作詞:荒木とよひさ、作曲:三木たかし、編曲:佐藤準。わらべのシングル(1983)、アルバム『もしも明日が』(1984)に収録。テレビ朝日『欽ちゃんのどこまでやるの!』に用いられた。

リスニング・メモ

編曲が驚くほど豊かです。いちアイドル・ソングを飛び越えて芸術的な意匠を覚えるほど。

作詞は『四季の歌』の作詞・作曲の荒木とよひささん。狭い音域で歌いやすく叙情豊かな世界を紡ぎ口伝てに流行を起こしたという『四季の歌』に通ずるわびさびを『もしも明日が』にも見出せます。

作曲は『アンパンマンのマーチ』の三木たかしさん。歌詞のもつコンパクトで観念的な韻律の反復を印象的な跳躍で彩るメロディ。大胆に思えるのに味わいは繊細。短調の儚げな曲調のせいでしょうか。和音の光り・翳りのわびさび。

編曲の佐藤準さんは、名曲漁りをしている私はその名前にしばしば出会います。音楽の世界でとても信頼を寄せられているのがWikipediaをざっと見ただけでも伝わってきます。

『もしも明日が』のリスニング話に戻します。ベースのアタックとキックが見事に一体になっていて、稀有な気持ちよさ。

複弦のトレモロはマンドリンでしょうか。バンジョーもいる感じ。しんみりとした撥弦楽器はひょっとして琵琶? 1オクターブ低いマンドリンもいるような感じがしますし、詳細はわかりかねますが音づかいがとにかく多彩・多岐で、なおかつうまく機能しあっている見事な編曲。

クラリネットがオブリを入れる、転調後にはトロンボーンの顔も見えてくる。エンディングには悲壮な歌モチーフの再現。シンセサイザーの仕事なのか、生楽器の音をイメージしたトーンでしょうか。エレキギターっぽい音色のリードが、生ギターのぎすぎすした荒々しさがない。しんみりとして沈痛なのです。(私の勘違いで、生音の録音かもですが)

まっすぐな歌声が儚い。バックグラウンドボーカルのオブリが華やかで、タイミングをずらしてメインモチーフにある音形で追っかける、あるいはオリジナルのモチーフがメロディアスでどれが主役が見紛う、多声音楽かと思うくらい。ボーカル群にはテレビ番組関係のタレントさんも加わっているようですが、そうしたキャスティングが呈するのは「色モノ感」ではなく高い音楽性で、録音作品として私は畏怖するばかりです。

後記

複数の撥弦楽器トーンが醸す哀愁と儚いボーカルと確かなベーシック演奏、豊かすぎる編曲……見どころに惑う素晴らしい録音。楽曲の粒立ちの良さをリスニング中は忘れてしまいそうになりますが、聴き終えるとやはり楽曲の良さ、儚く手に取り難い観念的な愛とあわれみとせつなさ、叙情を引き出し・増幅するのに成功した傑作だと思えます。「ウェルメイド」の褒め言葉でも私の感嘆を現しきれません。聴き終えても楽曲の思念が残るみたいに余韻します。

“欽どこ”作品ですね。私は番組が人気を博していたであろう時期に生まれていませんでしたから、想像に頼るしかありませんが動画サイトなどに散るかけらを見知ってなんとなくイメージを持っています。『めだかの兄妹』もこの島一連の有名作のひとつでしょう、そちらも作詞作曲は荒木とよひさ・三木たかしご両人で編曲は教授(愛称で失礼)こと坂本龍一さん。

欽どこ島の関連作品を集めたコンピ、『ゴールデン☆ベスト イモ欽トリオ & わらべ ~欽ドン! 欽どこ!? 秘蔵っ子!!~』をみるに、荒木さん&三木さん以外にも細野晴臣さん、鈴木慶一さん、吉田拓郎さんなどと、提供や編曲に目玉が飛び出る名前が散見。しばらくこの島周辺うろうろ確定な私です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>もしも明日が…。

参考歌詞サイト 歌ネット>もしも明日が…。

わらべ『もしも明日が』を収録した『ゴールデン☆ベスト イモ欽トリオ & わらべ ~欽ドン! 欽どこ!? 秘蔵っ子!!~』(2011)

『もしも明日が』を収録したわらべの同名のアルバム(オリジナル発売年:1984)

『もしも明日が』を収録した『めだかの兄妹~わらべ全曲集~』(1995)