作詞・作曲:かしぶち哲郎。あがた森魚のアルバム『日本少年(ヂパング・ボーイ)』(1976)に収録。“細野晴臣をプロデューサーに迎え、バックをムーンライダース、矢野顕子、鈴木茂、山下達郎、大貫妙子他、超豪華メンバーで固めた1976年発表アルバム。”(タワーレコードオンライン>日本少年(ヂパング・ボーイ)よりとあります。編曲者はあがた森魚さん自身か、これらプロデューサーと演奏陣によるものであるのが想像できます。

冒頭の語りが強い印象を残します。あがた森魚の歌唱が終始はかなげで影をかんじさせる……ほっとけない書生さんのような人格を思わせる機微です。

コード進行がとてもふわふわとして不思議です。50秒ほどの語りの部分を除くと本編は2分40秒程度とコンパクトなのですが、進行につれて音楽的にいろんなことが起こっています。このちょっと不思議で、行ったきり返ってこないような刹那いカンジは、鈴木慶一とムーンライダースの傑作『スカンピン』を味わったときに受けた楽曲の構成に関わる印象と似ています。

冒頭はDメージャーの和音を提示しこれが主調かと思えば違い、これはGメージャー調だと思うのですが、途中でF#の和音をはさみ、Dメージャー調でⅣ→Ⅱm→Ⅴ→Ⅰ的な進行をしたかのように一瞬私に錯覚させるのですが、かと思えば次のブロックでEマイナー調に行ったかと思わせ、いやC#マイナーか、いやいやEメージャーか、とふらつき、冒頭のDメージャーの和音で掛留音をふらふらさせるモチーフの再現につながり、またGメージャー調で正気を取り戻したかと思えばⅣ(C)の和音を放り投げて窓際に開いたまんまの本を風に吹かせてしまうようなあっけない終わりかた。リピート再生で冒頭の語りから聴き直したくさせます。“サヨナラ”と“リラ”、ふたつの単語を近くに置いて見せつけるような真似はしませんが、脚韻につながりをみいだせることばの断片が、コンパクトな本文のなかで光をみせます。

線の数をかぞえられそうなストリングスはヴァイオリンでしょうか、生のピアノにオルガン、ぽろぽろとギター、ドラムスにベース。生楽器の演奏が私小説のような現実味を素描する趣ですが、シンセのようなピョンピョンした音がアクセントになっており、ちょっと独創的で観点のずれたおかしみを許容し同居させるような……まるで相容れない個性者の生活がいりまじる「下宿館」の様相です。途中のタンバリンのトリルでブレイクするところが口数少なめで内省的な楽曲を彩り私の好きなポイント。

青沼詩郎

あがた森魚 公式サイトへのリンク

参考Wikipedia>あがた森魚

参考Wikipedia>リラのホテル

参考歌詞サイト 歌ネット>リラのホテル

『リラのホテル』を収録したあがた森魚のアルバム『日本少年(ヂパング・ボーイ)』(1976)

かしぶち哲郎のアルバム『リラのホテル』(1983)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『リラのホテル(あがた森魚の曲)ピアノ弾き語り』)

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