作詞・作曲:John Lennon、Yoko Ono。John Lennonのアルバム『Imagine』(1971)に収録。

Imagine (Remastered 2010)を聴く

イントロのコードストロークを経過するとピアノの定位がひゅっと変わります。ピアノが右に移動して、左に残響が波及するようなイメージ。空いた左からはやがてストリングスが香ってきます。

真ん中で至極繊細なボーカルが語りはじめます。耳を傾けさせる術を知っている人の歌唱です。大声で一方的に浴びせるのでない。注意をひく声の出し方の鑑だと思います。人為でありながら、もとからそこに存在した自然のよう。

ドラムスが引き締まったミュートの効いたサウンドです。ハイハットにうっすらディレイが匂います。ボーカルにはよりリッチなディレイ感。ふたつの瞳でひとつの対象物をみるような……私の理想的なディレイサウンドはこういう感じです(ふわっと、白いアノ部屋の映像が頭の中に立ち上がります)。

ベースがほんとうにシンプルで、コードがチェンジしたり低音が経過したりするところのみに打点がある感じです。ストリングスの低域もいますしピアノの低域もいますから、しばらく存在に気づかなかったほどです。しかし、ベースの進行がサウンドスケープの移ろいを完全なものにします。この、消えてしまったら骨抜きになるのに、いる時にはちっとも存在を主張してこない佇まいがすごい。笑顔でコミュニティを見守る、組織や家・集落の稼ぎ頭みたいな存在感。

ジョンの声はコーラス前の“You……”でダブリング感。コーラスはあまりダブっている感じはしないのですが、最後のコーラスで部分的にダブリングがいる感じがはっきりします。いるんだかいないんだか美妙な線で「ずっとダブリングがいる」のか、「実際に、部分的にしかダブっていない」のかわかりかねます。ディレイによる線の揺らぎなのか、マイクに吐息や子音だけがウィスパー的に乗る程度に儚く「ダブリングの歌唱」がいつもいるのかどうなのか。

歌いやすく、おちつきのあるトーンを保てる音域におさまったボーカルメロディが歌詞のメッセージをリスナーに吸着させます。音域がやや高いのはコーラス直前やヴァースが折り返すときのフェイクっぽい“I”や“You”の一瞬くらいですが、力を抜き息の量も軽くして羽のような繊細な質量感。的を射ることに躊躇せず、真摯で鋭く正直なメッセージに、サウンド的な清涼感を吹き込むバランス感が秀逸です。

サウンド的……あるいは音楽的な意匠のバランス感でいうと、コーラスでコード進行 |F→G|C→E| ……。C調の外の和音、Eコードが出てくる。響きがキュっとなります。『Beatiful Boy』『Power to the People』など、ほぼⅠとⅡmの和音のみでも多様な曲を作ってしまうジョン・レノンの仙人芸を思いますが、『Imagine』にはメッセージを「味よく」ユーザーに届ける表現者とエンターテイナーを兼ねるバランス感みたいなものがうかがえます。やっぱり、「歌」として美味しい。みんな歌いたくなる塩梅があります。

ソロのジョン・レノンの作には、メッセージだけを極力まるはだかにすることがあるべき配慮であり、まっとうなアティテュードである、とする方針が伝わってくる(私が勝手にそう受け取っているだけですが)ものが少なからず見受けられる気もします。『Imagine』はもちろんシンプルであることには偽りありませんが、最小限で最大の豊かさを実現している、その水準が突出しています。世界がこの歌を携えて「イマジン」している。それをさせる水準。足し算・引き算のいちばんちょうど良いところ。グダグダ捏ねすぎてもダメだし、思いつきをなんの包装紙にもくるまず剥き出しで渡してもダメ。

いちばん気持ちよくて丈にあった服を着た、あらゆる人の「ふだんの自分の美しさ」が機能しあったまあるい世界を想像させます。

『Imagine』が渾身の人類のラブソングであるのは世界中の常識(というのは私の偏見)だけれど、ぽんと渡されて、気兼ねなく関係がはじまる、かわいい包装の一粒のまぁるいキャンディみたいな趣を、改めて聴いて見出しました。気軽に渡せるし、気を遣わずに受け取れるアメちゃん。安っぽい誤解を招きかねないへたくそな喩えで申し訳ないですが、アメちゃんの授受に匹敵する(いや、勝る)くらい抵抗なく対等な地平を拓く、心の問いかけの正直さ。清さよ。

青沼詩郎

参考Wikipedia>イマジン (ジョン・レノンの曲)

参考Wikipedia>イマジン (アルバム)

参考サイト 世界の民謡・童謡>イマジン Imagine 歌詞の意味・和訳 オノ・ヨーコの詩集にヒントを得たジョン・レノンの代表曲 発表当時のジョン単独の名義から変更しヨーコとの共作名義にあとから変わった経過について、またその理由はオノ・ヨーコの詩集からのインスピレーションが大きく影響しているであろうこと、いわずもがな有名な歌詞の内容について解説された記事。

John Lennonのアルバム『Imagine』(オリジナル発売年:1971)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Imagine(John Lennonの曲)ピアノ弾き語り』)