ザ・スパイダース バンバンバン 音源

リスニング・メモ

飛び回るオルガン。特定の周波数が強く出た特徴ある音です。チープでインスタントな印象の楽しいサウンドです。ロックと年代を感じます。右にがっつりドラムを振るのはザ・スパイダースの音源でしばしばみられる特徴か。左にカンカンしたラテン系のパーカッションがいるでしょうか。コンプがかかってる感じがします。うわっと刹那にせり上がってくる感じ。こういう音作りが私の好物。リピートして聴いていると冒頭と結尾のテンポが微妙に違う気がします。完全に生演奏だからなのでしょう。100パーセントバンドのテンポであり、クリックなんて使っていない(むしろ電子的なクリックなんて普及していなかった?)。演奏の熱狂が伝わってきます。「バンバンババババ・・・」の言い終わりのシャウト。好みです。

ずっと聴こえているリフレインはギターとベースでユニゾンか。洋楽にアイディア元があるといいます。彼らの、起源にできるだけ近いロックを志向する姿勢がビンビン伝わってきます。本当にそれらの音楽を敬愛しているからこそ出せる熱気を感じます。息。グルーヴ。和。

エンディングの「イェイェイェイェーイェ」の直前に編集点があるか? 私の勘違いかもしれませんが。録り直したのか、あるいは後から思いついたアイディアなのかも? などと想像します。

ラストのナインスを含めたコードストロークのキメ。初期のビートルズのレパートリーのエンディングにもこんなナインスの響きに覚えがあります。

マイナー・ペンタトニック・スケール

歌メロディやギターリフはペンタトニック・マイナースケール。Aマイナーキーならば「ラドレミソ」を用います。ギター・ベースのユニゾンリフも「ラ・ソソソ・ラ」といった具合に短7度上のソを経由して上のラにリーチするフレーズです。

冒頭のフレーズ“とぼけた顔してババンバン”。ラを主に、ソやドを含めています。“ババンバン”の最後の“バン”はドですね。

ザ・スパイダースが演奏しているキーはAです。もし普通のメージャースケールだったら、Aキーではドにもソにも#(シャープ)がつきます。

つまり、(♯がつかない)ソやドがちらつくことで、すぐにAマイナー・ペンタトニック・スケールの匂いが立ちのぼります。ブルージーな雰囲気の要因でしょう。

ソはAペンタトニック・マイナースケールで7番目の音です。ベースでラを鳴らしているときならばセブンスの関係になります。ドならば3番目の音階音(サード)。この曲では、そのとき鳴っている根音(ベース音)に対して、歌メロでマイナーペンタのセブンスやサードを多用しています。

間のとり方

“とぼけた顔してババンバン”から次のフレーズ“バンバンババババババババン”を言うまでに2小節の歌メロの空白があります。コール・アンド・レスポンスのために空けてあるかのようです。リスナーが心の中で反唱できそうですが、ビートに気持ちよく身を委ねているとすぐ過ぎてしまいますね。この歌メロの空白で目立っているのはカンカンいうパーカッション、そしてオルガン。流すように引っかけるように、フレーズの妙ある攻めの演奏はメンバーの大野克夫でしょう。

最初の16小節は「2小節歌って2小節休む」が歌メロのペースでしたが、最後の8小節はぎゅぎゅっと凝縮し歌の濃度が高まります。ちょうど倍の密度にしたみたいな感じです。

ババンバン

一見意味のない言葉、「バ」や「バン」。同じ破裂音の連続ですから、歌い手は一度「バ」を発してから素早くリカバーし次の「バ」を続けざまに言う必要があります。それも2回や3回どころじゃありません。最大で「バ」だけが8回連続する箇所があります。まるで機関銃をバリバリ乱射しているみたい。単純な動作・発音の繰り返しとともに熱量が高まっていきます。エキサイティング。

意地悪かつ不粋をあえて試します。歌詞から「バ」「バン」を抜いちゃいましょう。

“とぼけた顔して” “あいつにゃとってもかなわない”

“遊び上手な” “にくい男さ” 

以上、1コーラスです。

“さえない顔して” “さすがのあいつもかなわない”

“恋の上手な” “にくい女さ”

これが2コーラス目。3コーラス目は1コーラス目の繰り返しです。

明らかに目立っていたり派手だったりするよりも、ちょっと地味目だったり、何事もないような顔をして見える人の方が恋愛関係を途切れさせることなくいつもうまくやりくりしているのって、どこかで聞いたような話だと思いませんか? この歌がそういう人物を描いているとも限りませんけれど。

不粋な乱暴の仕業で歌詞から「バ」「バン」を抜いてしまいましたが、実際はこれらの言葉のあいだに「バ」「バン」がたくさんあります。

「とぼけた顔したあいつ」の言い換えが「ババンバン」な気もしますし、あるいは言外(言葉の意味の外側にあるもの)を表現したのが「ババババン」なのかもしれません。

「恋愛ってさぁ、ババババンだよね~!!」などと仲間とくだまいてしゃべっていたら、言葉以上の何かを共有できそうな気がします。「あの色情魔のババンバンめ、チクショー…」とか言ったら、複雑でグラデーションとマーブル模様が入り混じって3Dになったようなニュアンス(?)が表現できると思いませんか? 私は「ババンバン」や「バンバンババババババババン」にそうした機微を感じるのです。

ちょっとうしろの、したたかなアイツ。

作詞・作曲はかまやつひろし。1967年のザ・スパイダースのシングル『いつまでもどこまでも』のB面としてリリースされました。この優れた曲がB面なのが、なんだか「とぼけた顔・さえない顔したにくいあいつ」に重なります。本当に「ヤれるヤツ」は、たいてい矢面(花形)のちょっと後ろにいるのです。したたかですなぁ。

青沼詩郎

『バンバンバン』を収録した『ザ・スパイダース・ベスト・トラックス』

ご笑覧ください 拙演

ペンタトニック・マイナースケールのはずがシャープしてしまっていて甘い音程がある。反省。