促音(つまる音)に粘り気

「すっきよすきすき 愛して だめよいじわるしないで 愛して」……爆発的に感染力の強いウィルスみたいに3秒で私の脳内にはびこり感冒してしまいます。「すきよ」の言い方が「すっきよ」なのが耳に残ります。促音(つまる音)に独自の個性が宿ります。「好き」と会話やナレーションなどで用いるとき、多くの場合あたまの「す」の母音が消えると思います。はっきりとした「Sukiyo(すきよ)」でなく「sきよ」みたいな発音になると思うのです。ですがこの曲では拍・小節のあたま、強拍に「す」が位置し、母音の「u」がちゃんと入っている感じがします。そこが本曲のボーカルの魔力の細かい要因のひとつになっていると思います。渥美マリさんの実際の歌唱面ではそこまでこれみよがしにやりすぎているわけではないと思うのですが、本曲の独特のねっとりしたキャラクターのせいで歌声までそうした粘り気を帯びて余計に感じるのかもしれません。渥美さんの歌唱はコミックソングに振り切るでもなく、歌手として端正な技量を備えており聴き心地が良いです。曲の最後尾付近に「あ・あん……」などといったニュアンスが含められているせいか、余計にいろっぺ〜アメニティソングみたいな気がしてしまうのかもしれません。一瞬の大事件でリスナーの印象を支配してくるのです。

ちょっと(だいぶ)セクシーな路線で認知を得たのが渥美マリさんのキャリアであるらしく、その芸風を生かした制作が本曲のポジションだと察します。私のピンポイント突きまくり。

好きよ愛して 渥美マリ 曲の名義、発表の概要

作詞:白鳥朝詠、作曲:中村泰士。渥美マリのシングル(1970)。

渥美マリ 好きよ愛して(『夜のためいき+6』収録)を聴く

声区を器用にまたぐ歌唱をしているように感じます。あらためてじっくり聴くと、カッチリしすぎていない感じの歌唱が夜のオンナの自然な嗜みという感じもします。

左にリズムトラック。ドラム。オケがすべてブレイクしたときに「シキシキシキシキ」……カバサでしょうか。

右にピアノとエレキギター。ぽろぽろとピアノがかろやか。アナログ的にコンプレッションした感じの音色です。ホーンやストリングスもいますが補佐的。

女声のバックグラウンドボーカルがオンナの群像を描きます。パッパッパ……とかシャラララといった具合に。ホーンの類に託しても良さそうなモチーフをこの女声バックグラウンドボーカルが一挙に担います。主人公の一人称感情を天上から俯瞰する、あるいは心のうちから人界を見透かすみたいな女声コーラスが本曲の主たるアクセントです。

心の湿り気を意匠するように全体に遠くまで抜けるホールリバーブ。エンディングの音の消えぎわが遠く長い。

オトナな艶っぽい路線を意図しつつもやりすぎていない……通常の営業日の仕事の範囲のなかでちょっとしたイベントをやってのけたような、どこか平然とした感じがほどよく気持ちいいです。エンディングの女声コーラスの「パッパッパ」……がオクターブのはしごをかけのぼり、上の主音につきささって時刻はテッペン(午前0時)に至るという感じ。さて夜のためいきはここからはじまり。

青沼詩郎

参考Wikipedia>渥美マリ

参考歌詞サイト LyricsTranslate>好きよ愛して

『夜のためいき』(1970)。CDでの再発時に『好きよ愛して』などのシングル曲を加えたものと察します。