高校生のとき、地元のTSUTAYAさんで5枚1000円でひたすらに洋楽を借りた。知識がなくても、ジャケットやバンド名で適当に気になったものを借りた。

地元のTSUTAYA店内のCDレンタルコーナーに、試聴機としてフツーのCDプレイヤーが置いてあって自由に使えた。一枚あたり200円/1週間レンタルは安いかもしれない。とはいえ、おこづかいは限られている。借りる5枚を選び抜きたいとき、そのプレイヤーを利用して、試聴して、品定めをした。買うんじゃないのに品定め。なんかヘンな話だ。高校生の私には5枚1000円のうちの一枚は大事だったのかもしれない。いや、それから十数年経過した今の私にとっても、大事かもしれない。そういう価値観って、案外一生変わらない。YouTubeやサブスクの登場で、めっきりツタヤレンタルを利用しなくなってしまったけど。駅ビルのツタヤに寄って、気まぐれにマンガを買う本屋として利用している近年。

そんなふうにしてCDレンタルコーナーで借りてきて知ったバンドのひとつがColdplayだった。イギリス発のバンドに私の好みにひっかかるものが何かあるのか知らないが、そのときすでに私はRadioheadの大ファンだったし、Blur、Oasisを好きになって聴いていたのもこの時期だった。そうしたバンドを好む人へのリコメンドを意識した棚が展開されていたのかもしれない。店員さんのそうした「働き」を意識する機会は高校生のハナタレ青尻だった私にはあまりなかった。いまになってシミジミ思い返してみると、そういう意識の外側でなされた誠意ある仕事のおかげで出会った作品も多いかもしれない。

『The Scientist』は静謐な美しさに満ちている。ボーカルのクリス・マーティンのファルセットがふわっとしてくすぐったくてメランコリックでキュンとなる。

私が思うこの曲の魅力のひとつが、ドラムスが地味なところである。それって褒めているのかと思われるかもしれない。断固言おう、メッチャ褒めている。最大級の賛辞といっていい。私はドラムスが大好きだ。

地味なドラムスは、曲が良くなけりゃ成立しない。そんなこと言ったら、良い曲のドラムスはみんな地味か? なんて別の私が言う。もちろん、ドラムスが派手で華な名曲はいくらでもある。

この曲のドラムス、ライドシンバルやオープンハイハットがぜんぜん出てこない。サビとかギターソロとかでハイハットのオープン/クローズやライドシンバルを使い分けて雰囲気を出すのは定石だ。それがこの曲にはない。そこに感動する。

『The Scientist』はアルバム『A Rush of Blood to the Head』(2002)に収録されている。