“夢色の夜間飛行”の無事を祈る
5thアルバム収録曲。作詞が康珍化(岩崎良美『タッチ』など)さん、作曲が林哲司(竹内まりや『SEPTEMBER』など)さん。
北ウイングのタイトルに、なんとなくスポーツのポジションを思い浮かべてしまう私ですがウイングの意味は全然違くて、空港のエリアをさしてウイングと呼びます。ですので空港の敷地の範囲で北にある部分を北ウイングと呼ぶようです。
中森明菜さんの代表曲のひとつに少女Aなどの曲があるせいか、背伸びをした少女の大人との恋を描く楽曲を歌わせたらベストマッチか、というのが当時の中森さんの強みなのかなと想像します。
長距離の移動手段として空港(空路、飛行機)は10代くらいの未成年にはちょっとゼイタクといいますか、背伸びをしている、飛躍を希求している、恋に恋している態度のうつし鏡に思えてモチーフの選択や状況の設定が絶妙です。勝手にあどけない若者が主人公である、と仮定してしまっての解釈ではありますが……。
”恋の眠り 目覚めさせてく 見知らぬ空 夢色の 夜間飛行(ミッドナイトフライト)”(『北ウイング』より、作詞:康珍化)のラインに注目。自分とは異なる人生経験を積んだ彼。主人公のまだ知り得ない、己の光の行き届かないあれこれ=夜、深夜(ミッドナイト)の荒涼な原野が彼のなかにあるのです。そこに飛び込みたい、探求をおっ始めたいという行動の飛躍・飛翔が表現された歌詞が動きに満ちていて活き活きとします。
あるいは大地を一歩一歩、己の体力にも筋力にも精神力にも鞭打って踏み締めるでもなくとも、空路という己の外部にある巨大なテクノロジーを利用してしまえば、己の身の丈を大きく逸脱した極端・突飛な行動を実現させてしまえるこわさ、おろかさを時に世の中のしくみは拒まないどころかうっかり促進してしまうこともあります。主人公の神秘の愛の模様を門外漢として一歩引いてみるとそうした風刺や冷笑のちょっといじわるな観点も立つかもしれません。私の心が地面にこびりつきすぎなのでしょうか。
北ウイング 中森明菜 曲の名義、発表の概要
作詞:康珍化、作曲・編曲:林哲司。中森明菜のシングル、アルバム『ANNIVERSARY』(1984)に収録。
中森明菜 北ウイングを聴く
サビはじまりの構成。ど頭のサビの最後のフレーズ“不思議な力で”のおしりを長く長く伸ばし、暗い空のむこうにある彼の心に思念を飛ばします。
サビの歌声の艶めきとの対比もありAセクションの歌唱の「息だけかっ!」とつっこたくなるくらいのか弱さがすごい。エレキギターのギラつくリードトーンから、コーラスがかったような伴奏トーンへのスイッチもきわだちます。ベースのフレーズが非常に語彙堪能。短2度でずりずりと心の傷を縫い合わせます。8分のストロークを断続的な信号みたく連ねて、己の外部機関の蠢き(都会の交通機関)を表現するみたいです。このベースに、ポス!とまとまりのよいサウンドのドラムスが等間隔で杭をうちます。キックの四つ打ちを用いています。
不意に胸に飛び込む、それが返事よ……と歌ったあとでリズムが緩みます。夜間飛行を経て彼のもとにありついたのでしょうか。それからの数時間くらい、どうなっていったのかを朝日にかくしてめくらましをするみたくビートがやむ。そしてビートを取り戻して最後のコーラスに突入。バックグラウンドボーカルが、いままでどこに隠していた?!とツッコミたくなるギラついた牙をむきだしにして直情をぶつけにくる英語の歌唱。これが主人公の本性の代弁でしょうか。やっぱり夜間に空路に乗って会いにいくという、恋愛にかけるエネルギーが想いの強さを物語ります。どうでもいいと思っている彼のもとへは、そうまでして会いに行かないのは当然でしょうから。
青沼詩郎
参考Wikipedia>北ウイング、ANNIVERSARY (中森明菜のアルバム)
『北ウイング』を収録した中森明菜のアルバム『ANNIVERSARY』(1984)