作詞・作曲:岸田繁。くるりの配信シングル(2022)、『愛の太陽 EP』(2023)に収録。

音楽(そのもの)がしゃべっているように聴こえます。歌詞のある、ボーカルミュージックなのは確かなのですが、声も楽器もみんながひとつになって、ことばの意味を超越した何かを伝える思念のようなものを感じます。

中身を漁って分析すれば、それは倍音がぶわーっと広がって気持ち良いとかそういうことなのかもしれません。実際、きっとそうでしょう。エレキギターや、ボーカリストの歌唱には非常に豊かな倍音が含まれています。

母音と子音のくみあわせ、そのひとつひとつで、倍音の出方がちがいます。発声の時間変化による、ダイナミクスの山のかたちも、発声する歌詞やその歌唱のしかたでまったく異なった様相になるでしょう。くるりの音楽……とつい広めて言ってしまいそうになりますが『八月は僕の名前』は、そういう、ボーカルの発声の時間経過に伴う、音波の山のかたち(波なんだか山なんだか)が、楽器と相乗して、渾然一体となった響きをなし、言語以上に思念や感情がリスナーにおりてくるように感じます。

それぞれが相乗して干渉し、良い影響を与え合って接着している感じもしますし、個別のパートに視線をやれば、それはそれで一本いっぽんの線が見えてきます。くるりが演奏を録音する媒体としてアナログテープを用いていることは、くるりやそのメンバーが発信したりインタビューに応えたりしているものをみると分かりますが、『八月は僕の名前』のバンドが一体になった、背筋に霊感が走るような素晴らしい響きの一因となっているのは、アナログの媒体による録音方法を彼らが採っていることにも一端があるのかもしれません。

リスニング・メモ

・複数のギターが壮麗。コードとリズムをのびやかに出すバッキング。サビ前に気分を高めるオブリガード。うなるチョーク・アップ(片方の弦をもう一方の弦のピッチにチョークアップしてリーチさせ、同時に鳴らして強烈なうねり感を出す奏法でしょうか。私の好きな音)。
・ドラムスのハネ感。フィルでちょっと郷土臭が出る感じが絶妙。
・ピアノのダウンストローク、「四分打ち」的なリズムは永久定番。浜をこんこんと打ちつづけるさざなみのように感情の扉を叩きます。井上陽水さんの『少年時代』、岸田繁さん作曲による坂本真綾さんの『菫』など思い出します。
・タンバリンがオープニング付近から登場、サビで頻度を最高潮にする16分リズム。雄弁な名脇役で私の最も好きな楽器のひとつです。
・ハープなのか、ナイロン弦っぽい音がはらりとよぎる流麗さ。プログラミングでしょうか。バンドの音と同居し、フレームの中を絢爛に彩ります。
・バックグラウンドボーカルがエンディングに残る余韻。バンドに用いるベーシックな楽器はおおむね減衰系ですので、切れ際に残す印象の大きさは至宝です。音の響きが、音楽全体が語りかけてくるように感じるのは、バックグラウンドボーカルの功勲も大きいように思います。なにせ、倍音をたくさん含む「声」をたくさんかけ合わすのですからね。オーロラのよう。
・メインボーカルメロディの16分音符単位のリズムや音程の動きが非常に緻密。耳に心地よく、心に直接語りかけてくる厚みのあるオケとの情報量のバランス感が秀逸。ロックチームとしてのくるりと、ソングライターとしての岸田さんの美味しいところが過不足なく詰まっています。この聴き応えで、曲のサイズが4分台にかからなかったところが意外。なにかのマジックが働いているかのようです。

MV

くるり – 八月は僕の名前 YouTubeへのリンク

電話する彼女をひたすらとらえる画面。カットがかわりながらも、彼女の話すディティールを伝えます。くちもと、黒電話の存在感。床屋です。施術を受ける彼は思ったより少年で……そういうことなんだ、と、エンディングで登場人物の関係性やシチュエーションがつながり、はらにおちる気持ちよさ。すがすがしいです。

青沼詩郎

くるり 公式サイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>八月は僕の名前

『八月は僕の名前』を収録した、くるり『愛の太陽 EP』(2023)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『八月は僕の名前(くるりの曲) ピアノ弾き語り』)

Quruli More Than Words モアザンワーズ 8月は僕の名前