「ゲッダウン!」後手を取り戻す威勢
オルタナティヴロックみたいなイントロのエレキが心をわさわささせます。何が起こるものか挑む好戦的な気持ちを誘います。
弱起(ここでは頭1拍ぶん空けて)からの「ゲッダウン」の濁音で勢いをつけたリズムでくちづけを奪うかのように意表をつくサビが命。小節のあたまからきっかりフレーズが始まると強い印象を与える傾向がありますが、この楽曲のサビは頭1拍を休みにして「ゲッ」の濁音と2拍目ウラにかかる移勢のリズムで印象の強さを取り戻している、挽回している、形勢逆転しているような爽快さがあります。続く「白いビルの……」のモチーフが対照的になめらかです。歌詞も都会的な情景を思わせます。
都会的な情景と、落ち着きを己に命じ人という字を手のひらに書いて呑み込むみたいにタバコに頼る主人公がぽつんと取り残されます。“ボクはひとり 星を見つめ あせってしまう”。楽曲のスピード感に置いてけぼりをくらう人物(心)のコントラストが活き活きとしています。
筒美京平さんはさながら、音楽のガワ(ファッション、コスプレ、被り物)の質感を仕入れてトータルコーディネイトする幻術師です。
本曲は近田春夫&ハルヲフォンのカバー(『電撃的東京』1978年収録)もあります。併せてリスニングを楽しんではいかがでしょうか。
恋の弱味 郷ひろみ 曲の名義、発表の概要
作詞:橋本淳、作曲:筒美京平。郷ひろみのシングル(1976)。
郷ひろみ 恋の弱味(配信『ALL THE SINGLES』収録)を聴く
主人公にとってヤバい状況といいますか、あまり芳しくはない恋の形勢を歌った曲だと思うのです。にも関わらず、この無根拠な無敵感はなんなのでしょう。
音楽ジャンルもよくわからない。イントロの4度だかの空虚な音程を重ねたエレキギターの響きは1990年代以降のオルタナティヴロックのような気分に私をさせますし、ブラスがバーンと堂々とメンチを切るさまはビッグバンドとかバップのようなジャズ楽団な気分もします。8分割のパンチあるリズムを連ねるビート・ロックのような気もするし、もちろん歌謡としても有資格。広義のアイドル音楽は雑食だと思います。どこかのジャンルに強いてハメるならそこでしょうか。しかし軽薄で女々しいと筋骨隆々の硬派な輩に笑われるような尻込みは一歳なく、むしろジャンルやアイデンティティにおのずからはまりに行くすべての手駒諸君を高い上空から見下ろして世界を巡るような余裕と勢い……すなわち私の冒頭に記した「無敵感」が漂うのです。
サビの「ゲッダウン」の印象が強い。そのモチーフの優れるゆえんはまえがき(冒頭)の項目に記した通りです。メロのボーカルは強く明瞭なドラムトラックに埋もれてしまいそうに儚い。ベースの音色がきわめてひきしまっていてハイテンション、スリルを私にもたらし疾走します。左右に分かれたエレキギターがそれぞれにリズムを刻み、オブリガードを垂らし込みます。華やかでジャンルのクロスオーバーを決めるオケの中に飛び込んだ位置から郷さんのうっすらダブルをまとったリードボーカルの音色、「フフフー」とかなんとか女声のバックグラウンドボーカルが理想のダンスを踊ります。
どこに分類していいかがわからない。所在がない。なのに、自分はここにいる。出身地や出生地は別にある。未来を絶望しているわけでもないが現実が満たされているわけでもない。この浮遊したポジショニングはなんだ。東京の街のアイデンティティにも似ています。スカイハウスなんぞいう建物やら白いビルが林立する街の間で、個人の叫びは儚く霧散します。その叫びを代弁し永遠に、リージョンレスに昇華するのが本曲の痛快な魅力です。伏せろ!Goが通るぞ!という無敵感。
青沼詩郎
『恋の弱味』を収録した『ALL THE SINGLES』(1997)