。右に内声が定位してオーケストラの舞台が目の前にあるような立体感。ヴァイオリンのひらひらまう木の葉のような細かい動きが絢爛です。カララっとフラッパー・カスタネットが笑います。
ベースが8分音符で主音とⅴの和声音を細かくとっていきますがドラムは悠然としています。快調な速度感を演出するビート、ドッ、ド、タン!と1拍目、2拍目ウラ、4拍目にキックとスネアの打点をおくハーフ・タイム・テンポ的ビートパターンの変容とふくよかな音像が見せます。
しゃわしゃわと陽光のようにアコースティックギターのストラミングが降り注ぎます。
リードメロディに続いて地の底よりも深いエレキギターの残響、低音が子宮に響く(私にはないけど)。圧巻のサウンドに圧巻の歌声。人生の四季に渡るナイアガラサウンドと演歌が出会った革新にシビれます。後世に残したいサウンドです。
青沼詩郎
『熱き心に』を収録した小林旭のアルバム『旅空夜空 -熱き心に-』(1986)
『熱き心に』を収録した大滝詠一のアルバム『DEBUT AGAIN』(2016)