なんとサレオツなボサノバ風。こんな爽やかな垢抜けた曲じゃなかったですよね…もちろんこれも良いです。天の声は泉谷しげる! 天にいなそう。

曲について

ザ・フォーク・クルセダーズの自主制作LP『ハレンチ』(1967)に収録されました。解散記念盤だったのに、話題になってむしろ再結成・プロデビューのはじまりの曲になったようです。作詞:ザ・フォーク・パロディ・ギャング(松山猛・北山修)、作曲:加藤和彦

原曲リスニング・メモ

“おらはしんじまっただ〜”。短2度でウロウロと刺繍をくりかえす歌メロディ。なんといってもこの変な声です。普通の声で歌って録音したテープの回転速度を上げて再生した音を収録すれば、音声の速度と一緒にキー(音の高さ)も上がってこの変な声になるはずです。

ギターの音も回転速度変更の技術で高く収録されているようです。ギターなのにマンドリンのような音色に近づきますね。それでいて決してマンドリンでもありません。あくまで、ウソくさく人工的に加工したヘンテコサウンドなのです。「加工」こそがこの曲の雰囲気を握っています

このギターのなんとも言えない歯痒い感じの音像は12弦ギターのようです。同じ音程もしくはオクターブ違いの音程を複数の弦が同時に出すのが12弦ギターですので、音程の微妙なズレが揺れたような効果をもたらし、独特の音色が得られます。

さらにいえばコード。#9th(シャープ・ナインス)の響きを用いているようです。これは雑に言うと長和音と短和音の特徴を同時に鳴らしたようなコード。複弦(12弦ギター)+テープの回転速Up +調子が狂ったようなコードのぶつかり、不協和。これらによって、一度聴けば記憶に残る強烈なインパクトあるサウンドになっています。

Aメロでは基本的にベースは太い音で1小節に一回「ボーーーーン」と鳴らすシンプルなストロークです。

ベースと12弦ギターがベーシックリズムの要(ほとんど)です。うっすらですが、アナログのメトロノームがカチカチいうような音が聴こえる気がします。

1コーラス目のAメロのあとにピアノが入ります。唐突にビートルズの『グッド・デイ・サンシャイン』オマージュのフレーズ。ここで聴くとよちよちおっとっと!ともつれる千鳥足を早回しした様子を感じるからおもしろいです。ここのピアノの音域はそんなにヘンな(突飛な)音域ではありませんが、なんだか音色がコミカルに感じます。ひょっとたらこちらもオクターブ下で演奏してから、テープの早回しで音程を上げているのかもしれません。

Bメロ“天国よいとこ…”では普通のキーで入るハーモニー・ボーカルが美声です。

“ワーワー ワッワー”では変声もハモります。

おらが死んじまった理由が明かされるところでは車が走っていってクラッシュするような効果音。これ、よく聴くと全部声で演じているようです。おそらく通常キーの声と変声キー両方で演じています。たいしたものです! 無惨に血みどろになった主人公の体の端々が停止した車の運転席から力なく投げ出されたシーンを思わせます。

間奏のような部分ではわざとくさい調子の関西弁で神様風のせりふ。残響の付け方もわざとくさいです。せりふと並行した12弦ギター(通常速度?)ではクラシック曲の『天国と地獄』のメロディ。

天国すらも追われ?、“ちょっとふみはずして”のところでは口笛の再生速度早回し?(スライドホイッスルに似ています)+スネアのスナッピーを下げて叩いた音? もしくは大きめのポリバケツか木桶でも叩いたような音に大袈裟な残響がつきます。ヒュー、トスーンと落下&衝突の場面を表現しています。

地上に戻ったらしい? “おらの目がさめた”の付近では口をサランラップや薄いフィルムでマスクしてしゃべったような声。茶化されている気分になります。近年は楽器屋さんで簡単に手に入る「カズー」(万年筆を太くしたような筒状の金属の真ん中あたりの穴があいたところにフィルムが貼ってある部分をくっつけたようなB級?楽器です。これをくわえてしゃべったり歌ったりするとブワブワとフィルムが共鳴して騒々しい音が声と一緒に鳴ります)の音色に似ていますね。近年では楽器屋でも普及しています。ポップソングでもしばしば出会う、知る人ぞ知るそこそこポピュラーな楽器だと思いますが、『帰って来たヨッパライ』当時はそこまでの普及や認知度を得ていないでしょうから、目の付け所、アイディア、工夫の豊かさに目を見張るばかりです。音色を聴くとカズーのそれに聴こえますが、実際は自らの手でなんらかのDIY的な工夫でこさえた音色なのかわかりません。

エンディングでは歌詞で「生き返った」といっているのに、亡き人にするような木魚(ウッド・ブロック?)+ヘンテコ読経。途中で音程の平らな『ア・ハード・デイズ・ナイト』(ビートルズ)になってしまいます。そこにかぶる、ベートーベンの『エリーゼのために』…もう何がなんだか! ワケのわからないナンセンス世界です。ヨッパライの世界はサイケデリックにも通じていそうですね。ビートルズのサイケデリックへの接近を表現しているとか? いやいや…。

ウソくささ、ヘンテコさ、ハッタリ感で満たされているのは種々のサウンドの遊びの影響でしょう。ベーシック・リズムはほぼベースとギターのみなのに、その半分のギターが加工の手に染まっています。もちろん、主役の「声」も。

ひょっとして、ベースと思っていたパートは実はギターを演奏したものをテープの回転速度減で1オクターブ下げている、なんてオチはないですよね…? ベースまでわざと臭い音色に聴こえてきます。

最後に“おらは生きかえっただ”といっているそのは、加工で再生されたデタラメなつくりものの命なのでは? テープの「再生」で出来た曲ですから。生きていたときの命を、ちょっといかれたテープレコーダーがプレイバックしている感じです。

青沼詩郎


『帰って来たヨッパライ』を収録したザ・フォーク・クルセダーズの『紀元貳阡年』(1968)

『帰って来たヨッパライ』を収録したザ・フォーク・クルセダーズの『ハレンチ』(1967)

ご笑覧ください 拙演